【ニュース】J-POWERの気候変動への対応を巡り株主提案が再び


昨年に続き、欧州の大手資産運用会社2社、アムンディとHSBCグローバルアセットマネジメント、およびオーストラリアの環境NGOオーストラリア企業責任センター(ACCR)は、電源開発株式会社(J-POWER)の気候変動対策強化を求める株主提案を提出しました(昨年の株主提案についてはこちら)。この株主提案には、英大手ヘッジファンドのマン・グループも共同参画しています。

6月28日に開催されたJ-POWERの第71回定時株主総会において、株主提案は会社提案と共に議決にかけられ、株主提案は提案1は21.2%、提案2は15.0%の支持を集めましたが否決されました。また、投資家向け資料の中には、各投資家がJ-POWERの脱炭素化戦略の責任者である菅野等代表取締役副社長執行役員の取締役再任案に反対票を投じる意向を表明していたことが書かれています。総会審議の第2号議案において菅野等代表取締役副社長執行役員の再任が認められましたが、この意向は他の投資家からも一定の賛同を集め、社長を除く他の取締役を約3~8倍上回る反対票が投じられました(J-POWERの議決権行使結果に関する臨時報告書はこちら)。

本記事では改めてACCRの投資家向け説明資料を元に株主提案の内容とその理由、機関投資家とNGOがJ-POWERの脱炭素に向けた取組みのどのような点を問題視しているのかを紹介します。

株主提案内容とその理由

・提案1

定款の一部変更

(1) 議案の要領

本会社定款に以下の規定を追加する。

1.本会社の長期的な企業価値を高めるため、本会社は、パリ協定の目標に沿った温暖化ガス排出量削減にかかる科学的根拠に基づく短期的及び中期的目標を達成するための事業計画を策定し公表するものとする。
2.本会社は、各事業年度ごとに、前項に定める目標の進捗状況について年次報告書において、合理的な費用にて報告するものとする(機密情報は省略することができる)

(2) 提案の理由

本会社に対して長期投資を行っている機関投資家は、本会社の企業価値が、信頼性のある脱炭素化戦略並びにパリ協定の目標及び投資家の期待に沿った温暖化ガス排出量削減にかかる科学的根拠に基づく短期的、中期的及び長期的目標に左右されると考えている。

本提案株主は、本会社の、2050年までにカーボンニュートラルを達成するとの本会社の意向を評価しているが、本会社の目標は未だにパリ協定の目標と整合していない。特に、本会社はその有する石炭火力資産の廃止の見込み時期につき一切公表していないばかりか、石炭火力資産の延命を図る実現可能性の低い技術への設備投資を含む計画を公表している。このことは株主に対し、温暖化ガス排出にかかる政策が将来変更されることに伴うリスクを含む重大な経済的リスクをもたらしている。 

科学的根拠に基づく目標を設定し、それを達成するための事業計画を開示することが、かかるリスクに対処し企業価値を保全するうえで最善である。本会社が当該事業計画において重要な設備投資がパリ協定の目標と整合的であるかの評価を開示することは株主にとって有益である。

・提案2

定款の一部変更

(1) 議案の要領

本会社定款に以下の規定を追加する。

本会社は、年次報告書において、本会社の報酬方針が本会社の科学的根拠に基づく短期的及び中期的な温暖化ガス排出量削減目標の達成をどのように促進するものであるかにつき合理的な費用にて詳細を開示(機密情報は省略することができる。)するものとする。

(2) 提案の理由 

本会社に対して長期投資を行っている機関投資家は、報酬と温暖化ガス排出量削減目標の達成を直接リンクさせることは、経営陣の脱炭素化目標に向けた取り組みを促進する重要な仕組みとして本会社の利益となり、企業価値を保全するものと考えている。 

・取締役再任案への反対

また2つの提案に加えて、2022年のJ-POWERに排出量削減目標の厳格化を求める株主提案への賛成投票(26%)に対する対応が不十分であること、また、J-POWERの現在の気候変動計画が長期的な企業価値に多大なリスクをもたらしていることを理由に、J-POWERの脱炭素化戦略の責任者である菅野等代表取締役副社長執行役員の取締役再任案に反対票を投じる意向を表明しています。

J-POWERの取組みの問題視されている点

これらの株主提案の提案理由やACCRの投資家向け説明資料からは、機関投資家とNGOがJ-POWERの現在の脱炭素に向けた取組みについて問題視している点として以下が見て取れます。

・J-POWERの排出量削減目標

J-POWERの短期・中期排出量削減目標が、パリ協定の世界の気温上昇を1.5℃に抑える努力をするという目標に沿っていないこと、そして短期・中期・長期排出量削減目標が海外事業には適用されていないこと。

・J-POWERの脱炭素化戦略と関連設備投資

J-POWERの脱炭素化戦略「Blue Mission 2050」が化石燃料由来のアンモニアや石炭ガス化、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)など高コストで確立していない石炭火力の延命技術に大きく依存するものとなっていること、これらの「革新的石炭技術」についての設備投資がどのように脱炭素化目標に整合するかが不明であること、石炭火力の延命に注力する一方で日本国内に保有する石炭火力発電所のフェーズアウト計画を示していないこと。

・再生可能エネルギー計画

J-POWERの保有する再生可能エネルギーの拡大に関する目標が、日本のエネルギー基本計画で見込まれている増加ペースに比べても低く、また計画している事業の大半が海外となっており日本の脱炭素化への貢献が限られること。

・業績連動報酬の方針

現状の業績連動報酬の方針がJ-POWERの排出量削減目標の達成を如何に促進するかについての透明性が不十分であること。

海外の機関投資家から疑問視される日本の脱炭素の取組み

今回の機関投資家とNGOからの株主提案は、昨年に引き続きJ-POWERの脱炭素の取組みの実現可能性を疑問視するものであり、ひいては現在の日本政府の「GX(グリーントランスフォーメーション)」施策の中核を占める石炭火力の延命技術に大きく依存した電力部門の脱炭素化についても、その実現可能性が海外の機関投資家とNGOから危ぶまれていることの一つの現れと言えます。J-POWERは、この提案に対し取締役会意見に関するお知らせをリリースし、提案に反対する旨を理由とともに提示(5月24日)していますが、ACCRは投資家向け資料を更新(6月8日)することで、J-POWERの気候変動対策の不備を改めて指摘しています。

J-POWERや日本政府はその脱炭素化の取組みにおいて海外からの投資を不可欠と考えるのであれば、株主提案を通じた海外の機関投資家とNGOからの警告に耳を傾け、国際社会および機関投資家が求めるようにパリ協定に沿う短期・中期の排出削減目標を策定・開示し、報酬制度が排出削減目標の達成をどのように促進するものであるか、詳細を開示するべきでしょう。

この株主提案の詳細についてはACCRのニュースリリースや投資家向け説明資料をご確認下さい。

参考