【レポート】IEAが石炭に関連する2つのレポートを発表


国際エネルギー機関(IEA)が2022年11-12月にかけて、石炭に関連するレポートを2本発表しました。その概要をお伝えします。

■ Coal in Net Zero Transitions: Strategies for Rapid, Secure and People-Centred Change

11月15日に発表されたこのレポートは、世界エネルギー見通し(原題:World Energy Outlook)シリーズの一環として、経済活動と安全保障を損なうことなく、石炭からの二酸化炭素(CO2)排出削減を達成する実用的で現実的なガイダンスとなっています。世界のネット・ゼロ目標を達成し、気候変動による深刻な影響を回避するにあたり、IEAの3つの評価シナリオのうち、2021年6月末までにネットゼロ宣言をしたすべての国が目標を達成するとしたシナリオ(APS)でも2050年までにエネルギー分野だけで約6兆ドル、2050年世界ネットゼロを達成するためのシナリオ(NZE)では9.5兆ドルの投資が必要になると記されています。石炭火力発電からクリーンエネルギーに移行するためには、早急に大規模な資金調達を行い、特に新興国および発展途上国においては、安全かつ手頃な価格で公正な移行を進めるための政策が求められています。

石炭は今でも世界で最も多く利用されている発電燃料であり、本レポートによれば、2021年時点で稼働している石炭火力発電所の総発電容量は2,185ギガワット(GW)と、世界の電力の36%を占めています。NZEシナリオでは今世紀半ばまでにこの石炭の使用を90%減少しなければなりません。各国が公表している削減目標が予定通り完全に達成されれば、既存のUnabatedな(削減対策が施されていない)石炭火力発電所による出力は、2021 年から 2030 年の間に約 3 分の 1 減少し、その 75% が太陽光と風力に置き換えられことになります。1.5℃目標を達成するには、排出削減のない石炭火力発電所はもはや建設できません。さらに、本レポートでは、石炭からの移行において「人を中心とした(クリーンエネルギーへの)移行(people-centerd transition)」を促進する政策の必要性も強調されています。

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IEA PR:Supercharging growth of solar and wind is vital but not enough on its own, new IEA report finds, calling for rapid financial mobilisation to drive secure, fair and affordable transitions worldwide(2022年11月15日)
https://www.iea.org/news/achieving-a-swift-reduction-in-global-coal-emissions-is-the-central-challenge-for-reaching-international-climate-targets(動画あり)
レポートダウンロードサイト(リンク

■ Coal 2022

IEAは2018年以降、毎年石炭に関する現状分析をするレポート「Coal」を発表し、2022年版が今年12月16日に発表されました。エネルギー安全保障と地政学的な緊張が高まる中、石炭の需要、供給、貿易、コストおよび価格に関する最近の傾向を分析したものです。2022年、世界の石炭需要の増加に伴い、消費量は1.2%増加し、9年ぶりに過去最高を更新するとの見通しが示されました。アジア新興国の石炭需要は引き続き高いと見られていますが、ヨーロッパの消費量増は一時的であり、昨年のレポートで示された「世界の石炭需要は 2022 年または 2023 年に新たなピークに達し、その後は横ばいになる」との予想は維持されるとの見解が示されています。

2022年、石炭価格の上昇や再生可能エネルギーの積極的な導入とエネルギーの効率化、さらにコロナの影響による世界の経済成長の鈍化により、石炭需要は抑えられています。石炭の最大の使用用途である発電部門での消費は2%強増加しましたが、産業部門での石炭消費は、主に経済危機下で鉄鋼生産が減少したことで1%以上減少すると予想されています。

発電においては、主にインドと欧州連合 (EU)での影響を受け、米国での減少にも関わらず、2022 年に2021年の数字を上回ることが見込まれています。確かに、ヨーロッパでは、再生可能エネルギーの導入を加速し、状況に応じて原子力発電の寿命を延ばす策を講じたものの、風力発電と太陽光発電の成長が水力発電と原子力発電の出力低下を相殺するには不十分だったため、燃料の切替の波が起こり、より価格競争力のある選択肢である石炭火力による発電量が増加しました。とはいえ、欧州における石炭の揺り戻しは10GWの増加が見られたドイツの影響が大きく、エネルギー効率の改善と、再生可能エネルギー拡大に向けた努力の倍加により、EU の石炭発電の状況および石炭需要は、早ければ 2024 年には下降軌道に戻ると予測されています。さらに、世界レベルでは、2025 年までの追加電力需要のほぼ 90% が新規の再生可能エネルギーによる発電で賄うことができるとの予想も記されています。

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IEA PR:The world’s coal consumption is set to reach a new high in 2022 as the energy crisis shakes markets(2022年12月16日)
https://www.iea.org/news/the-world-s-coal-consumption-is-set-to-reach-a-new-high-in-2022-as-the-energy-crisis-shakes-markets
Coal 2022のExecutive summary(リンク
レポートダウンロードサイト(リンク

作成・発行:国際エネルギー機関(IEA)
発行:2022年11月15日/12月16日