2026年、ヨーロッパの熱波、ネパール・チベットの氷河崩壊による大洪水、米グランドキャニオンの洪水などの災害が世界中で発生しています。日本でも連日、集中豪雨による水害や台風の迷走が報じられており、世界のどこにいても、地球温暖化による気候変動の影響からは逃れられません。
年々甚大な災害が増える中、2026年9月2日、国連環境計画(UNEP)が「今後数年以内に、産業革命前からの地球の平均気温の上昇が1.5℃を超える見込みである」との報告書『Limiting Overshoot(仮訳:オーバーシュートの抑制)』を発表しました。1.5℃は、気候変動を抑えるために2015年の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)におけるパリ協定で世界が合意した目標です。しかし、本報告書は世界の気温上昇が1.5℃を超える「オーバーシュートの時代」に入ってしまったとして、1.5℃をどの程度超えるのか、どのぐらいの期間超えるのか、残された選択肢は何かを考える段階になったと述べています。
気温上昇は数年内に1.5℃を超過、その影響は
厳しい現実
「オーバーシュート」とは、世界の気温上昇が1.5℃を超過している状態を示す言葉です。
世界の平均気温は2024年に単年で1.5℃を超えたとされていますが、UNEPの本報告書は、長期的な見通しにおいても数年内に産業革命前の水準から1.5℃を上回るとの見通しを示しています。
UNEPの推計によると、各国の現在の政策の下で予測される地球温暖化の中央値は2100年までに約2.6°C(範囲:1.9~3.6°C)に到達します。すべてのNDC(国が決定する貢献)および長期的なネットゼロ目標の実施を前提とした最も楽観的なシナリオの一つでさえ、地球温暖化の中央値の推定値は1.8°C(範囲:1.7~2.2°C)に達するとみられており、どのシナリオにおける中央推定値でも、今後10年以内に1.5°Cを超えると示されています。
オーバーシュート(1.5℃超過)の影響
1.5°Cを超過すると、リスクや影響は0.1°C上昇するごとに深刻化していきます。被害の顕在化は時間軸によって異なることもありますが、具体的な例として以下の可能性が挙げられています。
- 異常気象の激化、生態系の喪失、小島嶼開発途上国(SIDS)や低地沿岸都市の水没。気温上昇が3度以下にとどまる場合でも、2100年までに氷河の質量の4分の1以上が失われ、海面が12.5cm上昇する可能性がある一方、損傷または分断された生態系は気候変動を加速させる恐れがある。
- 人々の健康、食料安全保障、水供給、自然、都市、インフラ、経済に深刻な被害をもたらす。例えば、効果的な適応策が講じられない場合、2050年までに世界の食料生産量は最大14%減少する可能性がある。
- 閾値を超えてしまうと、人間の時間スケールで元に戻すことは困難あるいは不可能となる。潜在的なティッピング・ポイント(転換点)としては、氷床や大西洋子午面循環(AMOC)、アマゾン熱帯雨林における不可逆的な変化などが挙げられる。
1.5℃を超過した時点で安全なシナリオは存在しません。1.5℃を超える温暖化のもとでは、誰もが被害を受ける可能性が高いということです。

1.5℃を諦めるな
UNEPは、1.5℃の目標の重要性を強調し、1.5℃を諦めるべきではないと主張しています。気温上昇を1.5°Cに抑えることの目標は維持しつつ、目標値を超過してしまった場合には今まで以上の取り組みと同時に、気候変動の影響への適応を進めることが求められています。つまり、1.5℃目標を撤回するのではなく、1.5℃目標を念頭に排出削減努力を続け、さらに上回る成果を目指すとともに、緩和策と適応策をより迅速に推進する必要に迫られているということです。

この図には、我々が直面している3つの相互に悪影響を及ぼし合う課題と、今必要なアクションが示されています。
アクション
① 排出を削減し、その影響に対処する
② 温暖化のピークを低く抑え、リスクを管理する
③ 持続的に排出を減少させ、適応を拡大させる
迅速かつ協調的、かつ世界規模の行動が不可欠であり、温暖化のピークを低く抑え、オーバーシュートの期間を短縮することで、リスクや影響を軽減し、地域社会が対応するための取り組みの負担や費用を軽減するとともに、気温を再び低下させる可能性を高めることができると指摘しています。
再び1.5℃まで下げる可能性を高めるために
これまでも国連や研究機関は、現在の温室効果ガス排出の削減ペースでは1.5℃目標の達成が難しいと警告してきました。その中で、オーバーシュートはなんとしても回避しなければならない状況であるとされてきましたが、現状を踏まえれば、オーバーシュートは不可避な可能性があるとの議論が活発になってきていました。本報告書は、真正面からオーバーシュート後の対応策を取り上げており、1.5℃超過後をいかに緩和させるかに重点が置かれています。
地球温暖化をわずかでも抑制し、気温上昇が目標値を上回る期間を短縮するために必要なことは、温室効果ガスの排出を徹底して削減することです。さらに、公平性と気候正義、公正な移行の重要性にも言及しています。これらは、将来の世代のために住みよい未来を確保するための戦略の中核をなすものです。また、緩和策と適応策は相互に関連し、互いに補完し合いつつ推進すべきものであるとも述べています。技術的な策として、大気中の二酸化炭素を人工的に除去して長期貯蔵・固定化する技術(CDR)が必要となるものの、CDRは温室効果ガスの排出を持続的に削減することに代わるものではなく、排出削減をした上で必要となるものであると指摘。さらに、これらの手法にはリスクやトレードオフが伴い、その可能性が制限されるため、責任ある適切な導入を保証する強固なガバナンスの枠組みが必要であると記されています。
未来に向けて
報告書は、気温上昇を1.5℃以下に抑えられるかどうかは不透明であり、仮に1.5℃未満に抑えることができたとしても、多くの国や地域社会は取り返しのつかない損失や、恒久的に変化した状況に直面することになると警告しています。気候変動の影響に対処するためには、包括的な新たなガバナンス体制が必要です。
26年11月にトルコ・アンタルヤで開かれる第31回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP31)でもオーバーシュートへの対応がどのように議論されるのかが注目されます。
【報告書】
- Press Release: UNEP: World set to cross 1.5°C global warming, but can still limit, adapt to and return from higher temperatures
- Report Download: Limiting Overshoot: Navigating exceedance of 1.5°C and pathways towards return
- UNEP Web Story(動画あり)
Overshoot explained: 5 things to understand about a world beyond 1.5°C - Key Message: UNEP, LIMITING OVERSHOOT, COMMS KEY MESSAGES
【関連情報】
UNEP: Emissions Gap Report 2025
作成・発行:国連環境計画(UNEP)
発行:2026年9月2日
