日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指していますが、そのひとつの切り札として二酸化炭素を回収し、地中に貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)を積極的に進めています。しかし、このCCSについては、効果および経済性について疑問の声も挙がっています。ここでは、気候変動とエネルギー転換に関する分析を行っている国際研究グループZero Carbon Analyticsが、CCS技術とそのCO2排出削減効果に関してまとめたブリーフィングを紹介します。
Zero Carbon Analyticsのブリーフィング『Carbon capture and storage: Where are we at?』は、CCSプロジェクトの歴史は失敗の連続であると指摘し、現在、電力部門で計画されているCCSプロジェクトに前例のない高い投資が行われているものの、この技術は非常にコストが高く、CO2排出量を削減する効果は少ないと予想されることを強調しています。
このブリーフィングでは、1995年から2018年の間に世界で260以上のCCSプロジェクトが実施されましたが、完成したのはわずか27件で、世界中の政府が85億ドルをCCSプロジェクトに投資したにもかかわらず、プロジェクトが軌道に乗らなかったため、わずか30%の資金のみが使用されたことが明らかにされています。
現在、CCSプロジェクトの開発パイプラインの中で最も多いのは、電力部門におけるプロジェクトで、48のプロジェクトが計画または建設中となっています。しかし、電力部門におけるCCSプロジェクトは歴史的に失敗とみなされていることに加え(これまでに中止されたCCSプロジェクトの66%が電力部門だった)、将来のCCSプロジェクトの実現可能性も極めて低いと指摘されています。その主な理由は、現在および予測されているコストが高いことと、再生可能エネルギーの競争力が高まっていることの2つです。
図:部門別のCCSパイプライン
電力部門におけるCCSの経済性は極めて低く、陸上風力発電と太陽光発電は、CCSなしのガスまたは石炭火力の発電所を新たに建設するよりも40%安いことが強調されています。CCS設備を追加するには、インフラの建設・維持コスト、CCS対応設備の運転にかかる追加エネルギーのコスト、CO2の回収・輸送・貯蔵・利用に関連するコストがかかります。ガスまたは石炭火力発電所にCCS設備を追加した場合、再生可能エネルギーとこの差がさらに拡大することになります。開発パイプラインにある多くのプロジェクトは完成しない可能性が高く、完成したとしても、再生可能エネルギーの競争力の高まりにより価格で対抗することができなくなり、電力市場からの退出を余儀なくされるでしょう。
また、このブリーフィングは現状でCCSのCO2回収能力が低いこと、プロジェクトが将来実現する可能性が非常に低いことを考慮すると、発電部門におけるCO2排出削減にCCSが貢献する可能性はほとんどないと結論づけています。さらに、CCS設備はすべてのCO2排出を回収しないことも問題です。回収が不可能ということではなく、回収すればするほどコストが指数関数的に増大してしまうため、多くの設備の回収率は、運転開始時に65%、数年後でも90%に留まります。また、輸送中や貯蔵場所からのCO2の漏出に関する懸念や不確実性も残されており、CCSのCO2排出削減効果をさらに低下させることとなります。
さらに、このブリーフィングは、CCUSによって回収された二酸化炭素を利用することが、CO2排出量の純増になる可能性も指摘しています。その理由のひとつは、回収した炭素を利用するためのさまざまなプロセスに必要なエネルギーが膨大であるため、CCUSの規模が拡大すればするほど、再生可能エネルギーだけでこれをまかなうことは難しくなることです。
また、現在稼働中のCCUS設備のほとんどは天然ガス処理施設に接続され、回収したCO2は油井に圧入して石油の回収量を増やす「原油増進回収(EOR)」に使用されています。既存のCCUS設備の約74%は、収益のすべてをEORに依存しているか、部分的に依存しているのが現状です。EORによって回収された石油を燃焼させることによって、貯蔵されたCO2を相殺する以上のCO2が排出されることになります。
CCSはコストが高く、排出量削減の可能性が低いにもかかわらず、日本の脱炭素化戦略では、CCS技術に期待をかけ、多額の投資をしながら化石燃料を燃焼し続けようとしています。このブリーフィングは、CCSへの依存度が高まることは環境面に加えて社会面でも新たな問題を生むとの懸念も示しつつ、化石燃料をフェーズアウトし、できるだけ早く再生可能エネルギーに移行することが、脱炭素化への最も効果的でコスト効率の高い道であることを強調するものです。
ブリーフィングへのリンク
Zero Carbon Analytics: Carbon capture and storage: Where are we at? (Link)
Carbon capture and storage: Where are we at? (PDF)
関連資料
・【ファクトシート】二酸化炭素回収貯留(CCS)ーその甚大なリスク(リンク)
・【レポート】気候ネットワークがCCUSに関するポジションペーパーの更新版を発表(リンク)
・【レポート】CCSは電力部門の救世主になるのかーIEEFA(リンク)
・【レポート】自然エネルギー財団 CCS火力発電政策に関する報告書を発表(リンク)
作成・発行:Zero Carbon Analytics
発行:2022年9月22日