【ニュース】松島火力発電所の休廃止とGENESIS松島計画の今後について


4月1日、電源開発株式会社(Jパワー)松島火力発電所は、1号機が5月1日の廃止に向けた長期計画停止、2号機は長期計画停止となりました(発電情報公開システム(HJKS)「停止情報一覧」参照)。このことは、GENESIS松島計画の2年延期と松島火力発電所の既存2基を2024年度末をもって休廃止することという2023年10月のJパワーの発表どおりで、今回の休廃止はその予定に沿ったものとなります。そして、Jパワーは予定通りGENESIS松島の計画を水面下で着々と進めているようですが、本当にGENESIS松島は必要なのでしょうか。

この記事ではGENESIS松島計画の概要を確認した後、現在のこの計画を巡る状況を九州の電力需給、火力発電の設備利用率、「脱炭素」火力技術の現状の観点から考えてみたいと思います。

GENESIS松島計画の概要

GENESIS松島計画は既存の2号機に石炭ガス化設備とガスタービン、そして排熱回収ボイラーを後付けする計画です。計画ではガス化した石炭を用いたガスタービンで約11万kWを発電し、排熱回収ボイラーを用いて約7万kW分の蒸気を2号機のボイラーに供給します。これらを通じて石炭による発電出力を下げ、全体としては現2号機の出力と同等の約50万kWを維持しつつ、温室効果ガスの排出を削減しようとしています。また、将来的にはアンモニア・バイオマス混焼、CO₂の分離回収、石炭からの水素製造と水素発電も行うとしています。しかし、燃料に石炭を使い、部分的に石炭をガス化したところでCO2の排出を大幅に減らすことはできません。

GENESIS松島計画を巡る状況

GENESIS松島は九州の電力供給に必要?

GENESIS松島計画が進められている九州では、現在半導体工場やデータセンターの新設に伴い、電力需要が増加すると報道されています。しかし電力広域的運営推進機関(OCCTO)の2025年度供給計画の取りまとめ(以下取りまとめ)における電力需給想定では、需要電力は1,600万kWでほぼ一定であり、大きな需要の増加は見られません。このOCCTOの電力需給想定については保守的であり、九州電力ではより大幅に増加する可能性があると見ていると報道されています。一方で半導体工場やデータセンターを建設する事業者が系統枠の空押さえのために必要以上の電力供給を求める計画を電力会社に提出している実態も政府委員会に対して報告されており、むしろ想定されているほど電力需要が増えない可能性もあります。

取りまとめに記載されている予備率の推計ではGENESIS松島の稼働開始が計画されている2028年度に10%程度となることが予想されておりますが、その後も10~12%で推移するとしています。(この予備率はエリア間の供給力送受を考慮していないので、取りまとめにある過去の実績と同じ傾向を今後も辿るとすれば、予備率は数%程度向上すると考えられます。) これらを考えればGENESIS松島からの供給力が必須な電力需給状況とは捉えられません。すでに予備率も確保された状況であり、「電力需要が増えるかもしれない」という期待感で老朽火力に莫大な投資をして延命するべきでないでしょう。

九州の電力需給推定(8月)と予備率

出典:電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2025年度供給計画の取りまとめ」より気候ネットワーク作成

低迷が想定される火力発電の設備利用率

OCCTOの電源ごとの稼働率を見ると石炭火力については約57%から53%、LNG火力については約42%から35%と将来的に緩やかに減少していくと推定されています。なお、この設備利用率は全国合計に基づくものであり、再エネ比率の高い九州では火力の設備利用率はより低くなると想定するべきでしょう。

再エネ比率の高い九州では火力発電については調整用電源としての活用が中心となると想定され、GENESIS松島は出力制御がより柔軟なLNG火力に近い運用となると考えられます。その場合、設備利用率が40%を大きく上回ることは難しいのではないでしょうか。そのような設備利用率の石炭火力発電所を敢えて今から大きなコストをかけて建設する意義を見出すことは困難です。

出典:電力広域的運営推進機関(OCCTO)「2025年度供給計画の取りまとめ」より気候ネットワーク作成

「脱炭素」火力技術は時代遅れに

GENESIS松島計画によって削減される温室効果ガスの削減効果はJパワーの試算でも10%程度で、発電効率としては最新の石炭火力発電技術(超々臨界)と同程度になるにすぎません。また将来的なアンモニア・バイオマス混焼についてはその開始時期も規模も不明確なままです。そして石炭のガス化というGENESISの中核となる技術については、作り出される可燃性ガスの約20%という比較的少量を使い、ガス中の90%のCO2を回収できることは実証施設(大崎クールジェン)で確認されています(報道)。しかし、発電所全体から排出されるCO2の回収の目途はたっていない上、回収されるCO2の処理については、輸送方法および貯留先は確定できていません。

そもそも今後電力需要を押し上げる半導体工場やデータセンターを運営する事業者が必要とする電力は水力や再生可能エネルギーです。企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブであるRE100の技術要件や、科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)の基準改訂案などでは石炭のガス化はもとより、CCSやアンモニア混焼も認められなくなっています。GENESIS松島で採用予定の技術はすでに時代遅れになりつつあるのです。

GENESIS松島計画の将来と私たち

GENESIS松島計画はすでに様々な困難に直面していますが、Jパワーは計画を継続させています。これまでの予定通りに2026年に工事を開始し、2028年度に運転を開始するためには、2025年中には環境アセスメントの次の段階、環境影響評価準備書の縦覧とパブリックコメントの募集を行う必要があります。前回のパブコメでは3,570件の意見が集まりました。計画の断念の声は高まっており、Jパワーが気候変動の現状や世界的動向、そして市民の声を受け止めて計画断念の英断を下す日は来るのでしょうか。

参考情報

【ニュース】新パンフ『GENESIS松島計画とその問題点』公開 -GENESIS松島計画とその問題点(リンク
【動画】石炭ゾンビが出現? GENESIS松島計画の問題点 -GENESIS松島の動画(リンク

関連情報サイト

ACT松島(リンク