【レポート】IEAが排出強度に基づく水素の評価を提案


国際エネルギー機関(IEA)が、水素の製造過程における温室効果ガスの排出原単位(emissions intensity)を評価し、これを規制や認証スキームの開発に必要な情報を提供することを提案するレポート「Towards hydrogen definitions based on their emissions intensity(排出量原単位に基づく水素の定義に向けて)」を発表しました。このレポートは、G7気候・エネルギー・環境大臣会合に先立ち、政策立案者、水素製造者、投資家、研究コミュニティに情報を提供することを目的として作成されたものです。

水素は、次世代のエネルギーとして注目されています。2022年9月26日に開催された第5回水素閣僚会議では、日本を含む20余りの国や地域が、製造時のCO2排出を抑えた低炭素技術(再生可能エネルギーを使った水の電気分解など)による水素の生産量を、2030年まで世界全体で年間9,000万トン規模に拡大するとの目標を設けました。現在の国内の水素の供給量が約200万トンなので、新たな目標はその45倍に相当。いかに大量の水素を必要と考えているかは分かりますが、この量を生産・確保するには国際的なサプライチェーン(供給網)の構築が急がれます。しかし、現時点で、虹色水素と呼ばれるほど生産過程によってさまざまに分類されている水素の中で、どのような水素であれば「クリーン」だと認められるのかの基準は定められていません。分類の定義が定まっていないと、企業や投資家が水素プロジェクトへの投資に関心を持っても、後に「クリーン」でないとみなされるリスクがあると投資することを躊躇してしまうことが懸念されます。IEAは、規制の枠組みや認証制度が明確でないことが、製造過程でGHG排出の少ない水素(低排出水素)、あるいは排出しない水素に対する最終的な投資決定が遅れると警告しています。

レポートのポイント

  • 水素は、今日のエネルギー部門において重要な役割を担っており、2021年には、精製および工業用の利用を中心に94 Mt(9,400万トン)の需要がある。世界需要の約4分の1はG7諸国によるものである。エネルギーシステム全体を完全に脱炭素化するための鍵となる新たな用途での需要は、2021年には約4万トンのみだった。
  • 水素、アンモニア、および水素由来の燃料は、特に、重工業や長距離輸送の分野といった世界のエネルギーシステムの脱炭素化を支援することができるが、そのためには、需要創出、特に新たな用途の需要の創出においては変革が必要となる。IEAのネットゼロ2050シナリオ(NZEシナリオ)では、そうした新たな用途における世界的な水素需要は、2050年までに300Mt(3億万トン)以上に達するとしている。
  • 現在、水素は主として排出削減対策が講じられていない(unabated)化石燃料から製造されている。低排出水素の製造はコスト高だが、スケールアップや技術革新により、再生可能な資源の豊富な地域や、安価な化石燃料、かつCO2貯留に適した地質へのアクセスのある地域では、短期間で低排出水素の競争力を高めることが可能である。
  • 地域ごとのコストの差や、一部のG7加盟国を含む低排出水素を生産できる可能性の低い地域における需要の増加に対応するとともに、世界的なエネルギー危機を受けて燃料供給の多様性を図るため、(水素への)変換や輸送の過程で発生する追加コストにかかわらず、水素、アンモニア、水素由来の燃料を取引する国際的な水素市場の構築が必要になる可能性がある。
  • 低排出水素、アンモニア、水素由来の燃料の製造を行うための大規模なプロジェクトの開発は、重要なボトルネックに直面している。公開されているプロジェクト(水素の総生産能力が約1Mtの計画)のうち、建設中または投資判断が出ているものはわずか4%にすぎない。規制や認証の明確性の不足、水素を最終利用者に届けるインフラの不足、さらに将来の需要の不確実性が重要な妨げとなっている。
  • G7加盟国は、低排出水素、アンモニアおよび水素由来の燃料の世界的な製造と利用の拡大、国際的なサプライチェーンの構築において、経済力、気候目標、技術革新でのリーダーシップを示すといった重要な役割を担っている。とはいえ、世界的な水素市場の構築を成功させるには、生産国や新興国を含むG7加盟国以外のステークホルダーとの包括的な協議が必要である。

 

例えば、化石燃料から水素を製造した場合、上流と中流の排出量によって幅がありますが、最大で27kg-CO2-eq/kg H2の排出になると記されています。2021年の世界の水素製造の平均排出原単位は12~13kg CO2-eq/kg H2となっていますが、IEAのNZEシナリオでは、平均排出原単位を2030年までに6~7kg-CO2-eq/kg H2とし、2050年までに1kg-CO2-eq/kg H2以下となっています。

水素の製造および利用では、経済性のみならず環境負荷や持続性が重要ですが、IEAはこの報告書で一般的に許容される水素製造の排出原単位の上限値を示さず、各国政府に対して「国内および輸入の水素製造を脱炭素化するためのロードマップを、それぞれの国の事情に合わせて定めること」を求め、国際的に合意された排出量計算の枠組みを策定することで、必要な透明性をもたらすだけでなく、相互運用性を促進し、市場の断片化を抑制し、国際的な水素サプライチェーンの発展のための投資を可能にする有用な手段となり得ると記しています。

日本においては、政府が水素基本戦略の見直しを進めており、5月末にまとめられる予定です。その中で、2040年の水素の供給量目標を現在の200万トンから6倍となる1200万トン程度まで増やすことを検討するとしています。日本だけでなく、世界全体の水素の需要は増えると見越されており、どのような製造方法にせよ、燃料の多くを輸入に頼る日本は、国産の再生可能エネルギー由来の水素を増やすことができなければ、安定供給だけでなく価格変動の面でもリスクに直面することになるでしょう。

関連リンク

Towards hydrogen definitions based on their emissions intensity(リンク
Executive summary(リンク

作成・発行:国際エネルギー機関(IEA)
発行:2023年4月