英シンクタンクのInfluence Map が、日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策は、1.5℃目標と整合していないとする評価結果を発表しました。
この報告書「日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策と気候変動科学
1.5℃目標に向けたIPCCの指針とGX政策の比較および企業のGX政策への影響力の分析」は、世界的な科学的権威である国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示す世界の気温上昇を1.5℃に抑える経路に沿った政策とGX政策を比較分析したものです。
Influence Mapは分析の結果から、GX政策は、特に二酸化炭素(CO2)排出量に応じて負担を求める「カーボンプライシング」制度と化石燃料に関連する政策においてベンチマークから大きく乖離しているとまとめています。
主な分析結果(Influence Mapプレスリリースより)
- GX方針は、2030年と2050年の排出削減目標を明示しています。しかし、GX政策がどのように1.5℃目標に寄与するのかや、1.5℃目標との整合性については言及していません。
- 炭素賦課金と排出量取引を組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング」は、導入時期が遅く、価格水準が不明確です。 IPCCによれば、2030年には1t-CO2当たり約170~290米ドル(約2.5万円~4.3万円) の炭素価格が必要ですが、成長志向型カーボンプライシングがこの価格水準を達成する可能性は低いように見受けられます。
- GX政策が掲げるエネルギーミックスは、石炭、LNG、水素・アンモニア混焼発電に依存しています。これはIPCCが示す1.5℃目標への経路との整合性を欠き、長期的な世界の排出削減目標にリスクをもたらしています。洋上風力や太陽光発電への支援は、部分的に科学的根拠に基づく政策(SBP)と整合していますが、2030年の再生可能エネルギー目標(36~38%)は、IPCCが示した経路(53.6%)を大幅に下回っています。
- GX政策はハイブリッド車の販売継続を支持しています。これらの車は「一時的な解決策」であり、低排出の電力で動く電気自動車が優位な役割を果たす、というIPCCのガイダンスに反しています。
さらに、Influence Mapは、GX政策に関与した企業や団体についても調べており、この結果、GX政策への関与のうち約80%が、日本経済と雇用においてはごく少ない割合を占める9つの業界団体と8つの企業(電力、鉄鋼、自動車、化石燃料生産など)によって行われており、最も積極的な関与を行っていたのは、日本経済団体連合会(経団連)であった一方、その他のセクター(金融、小売、建設、消費財、ヘルスケアなど、経済と雇用においては70%を占める)は、GX政策の内容について、ほとんど政策関与を行っていないことが明らかになりました。
この報告書で明らかにされたこと
- 日本のGX政策には、国際社会が目指す1.5℃目標と整合しない対策が多数含まれている
- GX政策は、経団連および1.5℃目標と整合しない一部のエネルギー集約企業・団体などの影響を大きく受けてまとめられた可能性がある
日本政府は脱炭素と経済成長の両立を目指すとして、2023年2月にGX基本方針を発表、5月にGX推進法を成立させました。クリーンエネルギー中心の社会構造への転換を目指すとしていますが、官民で計150兆円を超える投資が1.5℃目標に本当に貢献できるのかを疑問視する声もあがっています。報告書にも150兆円のセクター別内訳が示されていますが、その多くは、「水素・アンモニア混焼の供給網の整備(約7兆円)」「CCSやCCUS(約4兆円)」「次世代革新炉(約1兆円)」といった革新的技術(イノベーション)に投資していくことになっています。
経団連による提言のほとんどを受け入れ、科学的根拠に基づく政策とは整合しない立場にある企業や団体からの積極的な政策関与によってできあがったとも取れる日本のGX政策。1.5℃目標を達成するには、科学的根拠に基づき気候変動対策を進めることに前向きな企業や業界団体の声も政策に取り入れていくことが必要です。
レポート:
日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策と気候変動科学
1.5℃目標に向けたIPCCの指針とGX政策の比較および企業のGX政策への影響力の分析(日本語リンク)
参考:
日本 企業による気候変動政策関与(リンク)
作成・発行:Influence Map
発行:2023年11月14日