【ニュース】政府の「非効率石炭火力のフェードアウト」では間に合わない!


4月23日、経済産業省の審議会「石炭火力検討ワーキンググループ」で、2030年に向けた石炭火力発電の「フェードアウト」に関する中間とりまとめが発表されました。

この審議会では、電力の安定供給を確保しつつ、2030年に向けて日本国内の非効率石炭火力発電を「フェードアウト」させていくための新たな規制的措置を検討してきました。しかし、ここで示された方針は、気候危機を回避するためには、以下のようにまったく不十分なものでした。

①石炭単独のベンチマーク指標を新設

◆ここが問題◆ ベンチマークの新設では2030年の石炭火力廃止は不可能

火力全体(石炭、石油、LNG)を対象としている既存の火力ベンチマーク指標とは別に石炭単独のベンチマーク指標を新設するとしています。一見、踏み込んだ策のように見えますが、その実態は、2030年に石炭を26%とする現行のエネルギーミックスに合わせたものにすぎません。指標の構成を変えるだけで、現在の石炭火力比率32%(うち非効率石炭火力は16%)から、省エネ法による規制的処置(非効率な発電の抑制)と容量市場による誘導処置(発電量削減の促進)により、フェードアウトは着実に推進できると見ているのです。これでは、G7各国に要請されている2030年までに石炭火力を廃止を達成することは到底不可能であり、国際社会で求められている水準からほど遠い状況です。

②発電効率目標43%との新基準

◆ここが問題◆ 発電効率の基準だけではCO2削減につながらない

石炭火力発電所の石炭を燃料とするかぎり、発電効率を引き上げても大量の石炭を使用することには変わりなく、温室効果ガスの削減は担保されません。今回の基準では事業者が持つ石炭火力発電所の平均効率を43%とすることが求められていますが、バイオマス混焼等を使って見かけ上効率を高く計算することも可能であるため、石炭火力の実質的な廃止にはほとんどつながらない可能性があります。

③バイオマス混焼を加速化

◆ここが問題◆ 持続可能でないバイオマスを急増させる懸念がある

上記の発電効率目標を達成するために、石炭燃料にバイオマスを混焼することで見かけ上、効率を高めたことにできる基準が設定されています。バイオマスについては生産地での森林破壊などでカーボンニュートラルとはいえず、むしろ排出源になっているものもあり、今回の制度によってバイオマス混焼へのインセンティブが働き、持続可能性がなく、CO2排出削減にもならない輸入バイオマス利用が激増することが懸念されます。また、海外でのバイオマス生産時に排出されるライフサイクルCO2を対象外としていること、国内での加工・輸送で発生するCO2も考慮しないとしていることは大いに問題です。

④アンモニア混焼・水素混焼への配慮措置を新設

◆ここが問題◆ 石炭火力を延命させるためのアンモニア・水素の利用はNG

新しいエネルギー源として水素やアンモニアの活用への期待が高まっています。しかし、火力発電において、水素・アンモニアを石炭と混焼させる技術の開発を見越して発電効率を高く見せかける算定方法の導入方針が示されていることは問題です。既にアンモニア混焼の実証実験が行われていますが、現時点で商業規模の活用には至ってません。しかも、水素やアンモニアを製造するときに石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料が使われることがあるにもかかわらず、「技術普及の観点からアンモニアや水素がカーボンフリー(ブルー又はグリーン)かどうかについては問わない」と言うのでは、気候変動対策としてはまったく本末転倒です。国内での発電時のCO2排出が減れば、製造プロセスや輸送などで大量のCO2を排出しても関係ないとは、国際社会の一員としてあまりにも無責任です。

以上のように、新たな規制的措置の柱となっている方針は、世界の脱石炭の流れに沿うものとは言えず、これに基づいた政策を進めていたのでは気候危機を回避するために求められているスピードにまったく間に合いません。今必要なのは、一刻も早い石炭火力の「フェーズアウト(段階的廃止)」なのです。

参考

  • 2030年ゼロへ!フェーズアウトの姿(リンク
  • 【レポート】気候ネットワーク「2050年ネットゼロへの道すじ」(リンク