【レポート】IEAが2050年ネットゼロ報告書の更新版を公開 – 3倍の再エネが必要


国際エネルギー機関(IEA)が9月26日、『Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach — 2023 Update(2023年更新版)』を発表しました。

IEAは、2021年5月に『Net Zero Emissions by 2050:A Roadmap for the Global Energy Sector』を発表し、世界の気温上昇を産業革命前と比べて1.5℃上昇に抑えるパリ協定の目標に貢献するために世界のエネルギー部門がとるべき道筋を示しました。IEAの2050年ネットゼロ(NZE)シナリオのロードマップは、政策立案者、産業界、金融セクターなどの重要な指標となっています。

今回の更新版は、2022年2月のロシアのウクライナ侵攻を引き金とした世界的なエネルギー危機や、エネルギー部門によるCO2排出量の過去最高記録の更新クリーン・エネルギー技術の開発と導入の目覚ましい進歩など、エネルギー情勢の変化も含めた2021年以降の進捗を考慮しつつ、2050年までにネットゼロを達成するための最新の道筋を示すものです。

この更新版シナリオには、政府がクリーンエネルギーの設備容量の大幅な増強を主導すれば、化石燃料の需要を2030年までに25%削減し、排出量は最高を記録した2022年と比較して35%減少させることができると示されています。

Executive Summeryからのポイント

  • 1.5℃目標への経路は狭まっているが、クリーンエネルギーの発展に期待する。
    • 1.5℃の目標に沿った世界のエネルギーシステムの変革は、かつてないほど高まっている。
    • 世界のエネルギー部門からの二酸化炭素(CO2)排出量は、2022年に過去最高の370億トン(37ギガトン)に達し、パンデミック前のレベルを1%上回ったが、この10年でピークを迎えることになる。
    • 太陽光発電の導入量や電気自動車の販売台数は、2021年版レポートに記載されたマイルストーンに沿って推移している。
  • 再生可能エネルギーの拡大、エネルギー効率の改善、メタン排出の削減、現在利用可能な技術による電化の拡大により、2030年までに求められている排出削減を80%以上を実現することができる。
    • エネルギー部門について言えば、クリーンエネルギーの力強い成長とその他の政策措置が相まって、同部門のCO2排出量は2030年までに2022年比で35%減少する。
  • 再生可能エネルギーと効率化が化石燃料需要削減の鍵となる。
    • 2030年までに世界の再生可能エネルギー設備容量を現在の3倍の11,000ギガワットまで増やすことで、2030年までに大幅な排出削減を実現する。
    • 2030年までにエネルギー原単位の改善率を年率2倍とすれば、現在の道路輸送における全石油消費量に相当するエネルギーが節約されるので、排出量が削減され、エネルギー安全保障を強化し、経済性の向上に繋がる。
    • 再エネの拡大とエネルギー効率の改善により、化石燃料の需要が削減することになり、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の新規認可を即時中止にするとした2021年版の重要なマイルストーンの継続的な遵守が可能になる。
  • 電化を加速させることと、メタンガスの削減も不可欠。
    • EV車やヒートポンプのような普及している技術は、エネルギーシステム全体の電化を促進し、NZEシナリオにおける2030年までの排出削減量のほぼ5分の1を担う。
    • 2030年までにエネルギー部門からのメタン排出を75%削減することは、短期的に地球温暖化を抑制する最もコストのかからない策のひとつである。
  • イノベーションによる新しいツールは既に提供されており、コスト削減に繋がっている。
    • 2021年NZEシナリオでは、2050年ネットゼロを達成するために必要な排出削減量の半分程度を当時市場に出ていなかった技術によって削減するとしていたが、更新版シナリオでは、その割合は約35%分にまで低下している。
  • インフラに関しては、まだ多くのことを行う必要がある。
    • 太陽光発電やバッテリーのような小型でモジュール化されたクリーンエネルギー技術には勢いがあるが、それだけではネットゼロ・エミッションを実現するには不十分である。
    • 送配電網は、NZEシナリオのニーズを満たすために、2030年までに毎年約200万キロメートル拡大する必要がある。
    • 炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)、水素および水素由来の燃料、持続可能なバイオエネルギーは、ネットゼロ・エミッションの達成には不可欠であり、2030年までに急速な発展が求められている。
  • 途上国におけるクリーンエネルギー投資の拡大は不可欠
    • 2023年、世界はクリーンエネルギーに過去最高の1兆8,000億米ドルを投資する予定だが、目標を達成するには、2030年代初頭までに、この投資額を年間約4兆5,000億米ドル(約2.6倍)に引き上げなければならない。
  • NZEシナリオにおいては、クリーンエネルギーが拡大し、化石燃料の需要が減少するので、石炭、石油、天然ガスへの新規投資は必要ない。
    • NZEシナリオに沿った政策は、クリーンエネルギーの普及を促進し、化石燃料の需要を2030年までに25%以上、2050年には80%削減する。
    • リードタイムの長い石油・ガス上流プロジェクトは不要で、新規炭鉱、炭鉱拡張、排出削減対策なしの新規石炭発電所も必要ない。
    • 化石燃料の需要と供給が減少することで、エネルギー安全保障に対する従来のリスクは軽減されるが、リスクがなくなるわけではない。
  • 排出ネットゼロへの移行は、安全で手頃なものでなければならない。
    • 特に重要な鉱物については、逼迫する需給ギャップを埋めることに注意を払う必要がある。
    • クリーンエネルギー技術のサプライチェーンが飛躍的に進歩したことにより、ネットゼロ・エミッション実現への扉が開かれている一方で、地理的な集中が進んでいる。
    • 電力系統の柔軟性に対するニーズが高まるので、より多くの供給(送電)可能な低排出電力が必要となり、電力の安定供給が一層重要になる。
    • 2030年までに、新興市場および発展途上国における家庭の総エネルギー支出は現在より12%減少し、先進国ではさらに減少する。
  • 温暖化を1.5℃に抑えるためには、国際的な協力が必要であり、のんびりしている時間はない。
    • 2035年までに、先進国では2022年比で80%、新興市場および発展途上国では60%の排出量削減が必要。
    • 2050年までに排出量をゼロにするという世界的目標への公平な道筋の一環として、ほぼすべての国が、ネットゼロ達成の時期を前倒しする必要がある。
    • 2030年までの野心引き上げに失敗し、行動が遅れることになれば、さらなる気候変動リスクが生じ、1.5℃目標の達成は、高価で規模が実証されていない炭素除去技術の大規模な展開に依存することになる。
  • 現在は、切迫した状況にある。
    • エネルギー部門は、多くの人が考えているよりも早く変化しているが、1.5℃の目標に沿い、変化のプロセスがすべての人のために機能するようにするためには、勢いを加速させなければならない。

