【レポート】IPCC統合報告書に裏付けられた脱化石燃料の重要性


気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
第6次統合評価報告書(AR6)に裏付けられた脱化石燃料の重要性

3月20日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は第6次統合評価報告書(AR6)を発表しました。AR6全体の概要については、国立環境研究所が政策決定者向け要約 (Summary for Policy Makers)を解説する資料を公開しています[1]ので、ここでは特に脱石炭の重要性を裏付ける論点を中心にご紹介します[2]

温暖化の原因、影響、適応、緩和

IPCCはAR6の「A.現状と傾向」についてのセクションで、温暖化の主な原因は人間活動に伴う温室効果ガスの排出であること(掲載箇所:A.1)、そしてその排出に占める割合と増加量が最も大きいのが石炭火力発電を含む化石燃料の燃焼及び工業プロセスであると指摘しています(A.1.4)。

  • 人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、1850〜1900年を基準とした世界平均気温は2011〜2020年に1.1°Cの温暖化に達した。(A.1)
  • 世界全体の正味の人為起源GHG排出量は、2019年に59±6.6 GtCO2-eqだったと推定されており、それは2010年に比べて12% (6.5 GtCO2-eq)、1990年に比べて54%(21 GtCO2-eq)多く、化石燃料の燃焼及び工業プロセス由来のCO2(CO2-FFI)がGHG総排出量に占める割合と増加量ともに最大で、メタンがそれに次いだ。(A.1.4)

 

IPCCは温暖化の影響については様々な不均衡が存在していること(A.2)を指摘しています。また、温暖化への適応に関しては一部の地域ではすでにその限界に達しており(A.3)、また現状の世界の国々の取組では温暖化が今世紀中にパリ協定の目標である1.5℃を越え、2℃以下に抑えることも困難になるとしています(A.4)。

  • 現在の気候変動への過去の寄与が最も少ない脆弱なコミュニティが不均衡に影響を受ける。(A.2)
  • 一部の生態系と地域では、ハードな(変化しない)適応の限界及びソフトな(変化しうる)適応の限界に既に達している。(A.3)
  • 2021 年10月までに発表された「国が決定する貢献(NDCs)」によって示唆される2030年の世界全体のGHG排出量では、温暖化が21世紀の間に1.5°Cを超える可能性が高く、温暖化を2°Cより低く抑えることが更に困難になる可能性が高い。(A.4)

 

温暖化対策の実効性と加速化

IPCCはAR6の「B.将来の気候変動、リスク、及び長期的な応答」のセクションで温暖化対策の実効性について、温室効果ガスの大幅で急速かつ持続的な排出削減が温暖化の進行を抑えられること(B.1、B.3)を指摘しています。一方で、温暖化の進行によって気候変動リスクが増大すること(B.2)、適応のためにとることのできる選択肢が制限され、効果が減少すること(B.4)を指摘し、対策をより早期に実施することの必要性を述べています。

  • 大幅で急速かつ持続的な温室効果ガスの排出削減は、約20年以内に地球温暖化の識別可能な減速をもたらし、数年以内に大気組成に識別可能な変化をもたらすだろう 。(B.1)
  • 気候変動に起因するリスクと予測される悪影響、及び 関連する損失と損害は、地球温暖化が進行するにつれて増大する。(B.2)
  • 将来変化の一部は不可避かつ/又は不可逆的だが、世界全体の温室効果ガスの大幅で急速かつ持続的な排出削減によって抑制しうる。(B.3)
  • 現在実現可能で効果的な適応オプションは、地球温暖化の進行に伴い制限され、効果が減少する。地球温暖化の進行に伴い、損失と損害は増加し、より多くの人間と自然のシステムが適応の限界に達する。(B.4)

 

より具体的には、温暖化を1.5℃または2℃以下に抑制するためにはこの10年の温室効果ガスの急速かつ大幅な排出削減が必要であり(B.5、B.6)、現状の石炭火力発電を含む化石燃料インフラをそのまま使い続ければそこから排出されるCO2の量は、1.5℃に抑制する上で世界に残されているカーボンバジェットを越えてしまうと予測しています(B.5)。また、最近日本政府が力を入れている二酸化炭素回収・貯留(CCS)については、重要な緩和のオプションであるとはしたものの、発電部門ではそれほど成熟していないとも指摘しています(B.6.3 注47)。

  • 温暖化を1.5°C又は2°Cに抑制しうるかは、主にCO2排出量正味ゼロを達成する時期までの累積炭素排出量と、この10年の温室効果ガス排出削減の水準によって決まる。(B.5)
  • 追加的な削減対策を講じていない既存の化石燃料インフラに由来するCO2排出量は、1.5°C(50%)の残余カーボンバジェットを超えると予測される(確信度が高い)。(B.5)
  • オーバーシュートしない又は限られたオーバーシュートを伴って温暖化を 1.5°C(>50%)に抑える全てのモデル化された世界全体の経路、そして温暖化を 2°C(>67%)に抑える全てのモデル化された世界全体の経路は、この10年の間に全ての部門において急速かつ大幅な、そしてほとんどの場合即時のGHG排出量の削減を伴っている。(B.6)
  • CCSは発電部門及びセメントや化学品の生産において、重要な緩和オプションであるが、石油・ガス部門と比べて、発電部門においてそれほど成熟していない。(B.6.3 注47)

 

そして温暖化が1.5℃を超えてしまっても(オーバーシュート)再び低減させることは可能であるが、影響とリスクはオーバーシュートの規模と期間とともに拡大すると指摘しています。(B.7)

  • 温暖化が1.5℃などの特定の水準を超えたとしても、世界全体で正味負のCO2排出量を実現し持続させることによって、温暖化を徐々に再び低減させうるだろう。(B.7)
  • このような影響及びリスクは全てオーバーシュートの規模と期間とともに拡大する。(B.7)

