【ニュース】水素アンモニアと化石燃料の価格差を政府が補填へ NGOが反対意見


経産省と資源エネルギー庁の合同審議会、水素・アンモニア政策小委員会/脱炭素燃料政策小委員会/水素保安小委員会が12月6日に中間とりまとめ(案)をまとめました。現在国内で流通している水素は、ほとんどがグレー水素で、化石燃料を原料として製造され、製造時に大量のCO2が排出されます。本とりまとめは、「低炭素水素」の定義を示しつつグレー水素を当面は認めること、また水素価格が高額であることから普及のために政府がGX移行債を原資として化石燃料との価格差補填をすることなどが示されており、非常に問題の多い内容となっています。

1.低炭素水素等の定義について

①水素の基準について
 低炭素水素の基準については、「CO2未処理のプロセスと比較して、約70%の排出削減を実現する水準として、3.4kg-CO2/kg-H2を原則とすることが適当」としています。これは、天然ガスの70%減に相当し、改質CO2の90%以上を回収し、原料生産や輸送時に再エネを活用するなどして達成できる数字だとされています。しかし、逆に言えば、それだけ対策を行ったとしても天然ガスを原料とする限り、天然ガスの3割程度分もCO2を排出するということを意味しています。基本的には、再エネで水を電解するグリーン水素を基本とすべきでしょう。
 なお、EUタクソノミ―では、3kg-CO2/kg-H2を基準としています。

②アンモニア等の基準について
 とりまとめ案では、「水素はアンモニアや合成メタン、合成燃料等のキャリアや燃料種の形でも供給されるが、アンモニアその他、本制度の対象となり得る水素化合物についても、低炭素水素の水準を参考とした基準値を定めていく」としているだけで、具体的な基準値案は示されませんでした。
 水素を原料にして製造されるアンモニア、合成メタンなどはさらに大量のエネルギーを必要とします。脱炭素を目指すには、製造プロセスでの電力を再エネにして、CO2の排出がゼロに近いものとする必要があります。

③支援制度への基準の適用について
 とりまとめ案では、後述の価格差支援を政府がすることとなっていますが、その支援要件として、「価格差に着目した支援及び拠点整備支援に係る支援要件としての遡及適用は行わないものとする」としています。つまり、3.4kg-CO2/kg-H2を適用しないということです。いったいなんのために基準値を設けようとしているのでしょうか。
 CO2の削減対策ができていない水素を支援するのは全く気候変動対策に貢献しません。政府は、CO2削減に貢献できないような水素を普及する体制をつくるべきではありません。

2.価格差に着目した支援・拠点整備支援について

①価格差に着目した支援・拠点整備について
 基準価格と参照価格の価格差を政府が補填するという案が示されました。そもそも、水素やアンモニアの導入については、グリーンイノベーション基金等で多額の補助がついている上に、脱炭素電源オークションの導入で、電力分野については多額の設備投資費用が容量市場の一部として支払われるしくみが導入されています。石炭火力へのアンモニア混焼などにも多額の費用がつけられ、石炭火力の延命になっています。その上で、さらになぜこのように水素アンモニア価格差支援などする必要があるのでしょうか。
 ましてや、CO2の排出削減にもならないグレー水素も支援の対象にするなど、言語道断です。このような仕組みで価格差を埋めることは、消費者の負担を減らすことにもならず、将来的な負債を増やすだけです。
 
②基準価格等の算定について
 水素アンモニアの基準価格の算定について、とりまとめ案では「事業者が事前に基準価格の算定式もしくは固定値として提示する」とされています。こうしたしくみ自体が問題ですが、そもそもその金額も事業者の言い値で決めることも非常に問題です。再生可能エネルギー固定価格買取制度でも、価格等算定委員会という第三者機関が提示しています。

中間とりまとめ(PDF) 

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行政機関が重要な政令や省令等を定めようとする際には、パブリック・コメントと呼ばれる意見公募手続きを行うこととなっています。パブリック・コメントとは、手続きに則り、文案を公表し、広く意見を募集するものです。規定の書式に記入することで、誰でも意見を提出することができます。

公募要領

水素・アンモニア政策小委員会/脱炭素燃料政策小委員会/水素保安小委員会中間とりまとめ(案)に対する意見公募(リンク
意見募集期間:12月8日~1月6日

参考:水素・アンモニア関連資料

気候ネットワーク:【意見書】水素・アンモニア政策小委員会/脱炭素燃料政策小委員会/水素保安小委員会中間とりまとめ(案)に対する意見(リンク

  • 環境省:脱炭素化にむけた水素サプライチェーン・プラットフォーム(リンク
  • クライメート・ボンド・イニシアチブ:日本へ向けた信頼できるトランジションファイナンス発展のための提言(PDF
  • 自然エネルギー財団:ポジションペーパー 脱炭素への道が見えない「改定水素基本戦略」(リンク
  • 自然エネルギー財団:なぜ石炭火力アンモニア混焼への投資が1.5℃に整合しないのか(リンク
  • 気候ネットワーク:【ブリーフィングペーパー】ここが問題!アンモニア混焼(リンク