2021年のレポート公開から2年の間に、エネルギー部門は大きな転換点を迎えている

エネルギー部門からのCO2排出量は依然として憂慮すべき高水準にあり、2021年のレポートで想定したような減少には転じませんでした。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機により、化石燃料の需要が増加し、供給への投資が増加するなど1.5℃目標達成への道筋は狭まる一方、過去2年の間にクリーンエネルギー技術の導入が過去に例を見ない速さで急増していることは希望です。

世界の90%近い国がパリ協定の元で提出した「国が決定する貢献(NDC)」を更新しました。こうした国々が見直したNDCの目標を達成すれば、2030年の排出量は、最初に提出されたNDCの目標よりも約 5ギガトン(Gt) 減少することになりますが、NZEシナリオの2030年目標を達成するためには、さらに多くのことを成し遂げなければなりません。

IEAのビロル事務局長は、「地球温暖化を1.5℃に抑えるという目標を保つには、世界が早急に一致団結する必要がある。良いニュースとしては、我々は何をすべきか、どうすべきかを知っている。最新のデータと分析に基づく2023年ネットゼロ・ロードマップは、そのための道筋を示している。」「しかし、目標を達成するためには強力な国際協力が不可欠であり、目前の課題の大きさを考慮すれば、各国は気候を地政学から切り離して考える必要がある。」と述べています。

現在の日本のNDCは決して野心的とは言えない内容です。本レポートで、化石燃料の需要削減のためにも、CO2削減対策を行わない石炭発電所の新規承認の即時停止、油田やガス田の新規開発は必要ないということが改めて強調されていることも踏まえ、日本は、石炭火力発電の建設中止、既存設備の早期フェーズアウト、ガス関連事業の新規開発の中止を表明するべきでしょう。

関連リンク

IEAのプレスリリース:The path to limiting global warming to 1.5 °C has narrowed, but clean energy growth is keeping it open(リンク
レポートダウンロードページ:Net Zero Roadmap: A Global Pathway to Keep the 1.5 °C Goal in Reach(リンク

作成・発行:IEA(国際エネルギー機関)
発行:2023年9 月26日