2026年6月30日、経済産業省は脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(以下、水素社会推進法)に基づく価格差に着目した支援制度につき、経済産業大臣および国土交通大臣による認定を受けた「低炭素水素等供給等事業計画の概要」を発表しました。この価格差支援制度は、低炭素水素・アンモニアと従来の化石燃料との間の価格差を補填し、財務的な支援を行うことを目的としています。石炭火力発電所でのアンモニア混焼は、2025年12月にこの価格差支援制度によって初めて支援対象となりました。
7社のアンモニアサプライチェーン構築を支援
今回認定された事業計画は、インド・オディシャ州のACMEグループが再生可能エネルギー由来の電力を用いた水電解で製造する低炭素アンモニアを、日本の企業7社に供給する計画です。供給されるアンモニアは発電用の燃料としてだけでなく、化学用途やその他の産業用途の原材料として利用することが見込まれています。株式会社IHIによる発表では、この事業計画は「脱炭素の推進」に貢献すると位置づけられていますが、アンモニアを石炭火力発電所で石炭と混焼する場合には、当面、主燃料である石炭の割合が高いため、排出削減効果は大きくありません。
| 参画企業 | 認定供給等事業計画の概要 | アンモニアの量 | 実施期間 |
| 株式会社IHI 株式会社コベルコパワー神戸 住友化学株式会社 日本甜菜製糖株式会社 北海道電力株式会社 三菱ガス化学株式会社 UBE株式会社 | インドで製造される低炭素アンモニアを日本へ輸送し、供給する計画。供給される低炭素アンモニアは、石炭火力発電所での混焼や化学製品の原料等の用途として利用される。 | 228,000トン(年間) | 2030年9月~2055年8月 |
なお、北海道苫小牧地域では、2030年度までに低炭素アンモニアの供給拠点を構築する計画が進められており、2026年3月に拠点整備支援制度の認定を取得しています。
「混焼」の裏で石炭火力発電を維持する計画
石炭火力へのアンモニア混焼は温室効果ガスの削減効果が限定的であり、石炭火力発電所の「延命策」にすぎないと批判されている中、石炭火力におけるアンモニア混焼を支援するための計画に資金を充当させることは、政策本来の目的に逆行するものです。たとえ輸入されるアンモニアが再生可能エネルギーによって製造されたものであっても、混焼率が20%にとどまる限り、膨大な量の石炭火力発電が維持されることに変わりはありません。
政府の補助金頼みのアンモニア混焼
株式会社コベルコパワー神戸は既存の神戸石炭火力発電所でのアンモニア混焼を計画しており、北海道電力株式会社は供給されたアンモニアを自社の苫東厚真石炭火力発電所で混焼する計画(ロードマップ)を示しています。
上述の株式会社コベルコパワー神戸と北海道電力株式会社は、すでに電力の安定供給と脱炭素化を両立させるための制度である「長期脱炭素電源オークション」で落札した実績があります。コベルコパワー神戸は神戸発電所1号機をアンモニア20%混焼に対応させる改修案件で落札しており、北海道電力は2030年度にアンモニア20%混焼を開始するための計画および2032年度にアンモニア40%混焼を目指す計画を落札しています。アンモニア混焼には多くの不確実性が伴うにもかかわらず、政府からの多額の支援が行われることになります。
燃料アンモニアはコストが高く、常に経済合理性が疑問視されています。「長期脱炭素電源オークション」による資金投入や水素社会推進法のもとでの価格差支援がなければアンモニア混焼は成り立ちません。特にアンモニア価格は不安定な上、将来の価格を見通すのは難しい状況です。低炭素水素等供給等事業計画では支援期間中の供給量が記されているのみで、どのように支援金が分配されるのかは公開されず、透明性の点でも問題があります。実質的な削減効果も算出されていない計画に脱炭素政策に向けるべき公的資金が実際の金額も公開されないまま投じられることになります。そして、最終的に支援金のコストは電気料金を通じて消費者の負担となることが懸念されます。
経済産業省の発表によると、今回認定された事業計画の実施期間は2030年9月から2055年8月までで、年間228,000トンの低炭素アンモニアを供給する予定となっていますが、事業に関わる各社への分配予定量についても公開されていません。
結局のところ、国外から調達するアンモニアを燃料として石炭と混焼する計画が、日本の「2050年カーボンニュートラル」のロードマップのタイムラインと整合するとは考えにくいのが現状です。
アンモニアの活用方法はさまざまです。化学工業や長距離船舶において低炭素アンモニアの需要が高まる中、国外で製造され輸入される低炭素アンモニアを大量に燃料として燃焼してしまうのは愚策としか言えません。グリーンアンモニアでも燃料として石炭と混焼させれば排出削減効果は限定的です。サプライチェーンの構築はともかく、石炭火力発電所で従来の化石燃料と混焼するために、化石燃料との差額を価格差支援制度で補填しようとの戦略は、脱炭素の目標達成を危うくしています。
参考資料
- 資源エネルギー庁:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法) 9.認定供給等事業計画 掲載
低炭素水素等供給等事業計画の概要(2026年6月30日)

