グローバルエナジーモニタ(GEM)らが毎年発行している、世界の石炭火力発電所の稼働状況および計画状況をまとめた報告書『活況と不況-石炭2023 』が公開されました。
本報告書には、パリ協定の締結後にも石炭火力発電所が増え続けていることが示されていると同時に、日本が、脱石炭が進む世界の潮流に反して2022年の時点で新たな石炭発電所の計画を有している14カ国に含まれていることも記されています。開発中・建設中の案件規模は縮小しているものの、グラスゴー気候合意のもと、各国に2030年に向けた野心的な対策が求められ、経済協力開発機構(OECD)加盟国が2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止するよう強く求められているにも関わらず、日本では建設・運転開始が着々と進められているのが実情です。報告書には、先進7カ国(G7)で稼働中の石炭火力発電設備が世界の15%(323 GW)を占めていることも示されています。
2022年、G7は、削減対策なしの石炭火力発電を段階的に廃止し、2035年までに電力部門の大部分を脱炭素化することを約束しています。この約束を確実に実行するためには、日本は新設石炭火力発電所を断念し、速やかに2030年に向けた石炭火力の段階的廃止を進めるべきです。
報告書のポイント
- 現在、稼働中の世界の石炭火力発電所の約3分の1(580 GW)に閉鎖期日が設定され、残り(1,400 GW)の多くはカーボンニュートラルの目標の対象となっている。
- パリ協定が調印されて以来、世界で計画されている新規石炭火力発電所の規模は劇的に縮小してきたが、2022年には世界で稼働中の石炭火力発電所は19.5 GW増加した。これは中国で再燃した石炭火力発電ブームによるもので、新たに運転を開始した設備容量45.5 GWの半分以上(59%)が中国に存在している。
- 世界的なガス不足とガス価格の高騰にもかかわらず、2022年に閉鎖された石炭火力発電所の設備容量は26 GWに達した。このうちの13.5 GWは米国によるものである。対して、ロシアのウクライナ進攻の影響を受けた欧州での石炭火力の閉鎖は鈍化し、2.2 GWに留まった。石炭火力発電所が一時的に再開、増設されたが、今後2~3年以内には一段落すると考えられており、2022年に設備容量の急増と見えたものは、EUの合計石炭火力発電量の1%を占めるに留まっている。
- 閉鎖が進む一方で、中国の計画設備容量は126 GW増加し、世界の他の地域での減少分を相殺した。
- パリ協定の1.5℃目標を達成するには、OECD諸国は2030年の期限までに毎年平均60 GW、非OECD諸国では2040年の期限までに毎年91 GWを閉鎖していかなければならない。しかも、現在建設中および開発中の石炭発電所(537 GW)を踏まえると、さらに急激な削減が必要となる。
2030年までに残された時間は7年しかありません。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、新しい石炭火力発電所計画の即時撤退と、先進国では 2030 年までに、その他の国では 2040 年までに既存の石炭を段階的に廃止するよう強く求めています。日本も、明確な脱石炭の目標年を設定し、速やかに実行に移す必要があります。
本レポートのダウンロード
活況と不況-石炭 世界の石炭火力発電所の計画追跡(日本語サマリーPDF)
Boom and Bust Coal 2023 (ダウンロードサイト)
Global Energy Monitorによる日本向けリリース文書(英語PDF/日本語PDF)
*日本語の要約版(5ページ)は、要旨と主な進展を抜粋したものです。日本以外の国の状況を含めた詳細は英語版(フルレポート)をご覧ください。
作成・発行:
グローバルエナジーモニター(GEM)、エネルギー・クリーンエア研究センター(CREA)、E3G、Reclaim Finance(リクレイム・ファイナンス)、シエラクラブ、SFOC、気候ネットワーク、CAN ヨーロッパ、バングラデシュの団体、ACJCE、Chile Sustentable(チリ・サステナブル)の共著により作成された。
発行:2023年4月6日