JERAは、11月22日に2026年度末頃のバイオマス混焼による復旧を目指すことを前提に、今冬(2025年1月頃目途)から武豊火力発電所(愛知県武豊町)を再開させると発表していましたが、2025年1月7日に石炭のみを燃料として稼働を再開させました。
JERAの復旧方針
武豊火力発電所は、2024年1月に火災事故*を起こして停止しました。JERAのプレスリリースによると、復旧方針を踏まえ、2025年1月頃の運転再開、2026年度末頃のバイオマス混焼による復旧を目指すとなっています。ただし、年明けからの運転再開時は、暫定的な措置としてバイオマス燃料を混焼せず、石炭専焼の火力発電所として夏季・冬季といった高需要期における電力供給確保に貢献するとしています。
再発防止策には、石炭搬送とバイオマス燃料の搬送を分離させ、バイオマス燃料専用に空気搬送設備を新設し、バイオマスの輸送を空気による搬送にすると記されています。この改装工事が終わるまでは石炭専焼とし、2026年度末頃からはバイオマス混焼率を当初計画値の17%から8%に下げて運転し、段階的に混焼率を上げていく計画となっています。
石炭のみで稼働を再開すればCO2排出原単位は悪化します。石炭専焼および混焼率の低下(8%)によって当初の計画(17%)よりCO2排出量が増加する分については、低需要期に武豊火力または他の石炭火力の稼働を計画的に抑制することによって、武豊火力発電所の年間CO2排出原単位を実質的に上回らないようにするとしていますが、そこまでして周辺住民の反対を押し切って武豊火力発電所を再開させる必要があるのでしょうか。
武豊火力発電所の再稼働は必要なのか
猛暑に見舞われた2024年の夏、電力需要が想定を上回ったエリアがあったと報告されていますが、武豊火力発電所のある中部エリアでは9月に需要実績が想定需要を超える日があったものの、他のエリアと比較して著しく多かったというほどではありません。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公開している2024年度夏季の電力需給実績の検証からも、最大需要発生時に武豊火力発電所の稼働なしに安定供給が確保できていたことが見て取れます。
JERAは、9月19日の電力需給の予備率低下に対して9か所の発電所の13基を増出力運転(定格出力を上回る出力での運転)したと公表していますが、2024年2月に横須賀火力発電所2号機(65万kW, 石炭)、8月には五井火力発電所1号機、11月に同2号機(ともに78万kW, LNG)の運転を開始し、供給電力の増強を図っています。その一方で、自社のロードマップに掲げている非効率石炭火力の全台休廃止の具体的な計画は公表されていません。
同じくOCCTOによる2024年の年次報告書によると、年間電力需要は年々減少している傾向がみられるだけでなく、電力需要の下がる時期には「想定以上の電力需要の減少及び太陽光発電の出力増加が見込まれた」ことから広域バランスを保つための調整が行われたことも記されています。
これらの状況を踏まえれば電力の安定供給を武豊再稼働の理由とするのは、説明不足です。また、中部エリアで再生可能エネルギーの導入が進んでいることも踏まえれば、CO2排出量の多い石炭火力発電所を再稼働する必要はありません。
再稼働の中止を求める要請書を提出
11月22日のJERAのリリースを受け、武豊町の環境問題を考える会、FoE Japan、気候ネットワークは連名で「JERA武豊火力発電所の再稼働の中止を求める要請書」を経済産業大臣に提出しました。ここでも、武豊火力の稼働は必要ないと主張しています。
リリース発表後に設定された住民説明会
12月8日、武豊の住民向けに「爆発・火災事故再発防止策、復旧方針説明会」が開催されました。告知から開催日時までの日数は少なく、開催地区(冨貴 東大高)の区長会回覧板のみでの案内というものでしたが、「武豊町の環境問題を考える会」の方々を中心に100名を超える住民が参加し、運転再開に反対しました。
説明会の後、住民からは経産大臣と火力発電所所長宛に抗議文が提出されています。
武豊町の環境問題を考える会は、昨年12月25日付けで、Jera武豊火力発電所と経産省あてに再稼働をするなという抗議文を送りました!
あのような見せかけの説明会と黒塗りのパンフレットを見ても、到底問題が解決したと思えません。爆発の原因にしても、二酸化炭素の排出を抑えてカーボンニュートラルを目指していると言っても住民の声に答えない不透明な対応です。
いずれ石炭火力発電は、廃止になりますが、私たちはそれにてをこまねいてまっているわけにはいけません。
諦めずに、がんばります。
武豊町の環境問題を考える会 大久保崇
JERAは、火災事故の原因調査と再発防止策を公表していますが、再発防止策の安全装置設置の項目に「万一爆発兆候が発生した際も、爆発抑制装置または爆発放散口/消炎ベントを設置し、火災・爆発に至る前に抑制する」と記載されています。1月の爆発時のように爆発が火災・炎上の原因となった場合、近隣の住民が逃げ遅れる危険性は高く、不安は解消されていません。
11月に住民への説明に先立って再稼働の予定をリリースしている点も誠意ある対応をしているとは言い難いものですが、12月の説明会後にも住民から抗議文が出されていたにもかかわらず、周辺住民の理解・納得なしに大型石炭火力発電所を再稼働させたことは、JERAの住民軽視の姿勢を表しています。
*2024年1月の事故
木質バイオマス燃料を石炭と同じベルトコンベヤーで運搬する際に粉じんが発生したところにベルトの摩擦熱からの火が着火して火災が発生。ボイラー舎の壁に穴をあける爆発を起こした。
JERAのプレスリリース:武豊火力発電所における火災事故に対する復旧方針について | プレスリリース(2024年)
参考資料: JERA 武豊火力発電所爆発問題と JERA 株式会社の対応(PDF)
JBCの過去記事はこちら
【ニュース】JERAの武豊火力発電所の火災事故、原因究明と住民説明は必須(リンク)
【ニュース】武豊火力発電所の爆発事故、住民説明会ー住民は再稼働に反対(リンク)