政府の気候変動対策をトラックする独立系科学プロジェクトであるClimate Action Tracker(CAT)が、パリ協定の1.5°C目標達成に向けた世界の「国が決定する貢献(NDC)」を分析したレポート「Warming Projections Global Update」を公開しました。ここには、日本を含む主要なGHG排出国・地域の気候変動関連政策を分析した結果が示されています。CATは日本の現状のGHG削減目標は不十分であると指摘しています。
日本の不十分なNDC
現在の日本のNDCは、「2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続ける」となっています。NDCは5年毎に提出・更新が義務づけられており(パリ協定第4条2及びCOP21決定1パラ23、24)、次期NDCの提出期限が2025年2月と迫っています。それまでに各国が2035年までの削減目標、パリ協定に整合するより野心的な削減目標を打ち出すことが求められており、経済産業省と環境省の合同審議会で議論されています(参考1に資料を掲載)。1.5℃目標に整合させるための2035年の削減目標(日本)
CATの国別分析によれば、日本の現在のNDCで推定される2035年のCO2排出量は746~887MtCO2eですが、この数字は1.5℃目標と整合するための排出量311MtCO2e を大きく上回ってしまっています(数値はともにLULUCF*の排出量を除く)。これを1.5℃に整合させるためには、2030年までに2013年比69%削減、2035年までに2013年比81%削減(LULUCFからの排出も含む全排出量)、LULUCFを除いたとしても78%の削減が必要と算出されています。
*LULUCF(Land Use, Land Use Change and Forestry):土地利用、土地利用変化及び林業部門
2025年2月に向けて
世界の現状
国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)会期中の11月14日に公開されたCATの分析には、主要排出国(中国、米国、インド、EU、インドネシア、日本、オーストラリア)とCOP議長国トロイカ(COP28議長国のアラブ首長国連邦、COP29議長国のアゼルバイジャン、COP30議長国ブラジルの3か国)の現行の政策のままでは1.5℃目標を大幅に超える可能性があることが示されました。
いずれの国の現在の削減目標もCATが示した1.5℃に整合するGHG削減目標に全く足りていないことは明らかです。
ここで主要排出国と名指しされた7か国の排出量は、2022年の世界のGHG排出量の60%を占めています。また、1.5℃へのロードマップを発表したトロイカ諸国(UAE、アゼルバイジャン、ブラジル)は、いずれもさらなる化石燃料の採掘を計画していると指摘されており、先の7か国と合わせた10か国の合計排出量は、世界の排出量の63%を占めていることになります。
気候変動に対する各国政府の行動の効果は、過去3年間横ばいとなっており、気候変動による影響・被害は大きくなっているのに反して、削減対策の緊急性は欠如したままです。2024年、複数の国際会議などで各国政府が2030年目標を早急に強化し、パリ協定の1.5°目標に整合させることを合意したにもかかわらず、化石燃料の排出量は増加し続けていました。CATは、トランプ次期大統領がアメリカの気候政策を撤回することによる影響にも言及しており、同国のネットゼロ目標が放棄され、影響を受ける多くの国の行動が後退したり、遅れたりすることになれば、さらに大きな影響をもたらすことになると懸念しています。
CATの警告
CATは、各国が現在の2030年目標を大幅に引き上げ、2025年行動を強化することができなければ、地球温暖化を1.5℃に抑えることはますます難しくなり、長期的な人為的行動に起因する平均気温の上昇は2030年代前半に1.5℃を突破してしまうことになるので、すぐに行動を起こす必要があると警告しています。
NDCの引き上げを求める要請
CATだけでなく、さまざまな国際機関やNGOらがNDCの引き上げを求めています。COP開催前の10月28日、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は「NDC統合報告書2024年版」の公開に際し、現在のNDCが完全に実施されたとしても、2030年の排出量は 2019年比 2.6% の削減にしかならないとの見解を表明しました。IPCCが必要だとしている2030年に2019年比43%の削減を踏まえるならば、現状のままではすべての国は例外なく人的・経済的に甚大な被害を受けることになると強く警告しています。
国内でもさまざまな団体が次期NDCの目標に対する意見や提案を発出しています。2025年2月にかけて各国からのNDC提出が続くことになりますが、全ての主要排出国は、最低限、それぞれのネットゼロ(排出実質ゼロ)目標の実現につながる温暖化対策を具体化させる必要があります。日本政府はまだ具体的な数字を示していませんが、国内の排出削減を進めるための野心的な目標を表明し、実質的な排出削減を進めることを強く求められています。
Climate Action Tracker(CAT)
RELEASE: As the climate crisis worsens, warming outlook stagnates
BRIEFING: As the climate crisis worsens, the warming outlook stagnates
参考1:委員会情報
中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会イノベーション・環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討WG 合同会合
会議資料
YouTube 環境省地球環境局総務課脱炭素社会移行推進室
参考2:日本のNDCに関する関連情報
- 自然エネルギー財団:政府の次期NDC案についての自然エネルギー財団コメント
先進国としての日本の役割をしっかり果たせる次期NDCを 政府案「2035年60%削減目標」の実際は49%削減 - 気候ネットワーク:【意見書】日本のNDC(国別削減目標)のとりまとめに対する意見 ~温室効果ガスの2035年目標は2013年比80%削減に~
- 気候変動イニシアティブ(JCI):【更新:236団体が賛同】1.5度目標と整合する野心的な2035年目標を日本政府に求める
- 地球環境戦略研究機関(IGES):NDC合同会合で示された排出削減経路の含意
- 日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP):気候危機を食い止め、日本の経済成長を実現するため、GHG排出削減加速と再エネ比率引き上げを求める提言を公表
参考3:世界のNDCに関する関連
各国のNDC:United Nations, Climate Change: NDC Registry(Link)
EUによるPR:COP29: Joint Press Release on 1.5°C-Aligned Ambition in NDCs Toward Net Zero(Link)
意見箱:エネルギー政策に関する意見箱
エネルギー政策の検討に当たって、できる限り幅広い国民からの意見を募集するべく、意見箱が設置されています。受付期間は、パブリックコメント実施前までとなっているので、是非意見を出しましょう!
意見箱
作成・発行:Climate Action Tracker (CAT)
発行:2024年11月14日