【レポート】IEEFA分析:新興国の多くの石炭火力は再エネへの移行で採算が取れる


米シンクタンク、エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)が2024年6月17日に公表したレポート『Accelerating the coal-to-clean transition』には、新興国市場の800基以上の石炭火力発電所は再生可能エネルギー(再エネ)への転換で採算が取れる可能性があるとの分析が示されています。

2023年、世界中で石炭火力発電所の廃止に向けた動きが加速していたにも関わらず、世界の石炭火力発電所の容量は減少するどころか、むしろ増加していました。2030年までに廃炉が予定されている石炭火力発電所は、世界の既存火力発電所のわずか10%に過ぎません。しかし、IEEFAの報告書は、新興国市場の800基以上の石炭火力発電所は、再エネへの転換で採算がとれる可能性があり、エネルギー産業の脱炭素化のためにさらなる投資機会を生み出すことができると述べています。

IEEFAは、石炭火力発電所の設備容量の段階的な削減と発電所の閉鎖に合わせて再エネを建設し、段階的に導入するモデルを提案。ボツワナ、コロンビア、モロッコ、ルーマニア、タイの5カ国におけるケーススタディから、石炭火力から再エネへの転換アプローチの実現可能性を示し、政府からの補助金がなくても、すべてのコストを民間投資家が負担することにより、5年以内にエネルギー転換が可能であると示しています。なお、ここで見ているコストには、石炭火力発電所の廃炉費用、発電所の閉鎖による投資損失の補償、PPA(電力販売計画)再構築のコスト、再生可能エネルギー設備の建設・開発費用、直接または間接雇用の労働者の再教育、より多くの再エネを供給するための送電網インフラの更新などが含まれています。再エネのPPAから20~30年間の収益が得られるとの保証は、石炭火力から再エネへの移行を後押しする要因となりますが、その一方で、こうした機会を特定し、確実に利益をもたらすであろう投資対効果検討ができる現地チームを支援するための資源は限られているとの現状も指摘しています。

IEEFAが特定した800基以上の石炭火力発電所のうち、600基以上は稼働年数が30年を超えているため、ほとんどが負債やPPA制約の縛りを受けず、再エネへの移行が比較的容易であり、残りの200基弱の発電所の移行に関する費用も、新しいモデルのもとで、迅速に償却し、採算をとることが可能であるとしています。また、大規模な再エネプロジェクトは、小規模なものに比べると国家のエネルギー開発において優先される可能性が高いため、長期的なコスト効率と地元雇用の基盤の発展につながり、実現可能性が高いとしています。

レポートは、5か国のケーススタディから、脱炭素化を進めることは、石炭からクリーンなエネルギーへの投資にシフトする機会につながることを示し、その上で、政府、投資家、慈善団体が、1)今後3年から5年の間に稼働開始できる、より具体的な移行プロジェクトの特定に注力すること、2)デューデリジェンス(投資を行うための適正評価手続き)を実施し、確実に利益をもたらすと考えられる事業計画を作成するため、特定の国に現地チームを設立するための資金に投資する、ことによって機会をつかむことができるとまとめています。

このレポートからは、金融機関にとって、石炭からクリーンな燃料への転換というビジネスフローを構築する経済的な条件が整いつつあることが見て取れます。気候変動対策と世界経済が今後どのように動いていくかは、世界が石炭から再エネへのシフトにいかに真剣に取り組むかにかかっています。今後も脱炭素化に向けた議論が継続し、今後3年から5年の間に、石炭火力発電所の廃止を加速するとともに、石炭からクリーンへの移行の機会を真剣に開発することが強く期待されています。

IEEFA:More than 800 coal plants could potentially make a profitable switch to solar (リンク)
プレスリリース(ダウンロードサイト):Accelerating the coal-to-clean transition(リンク

作成・発行:米エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)
発行:2024年6月17日