【レポート】CCSは電力部門の救世主になるのかーIEEFA


日本政府は、火力発電所から排出される二酸化炭素を回収して貯留する技術、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)に大きな期待をかけ、その実現に向けて突き進んでいますが、米国のエネルギー政策シンクタンク 、エネルギー経済・財務分析研究所(The Institute for Energy Economics and Financial Analysis, IEEFA)が発表したレポートには、火力発電所に炭素回収・貯留(CCS)設備を追加することは、電力料金に持続不可能な影響を与え、国民・企業・政府にとって膨大なコスト増となる可能性が記されています。

CCS付き火力発電はコスト高

IEEFAが従来の火力発電やCCS付き火力発電と、再生可能エネルギーなどの均等化発電原価(Levelized Cost Of Electricity, LCOE)を比較した結果を見ると、CCS付きの石炭火力およびガス火力は、化石燃料の中では安価と言われる石炭火力にCCSを付けたとしても、蓄電を備えた洋上風力や太陽光発電のコストを大幅に上回っています。

出典:IEEFAのプレスリリース「Carbon capture and storage in the power sector will worsen energy inflation」より

LCOEの高さは、CCSの経済性が低いことを意味しています。IEEFAの研究者は、CCS事業の実現までに必要な資金、技術の不確実性、CO2の回収・運搬・貯留といった運転コスト、さらに再生可能エネルギー関連技術が日々新しくなりコストが下がっていくことなどを考慮すれば、CCS付き火力発電の経済性が低いことは明らかであるにも関わらず、政策立案者はCCSを脱炭素に向けた策として投資したり、財政的インセンティブを提供したりしていると指摘しています。

*LCOE:発電にかかる費用の評価指標。建設費、燃料費、運転維持費、保守管理費など発電に必要な全てのコストに、解体・廃棄費用なども合計し、運用期間中に得られる想定発電量で割って算出する。発電量あたりのコストを示すもので、異なる電源間の比較を行う際、電源の経済性評価指標として広く使われている。

CCSのコストが消費者に転嫁された場合、電力料金への影響は…

以下に本レポートのサマリーを書き出しておきます。

  • CCSを導入して商業運転している新しい発電所がないので、その費用の実態は分かっていない。北米のCCS商用化プロジェクト(Kemper)は、計画の遅延や費用増加により失敗に終わっている。北米の別の場所で後からCCS設備を組み込んだ大規模な2つのプロジェクトでも、1つの施設は操業停止となり、いずれのプロジェクトでもCO2回収率は目標の90%を大きく下回るものだった。
  • CCS推進者の提示するコスト予測は、著名な団体の試算とはかけ離れており、かなり楽観的なものになっている。概算の中に、CO2輸送、貯留、モニタリング、必要になると見込まれる修繕費用や起こり得る不利益など、変動性の高いさまざまな費用が含まれていない。
  • 費用の回収方法が不明。すべてのCCSのコストが電力料金に転嫁されれば、既に上昇傾向にある料金をさらに高騰させることになり、消費者、特に低所得者への負担増となる。IEEFAの分析によれば、発電容量の70%を火力が占めるオーストラリア東部を管轄する全国電力市場(NEM)にCCSを導入して脱炭素化を図ると、年間売買高加重平均卸売価格が上昇することが予測されるが、CCS導入コストが電力料金に転嫁された場合には、同市場の電力価格は、過去10年の平均価格75~95豪ドル/MWhから、MWhあたり100~130豪ドル高くなる可能性があると試算している。
  • CCS付き発電のLCOEは、再生可能エネルギーに蓄電池を加えた場合の電力料金よりも少なくとも1.5~2倍高いという分析結果が出ている。しかも、蓄電システムの価格や蓄電池の価格も含めたLCOEは、再エネ技術がより大規模に展開されるにつれて劇的に改善されると見込まれているので、長期的には(現状のCCSなし)ガス火力に匹敵する価格になると予測されている。
  • CCSのような経済効率の低い技術に対して政府が多額の資金を捻出したり、補助金を付けたりすれば、その費用は所得税などを通じて最終的には国民が負担することになる。
  • 実行可能な資金を確保するまで、発電部門におけるCCSのコストを誰が負担するかは、資金調達のリスクに加味される不確実性のひとつである。

 

課題の多いCCS

IEEFAは、電気料金が跳ね上がり、消費者が電気料金を払えなくなれば、(化石燃料)火力発電所にCCSを付けることは持続不可能になると指摘しています。また、CCSは費用だけでなく、適地の選択からCO2の回収・運搬・圧入技術、その後のモニタリングまでの過程でさまざまな課題を抱えています。

発電部門にCCSを導入することについて、本レポートに記されている環境面から見た問題についても抜き出しておきます。

  • 化石燃料の使用の継続:CO2を圧入して原油の回収率を向上させる石油増進回収(EOR)を行って、化石燃料の使用を継続、促進することは、脱炭素に相反する。
  • 技術の有効性:CCSの実績が乏しく、CO2回収率も低いことから、排出削減対策として有効なのか、主張通りに実現できるかどうか疑問。
  • 貯留リスク:CO2の長期貯留や漏えいに関する不確実性やリスクが存在する。
  • エネルギー効率:排出されるガス(排ガス)からCO2を回収するためにはエネルギーを要する。そのため、CCSが導入された発電所で発電された電力は、より多くのエネルギーを費やして作られたものとなる。
  • 化学物質の使用:回収したCO2を吸収させるために、さまざまな化学物質を使用する必要があり、それらが流出した場合には、環境に悪影響を及ぼす可能性がある。
  • 水の使用: CCS付き火力発電所は、CCSなしの発電所に比べて、発電容量1メガワット(MW)あたり約50%多くの水を必要とする。

 

本レポートは、電力部門におけるCCSの経済性の低さを指摘する内容ですが、そもそも火力発電所にCCSを付けても、全ての排出を回収することはできないとも指摘されています。国際エネルギー機関(IEA)の2050ネットゼロシナリオでは、排出量の削減が最も困難な産業部門においてはCCSがひとつの解決策を提供するとしていますが、電力部門においては、再生可能エネルギーの強力な導入、貯蔵技術、系統インフラの改善と柔軟性に重きを置いており、それは2050 年の電源構成としては再生可能エネルギーが88%を占める一方で、 CCS付き火力は3%しか見込んでいないことにも示されています。また、3月に公開された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書統合報告書には、エネルギー部門の2030年までの純排出量削減に対する追加的削減費用または潜在的貢献度からみると、CCSは最も優先度の低い緩和オプションであると位置付けられており、より優先度の高い解決策として、風力発電や太陽光発電が挙げられています。

日本の電力会社がCCSのような技術に過度に期待し、再生可能エネルギーの普及拡大に遅れが出るとなれば、私たちの電気料金は益々高くなっていく恐れがあるのです。

関連リンク

IEEFAリリースページ:Carbon capture and storage in the power sector will worsen energy inflation(リンク
レポート:Read the report CCS for power yet to stack up against alternatives(リンク

補足情報

JBCファクトシート 【ファクトシート】二酸化炭素回収貯留(CCS)ーその甚大なリスク(リンク
気候ネットワークポジションペーパー ~CO2 回収・利用・貯留(CCUS)は日本においてもアジアにおいても気候変動政策の柱にはなり得ない~(リンク
自然エネルギー財団コラム CCSへの過剰な依存が日本のエネルギー政策を歪める(リンク
自然エネルギー財団レポート「CCS火力発電政策の隘路とリスク」(リンク

 

作成・発行:IEEFA(エネルギー経済・財務分析研究所)
発行:2023年3月30日