 

温暖化対策の緊急性と衡平性

IPCCはAR6の「C. 短期的な応答  短期的な統合的された気候行動の緊急性」のセクションの中で、改めてこの10年間に行う温暖化温暖化が将来に対して影響を与え、対策の加速化が気候変動による損失と損害を軽減することを指摘しています(C.1、C.2)。また逆に、対策を遅延することが石炭火力発電所のような排出量の多いインフラの座礁資産化やコストの増大を通じて、損失と損害を増大させることも指摘しています(C.2)。

  • 気候変動は人間の幸福と惑星の健康に対する脅威である(確信度が非常に高い)。全ての人々にとって住みやすく持続可能な将来を確保するための機会の窓が急速に閉じている(確信度が非常に高い)。(C.1)
  • この10年間に行う選択や実施する対策は、現在から数千年先まで影響を持つ。(C.1)
  • この10年の間の大幅で急速かつ持続的な緩和と、加速化された適応の行動 によって、人間及び生態系に対して予測される損失と損害を軽減し(確信度が非常に高い)、とりわけ大気の質と健康について、多くの共便益(コベネフィット)をもたらすだろう(確信度が高い)。(C.2)
  • 緩和と適応の行動の遅延は、排出量の多いインフラのロックインをもたらし、座礁資産とコスト増大のリスクを高め、実現可能性を低減させ、損失と損害を増加させるだろう(確信度が高い)。(C.2)

 

またIPCCは温暖化対策として求められるCO2ネットゼロのエネルギーシステムにおける化石燃料の利用については、消費全般を大幅に削減すること、排出削減対策の講じられていない使用を最小限にすること、そして残る利用においてCCSを実施することを求めています(C.3.2)。ここでの排出削減対策とは「ライフサイクルを通じて排出されるGHGの量を大幅に削減する措置」であり、具体例としては発電所の排出の90%を回収する策やエネルギー供給におけるメタン漏出量の50~80%を回収する策が挙げられています(C.3.2  注51)。したがって、現在政府と事業者が進めている石炭火力発電を延命するための取組、例えば、将来的にCCSを行うことを前提に旧型の石炭火力発電所にガス化設備を付加することで排出削減を行うとしているJ-PowerのGENESIS松島計画や、アンモニアを混焼するJERAの碧南火力発電所の実証試験(当面の混焼率は20%)などの取組が排出削減対策として認められるには、CCSの完全な実施や、グレーではなくグリーンアンモニアの利用、混焼率の拡大などいくつもの困難な課題を解決する必要があります。

  • CO2正味ゼロのエネルギーシステムには次が求められる:化石燃料の消費全般の大幅削減、排出削減対策が講じられていない化石燃料の最小限の使用、残る化石燃料システムにおける炭素回収・貯留の利用、CO2の排出が正味ゼロの電力システム、広範な電化、電化が適さない用途における代替的なエネルギーキャリア、省エネルギーとエネルギー効率、エネルギーシステム全体にわたるシステム統合の拡大。(C.3.2)
  • 本文脈においては、「排出削減対策が講じられていない化石燃料」とは、ライフサイクルを通じて排出される GHGの量を大幅に削減する措置を講じずに生産・使用されている化石燃料のことを指す。例えば、発電所の排出量の90%以上を回収する策やエネルギー供給におけるメタン漏出量の50~80%を回収する策である。(C.3.2 注51)

 

さらにIPCCは温暖化対策の実施における衡平性の観点の重要性を繰り返し指摘しています(C.4、C.5)。特に化石燃料への依存度が高い地域での政策において公正な移行の原則の考慮の必要性を強調しています(C.4.1)。

  • 気候変動の影響の緩和と適応における加速した衡平な行動が、持続可能な開発のために非常に重要である。(C.4)
  • 収入や雇用創出を含む目的で化石燃料への依存度が高い地域では、持続可能な開発のリスクの緩和には、経済やエネルギー部門の多様化、並びに公正な移行の原則、プロセス、及び慣行の考慮を推進する政策が必要である。(C.4.1)
  • 衡平性、気候正義、社会正義、包摂及び公正な移行のプロセスを優先することで、適応と野心的な緩和の行動、気候にレジリエントな開発を可能にする。(C.5)

 

まとめ

IPCCは今回発表したAR6において、この10年間に温室効果ガスの早期で大幅な削減を行うこと、特に化石燃料インフラからの排出を削減することが、今後、私たちやその子孫が気候危機から受ける被害を少しでも減らすためには不可欠であることを明確に示しています。日本もこの科学からの警告を真摯に受け止め、CCSのような乗り越えなければならない障壁が多く、成熟化もこれからの削減手法に過大な期待を寄せるのではなく、公正な移行に配慮した脱化石燃料政策への転換をこそ優先して進めていくべきでしょう。

注釈
  1. 国立環境研究所 IPCC 第6次報告書 統合報告書Summary for Policy Makers (政策決定者向け要約)解説資料(PDF
  2. 本記事での政策決定者向け要約の日本語訳は「政策決定者向け要約」文科省、経産省、気象庁、環境省による暫定訳【2023年4月17日時点】を参照した。(PDF

 

IPCCレポート掲載サイト

・IPCC:AR6 Synthesis Report: Climate Change 2023(リンク

関連リンク

・国立環境研究所 IPCC 第6次報告書 第3作業部会(IPCC AR6 WG3)解説サイト(リンク
・環境省 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)サイクル(リンク
※「政策決定者向け要約」文科省、経産省、気象庁、環境省による暫定訳はこちらのサイトから入手可能です。

 

作成・発行:IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)
発行:2023年3月20日