【レポート】BNEF長期エネルギー見通し日本版 発表


7月25日、ブルームバーグNEF(BNEF)が、世界全体を対象とした「New Energy Outlook(邦題:長期エネルギー見通し)」を地域別・セクター別に掘り下げた分析リポートのひとつとして「New Energy Outlook Japan」を発表しました。日本版レポートでは、日本がネットゼロ経済への移行に伴う機会と課題を、2つのシナリオ分析を通して考察しています。

*BNEFは今回、世界全体の分析に加え、初めて中国、インド、日本、インドネシア、オーストラリア、米国、ドイツ、フランス、英国の国別分析を発表しています。

BNEFの2つの分析

  • 経済移行シナリオ(ETS):世界のエネルギー危機、ウクライナ情勢による影響、近年の市場の方針変更などによる影響を再考慮しつつ、経済性主導の移行を描いたもの。2100年までに世界の気温が2.6℃上昇すると想定している。
  • ネットゼロ・シナリオ(NZS):世界の気温上昇を2℃未満に抑えつつ、2050年までに排出量ネットゼロ実現を想定したシナリオ。排出量超過や実証されていない技術に依存することなく、パリ協定の目標を達成するための信頼できる道筋を描いたもの。

 

2050年までに世界がネットゼロを達成するというのは、非常に野心的な目標であるため、BNEFは、サプライチェーンの拡張能力や資産の入れ替え速度を過度に高めるような大きな変革を避け、達成可能なシナリオを設計しました。その結果、BNEFの「ネットゼロ・シナリオ(NZS)」は、2050年までに1.77℃気温が上昇する可能性が67%、1.5℃以内にとどまる可能性が33%、2℃以下にとどまる可能性が67%以上になると示されています。一方、コストに基づく技術革新の結果、エネルギー部門が今日からどのように発展していくかの評価を行った「経済移行シナリオ(ETS)」では、排出量は毎年平均0.9%減少し、2050年までに2.6℃の気温上昇となる(67%の確率)ことが見込まれています。

世界全体を見ると、2つのシナリオ曲線には大きなギャップが見られます。では、日本の分析ではどの程度の乖離が出ているのでしょうか。

日本は2050年のネットゼロ目標を設定し、電力会社、商社、メーカー、金融機関など多くの日本企業もネットゼロ目標を設定していますが、2030年の排出削減目標および2050年のネットゼロ目標に到達する道筋は描かれていません。

日本におけるネットゼロへの移行を加速させる鍵は電力セクターの脱炭素化

現在、日本の最大の排出源は電力部門であり、発電量の70%以上を化石燃料が占めています。いまだに火力発電への依存率が高く、再生可能エネルギーの拡大では他のG7諸国、さらにOECD加盟国に後れを取っています。日本が2050年ネットゼロへの移行を加速させる鍵となるのは、電力セクターの脱炭素化を成功させることです。以下に2つのシナリオのポイント比較を示します。

NZSの下では、日本が2050年までにネットゼロを経済に移行するには、エネルギー部門で計6.7兆ドルの投資が必要になるとされています。その内訳としては、エネルギー供給側で2.4兆ドル、風力発電と太陽光発電だけでも0.9兆ドル、化石燃料の使用による排出量を相殺するための二酸化炭素回収・貯留(CCS)に3,150億ドルが必要としています。さらに、需要側で4.3 兆ドルの投資が必要で、その大部分(3.8兆ドル)を電気自動車が占めると記されています。

また、NZSはCCSを重視しており、2050年までに産業部門における排出削減量の51%を占めるとする一方で、水素については2%に過ぎないと推定しています。日本でのグリーン水素製造コストが高いことや、輸入にかかる輸送コストが高いことなどから水素の普及は進まないと見ており、太陽光と風力による発電の導入を最大化させ、蓄電池や火力発電所におけるCCSの導入を進め、既存の原子力発電所を再稼働させることが、電力供給を脱炭素化する最も安価な方法であると記してます。 燃料アンモニアについては、経済性がないとの理由から、どちらのシナリオにも含まれていません。

産業別BNEFのネットゼロ・シナリオにおける排出量推移と経済推移シナリオとの比較

 

燃料の燃焼にともなうCO2排出量ーネット・ゼロ・シナリオと移行策をとらないシナリオとの比較

日本はエネルギー移行 – 再生可能エネルギーの導入 – を加速させるべき

日本は現在、2030年に2013年比で46%削減、2050年までにネットゼロの目標を掲げていますが、この目標を達成できる経路に乗れていません。日本には排出削減目標に沿った政策手段が必要です。水素に過剰に依存せず、既存の石炭火力発電所でアンモニア混焼を行うというコストが高く実証もされていない技術に投資するよりも、再生可能エネルギーの導入を加速させることによってネットゼロを実現することは可能であるとして、BNEFは日本が考慮すべき6つの主要な提言をまとめています。

  • 再生可能エネルギー発電事業の開発を加速させる
  • 停止していない化石燃料発電所の段階的廃止目標を設定する
  • 再生可能エネルギーのより高い導入を支援するため、送電網への投資を拡大する
  • 燃料自動車(ガソリン/ディーゼル車)の段階的廃止目標を設定し、モビリティの電動化を促進する
  • 日本の手厚い水素補助金を、クリーン水素用途に集約するようにシフトする
  • より厳格なカーボンプライシングメカニズムを導入する

 

関連リンク

BNEF
長期エネルギー見通しリポートより:日本は水素に大きく依存せずとも ネットゼロの実現が可能(リンク

レポート紹介ページ:
New Energy Outlook 2022(リンク
New Energy Outlook 2022, Regional Reports (リンク

参考

BNEFの別レポート
日本のアンモニア・石炭混焼の戦略におけるコスト課題(2022年9月28日)(PDF

 

作成・発行:BloombergNEF
発行:2023年7月25日