【ニュース】OCCTOが電力供給計画を公表、2032年度に石炭32%を占める見通し


2023年3月30日、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が「2023年度供給計画の取りまとめ」を公表しました。これは電気事業者1,816者が提出した供給計画をOCCTOが取りまとめたものです。

ここで示される「供給計画」とは、電気事業者が作成する今後10年間(2022年度~2032年度まで)の電気の供給並びに電源や送電線等の開発についての計画です。昨年G7では「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化する」との合意をしており、その実行に向けた日本の姿勢が問われていますが、2032年になっても電源構成比率における石炭の比率は現状からほぼ変化がなく、再生可能エネルギーは微増に留まるなど、2030年電源構成の見通しにも及ばないことが明らかになりました。

2032年度のエネルギーミックスで石炭の占める割合は32%

今回の取りまとめで示された送電端電力量の推移と見通しから、気候ネットワークが試算した2032年度のエネルギーミックスは以下のようになることがわかりました。

昨年公表の取りまとめによると2031年度の石炭の比率は32%で、今回公表された2032年度でも変わっていません(32%)。すでに各国が石炭だけではなくLNG・石油なども含めた化石燃料全体からの脱却を進めている中で、日本の電気事業者は10年後も石炭火力に大きく依存する計画を立てていることになります。

また、第6次エネルギー基本計画では2030年度までに再生可能エネルギーを36~38%にすることが目標とされていましたが、事業者の計画では2032年度になっても未だ再生可能エネルギーの割合(31%)が目標を達成していないことがわかります。

図:送電端電力量の推移と見通し(電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2023年度供給計画の取りまとめ」より気候ネットワーク作成)

減らない火力の設備容量

全体の設備容量は10年にかけて増加する見通しです。

電源別に見ると水力と原子力は横ばいですが、水力以外の新エネルギーの設備容量は約4,000万kW増加する見通しです。

火力では石油の減少が続いていますが、10年後においても石炭は横ばい、LNGは約290万kW増加します。なお、石炭火力発電所は2022年度内に約300万kW分が新設されたにも関わらず、事業者の供給計画からは設備容量が減少している傾向はみられず、2030年のエネルギーミックス(石炭19%程度)に向けた削減計画も示されていません。

図:設備容量(全国合計)(電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2023年度供給計画の取りまとめ」より気候ネットワーク作成)

新設・廃止計画からは事業者の石炭依存方針に変化は見られず

今後は気候変動対策のため、既存の石炭火力発電所の2030年フェーズアウト(段階的廃止)に向けた実質的削減を進めるべきところですが、2032年度までの廃止計画は、たったの5地点、85万kW分にとどまっています。

石炭火力の新設は、前年度の「2022年度供給計画の取りまとめ」の7地点、482万kWから3地点、180万kWに減りましたが、これは残念ながら、石炭火力4地点(302万kW)が2022年度に稼働を始めたためです。
この残り3地点(西条1、横須賀2)については、このまま順調に建設が進めば、2023~24年度中に運転が始まってしまいます(横須賀石炭火力建設に対する反対運動はこちら)。

石炭火力発電は効率の高低に関わらずCO2を大量に排出するため、気候変動対策の観点から先進国では2030年までに廃止するべきとされています。日本の石炭依存の体制はグテーレス国連事務総長の言葉を借りれば「気候変動地獄へと向かう高速道路を、アクセルを踏んだまま走っている」ことにほかなりません。

また、経産省へのOCCTOの意見では、容量市場の落札結果から「LNGの休廃止が増加している一方で、石炭の休廃止が進んでいない」ことを挙げ、「休廃止には慎重な判断をするよう再考を促している」としています。しかし実際は、LNGも新設計画が廃止を上回っている点には留意しておくべきでしょう。

表:2032年度末までの火力発電の新設・廃止計画

(電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2023年度供給計画の取りまとめ」より気候ネットワーク作成)

石炭火力の設備利用率は約7割を維持

以下は電源別の設備利用率を示した図です。

火力は前年度公表された供給計画における設備利用率と同様の傾向です。石炭が約65%とほぼ横ばい、LNGは2032年度にかけて設備利用率が1割ほど減る見通しとなります。

政府は「非効率石炭」火力の発電電力量を減らすため、容量市場の制度を通じて2025年度から50%以下に設備利用率を下げるよう誘導するとしています。
(非効率石炭:亜臨界(Sub-C)、超臨界(SC)の石炭火力発電)

しかし、「非効率石炭」にあたる発電所の廃止計画が進むどころか、現段階の計画では10年後にも高い設備利用率で利用し続けることが図からわかります。
政府は2030年までに「非効率石炭」の「フェードアウト」を見越していますが、事業者から提出された計画からはその道筋が全く見えず、本当に「フェードアウト」できるのか、厳しく見ていく必要があります。

図:電源別設備利用率(電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2023年度供給計画の取りまとめ」より気候ネットワーク作成)

原子力の2023年度の稼働率は25%以上にまで上がり、その後20%弱になる見込みです。
また、地熱・バイオマス・蓄電池の設備利用率は10年間で10%以上の伸びが見込まれています。とはいえ、この図からは2032年においても石炭およびガスへの割合が高い状態であことが明らかです。

最後に

経産省は現在「火力の脱炭素化」と銘打って、いまだ実証段階にある水素・アンモニア混焼やCCSのための制度やサプライチェーン整備を支援し、火力維持の方向に突き進んでいます。

しかし本当に支援するべきなのは、省エネやディマンドレスポンス(DR)などの需要サイドの対策や再生可能エネルギー、変動性の再生可能エネルギーを活用するための系統の柔軟性向上など、すでに確立されていてコストの安い技術です。

国際的には再生可能エネルギーへの転換がますます進んでいます。
昨年G7が合意した「2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化する」という目標にコミットするためにも、政府は事業者に火力維持ではなく再生可能エネルギーに転換するようシグナルをはっきりと発し、転換に向けた政策立案・支援をしていくべきでしょう。

参考:
・電力広域的運営推進機関「2023年度供給計画の取りまとめ」(2023年3月)
・(昨年度の記事)Japan Beyond Coal「【ニュース】OCCTO電力供給計画を公表、2031年度に石炭32%を占める見通し