【レポート】ドイツの環境団体Urgewaldが「脱石炭リスト2021」を発表


ドイツの環境NGOのウルゲバルト(Urgewald)が、英グラスゴーで10月31日から開幕される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に先駆けて、石炭事業に関与する企業のデータベース『Global Coal Exit List(以下、GCEL)』2021年版を公開しました。

このデータベースは2017年から毎年更新されているものです。GCEL2021には、石炭探査・掘削から石炭火力発電関連企業まで広範囲にわたる1,030社と、約1,800社の関連子会社のデータが収録されており、世界で最も包括的な石炭関連事業に関わるデータベースとして、世界の機関投資家がポートフォリオにおける気候変動によるリスクを把握するための情報源となっています。

GCEL2021のメディアブリーフィングから概要を紹介します。

事業者の49%が今も石炭関連事業を拡張
パリ協定が採択されて以降、世界で導入された石炭火力発電所の発電容量は157GWにのぼっています。この発電容量は、ドイツ、ロシア、日本、トルコの既存の石炭火力発電所をすべて合計した発電容量に匹敵します。2021年に中止となった計画が多数ある半面、最大で480GWにもなる新規石炭火力発電の建設と、年18億トンの石炭採掘の計画が継続しており、これらが実行されることになれば、世界の石炭火力発電容量は23%、燃料炭の生産は27%増加することになります。
GCEL2021に掲載されている1,030社のうち、503社が新規の石炭火力発電所の建設、採炭、または新たな石炭輸送インフラの開発を計画しています。

脱石炭の目標年を公表した事業者は5%未満
パリ協定の1.5℃目標を実現させるためには、2030年までのフェーズアウトを急がなければならないとIPCCの報告書で指摘されているにも関わらず、脱石炭の明確な目標年を公開したのは、GCEL2021掲載企業1,030社のうち、49社しかありませんでした。しかも、日本の大手商社の丸紅(2050年までにゼロにする)や住友商事(石炭火力発電を2040年代後半に終了させる)の目標のように、3分の1の企業の目標は1.5℃目標を達成するためには遅すぎるのです。(日本の商社の計画に対しては、Urgewaldのリリースの中で気候ネットワークの平田氏が言及しています。)パリ協定に整合する脱石炭目標年を設定しているのは、32社(北米の13社、西欧州12社、イスラエル1社、オーストラリア1社、ニュージーランド1社、チリ1社、フィリピン1社、中国2社)で、日本企業は1社も含まれていません。

発電所の閉鎖ではなく売却ですり抜け
目標年の設定に加え、問題なのは企業が石炭関連事業の資産を売却または移管することで脱石炭を達成しようとしていることです。実際に、発電所や炭鉱を閉鎖するのではなく、新しい会社にその資産を移したり、別の会社に持ち株を売却するということが行われています。こうした処置では、発電所や炭鉱の運営は継続され、対象企業の石炭事業への関与は減りますが、実質的な脱石炭にはなりません。

石炭火力フェーズアウトへの抵抗
石炭火力のフェーズアウトへの取り組みや環境基準を強化する国が増える中、自社の石炭関連資産を守るために政府を自国内の裁判所ではなく、ISDS条項を用いて投資家対国家の紛争解決機関に訴える(ISDS条項)企業が増えてきています。企業は、こうした動きを通して、進歩的な環境法を施行したり石炭資産を段階的に廃止させたりすることを難しくすることで、民主主義を弱体化させているとの指摘もあります。

石炭から別の化石燃料へ転換
各国で石炭火力発電所の閉鎖や新規計画の中止が進む一方で、再生可能エネルギーではなく、ガス火力にリプレースされている発電所も少なくありません。米では、2011年から2019年に廃炉となった石炭火力発電所の三分の1がガス火力に置き換わっており、こうした動きはアジア諸国でも見られます。しかし、ガスの燃焼により発生するメタンは、排出から20年間、二酸化炭素(CO2)の86倍もの温室効果があることからも、ガス火力発電の増加は非常に懸念されます。

金融機関の取り組み
迅速な石炭フェーズアウトが求められる中、多くの金融機関は脱石炭を表明していない、あるいは新規の石炭関連事業を推進している企業への金融支援を継続しています。金融機関自体を見ても、投融資対象から石炭を除くポリシーを設けていない、あるいは設けていても抜け穴のある金融機関が多いのが現状です。

Urgewaldの分析によると、新規石炭火力発電所の計画の75%は、中国、インド、インドネシア、およびベトナムで計画されています。
インドネシアには、約30GWの新規計画または建設中の石炭火力発電所があります。その規模は世界で3番目で、複数の計画に日本企業が深く関わっています。また、ベトナムでは他のどの国よりも急速に石炭火力発電所の建設が進んでおり、第8次電力開発基本計画(PDP8)案では石炭火力発電による発電容量を2030年までに40GW、2035年までに50GWとする目標を掲げています。ベトナムの石炭火力発電所計画の64%はベトナム国外の8カ国の企業が担っています。中でも最も関与の大きな韓国の韓国電力公社(KEPCO)は、2020年に国外の石炭火力発電事業への投資を全面禁止すると発表したにも関わらず、現在もギソン2とブンアン2石炭火力発電所の計画を継続しており、この2案件は日本の金融機関および日本企業も参画していることで注視されています。

GCEL2021掲載の日本企業(掲載されている石炭火力発電所の発電容量の大きなものから8社)

 

社名 石炭火力発電所の
発電容量(MW)
関与している国外の石炭火力発電事業(国)
JERA 10547 インドネシア
J-POWER(電源開発) 9877 インドネシア
東北電力 5526 ベトナム
九州電力 3603
住友商事 3031 ベトナム、インドネシア
北陸電力 2900
中国電力 2890 ベトナム
丸紅 2700 ベトナム、インドネシア

関連リンク

[Media Briefing] NGOs Release the 2021 Global Coal Exit List:1,000 Companies Driving the World Towards Climate Chaos
[Fact&Sheet] 2021 Global Coal Exit List: Interesting Facts & Statistics

作成・発行:Urgewald
発行:2021年10月7日