2024年12月、気候変動や人権などに関する企業の対応を調査し、機関投資家へのアドボカシーを行っている非政府組織であるオーストラリア企業責任センター(Australasian Centre for Corporate Responsibility: ACCR)はレポート「Investing in coal plant flexibility: A strategic approach for J-Power’s transition(石炭火力発電所の柔軟性向上に向けた投資:J-POWER の移行に役立つ戦略的アプローチ)」を発表しました。このレポートの中で、ACCRはJ-Powerの行っているアンモニア混焼、石炭ガス化、CCUS など、実証されていない高コストの技術に偏重した石炭火力発電所の柔軟性向上のための取り組みの修正を求めています。
ACCRは主要な分析結果として以下の6点を挙げています。
- 日本が今後 10 年間にわたり再生可能エネルギーを拡大させる中、太陽光発電は、昼間の時間帯の電源構成で再生可能エネルギーの主力電源になると考えられる。
- 太陽光発電の導入が進むと昼間の電力価格が押し下げられ、電力系統での 1 日の間の価格変動性が高まり、結果として、国内のベースロード電源として稼働する J-POWER の柔軟性のない石炭火力発電所は、価格の低い時間帯に発電せざるを得ないリスクにさらされる。
- J-POWER は、柔軟性を欠く発電源である石炭への依存度が高いため、価格の低い時間帯に特に影響を受けやすい。
- 世界の石炭火力発電設備の利用率は低下傾向にあり、日本も、そして J-POWER も、この長期的な世界規模の傾向の影響から逃れることはできそうにない。
- 柔軟性向上を目的とした石炭火力発電所の転用は、エネルギー移行の初期段階から石炭火力発電が主流の国で広く行われ、成功を収めてきた戦略である。
- J-POWER は、石炭火力発電所の柔軟性を高めることで、発電所利用率の低下による財務面への影響を軽減する意向を表明しているが 、それをどのように達成するかについての計画は一切明らかにしていない。
J-POWERの石炭火力発電所の稼働率は効率性の課題を反映して低下しており、日本および世界の石炭火力発電所の稼働率の低下傾向と一致している。(下図参照)

そしてACCRは以上の6点の分析結果に基づき、以下の2点をJ-Powerに対して提案しています。
- J-POWER は、国内石炭火力発電所の最低負荷の引き下げや柔軟性向上に向けた取り組みへの投資を最優先に進めるべきである。
- J-POWER は、これらの取り組みを同社の脱炭素化戦略に組み入れるべきである。
ACCRはJ-POWERが、柔軟性がより重要になっていることを認めながらも「いまだに、アンモニア混焼、石炭ガス化、CCUS など、実証されていない高コストの技術を主軸として石炭火力発電所の脱炭素化を進めようと」しています。そして、「企業や日本以外の各国政府が柔軟性向上のための投資を行い、確立された低コストの脱炭素化手法を重視している実際の事例は数多くある」こと、そして「石炭火力発電所の管理システムを調整して負荷調整範囲を拡大すれば、必要な柔軟性を十分確保できる可能性がある」と指摘しています。
そして「投資家がJ-POWERに対し、国内火力発電所の脱炭素化をどのように進めるのか、また世界的に採用されている実証済みかつ低コストの排出削減手法を優先させるかどうかを明らかにするよう求めるべきである」とし、投資家から以下の質問をすることを提案しています。
- 日本の再生可能エネルギーの割合が増加し、石炭火力の需要が減少する中、J-POWER は長期的な収益性に対するリスクにどう対応していくのか。これらの資産が柔軟性を欠いたままである場合の潜在的な影響を評価したか。調整策を何も講じなければ、国内事業の収益性悪化リスクは、J-POWER の競争力に影響を及ぼす可能性がある。
- 石炭火力発電所における水素、アンモニア混焼、CCUS 改修といった技術は、高コストで実証されていない新興技術である。世界的には、新興技術よりも石炭火力発電設備の柔軟性向上を優先させる傾向がある点を踏まえ、J-POWER は新興技術への投資に伴う財務リスクをどのように管理していくつもりか。
- J-POWER の国内石炭火力発電所は、太陽光発電の増加や価格の変動性が高まる電力系統にどのように適応していくのか。
*ACCRのリリースページには、このレポートの作成に利用した参照資料のリストとその情報源がリストされています。
関連リンク
ACCR:
Press Release Investing in coal plant flexibility: a strategic approach for J-POWER’s transition
レポート
Investing in coal plant flexibility: A strategic approach for J-Power’s transition(英語PDF)
石炭火力発電所の柔軟性向上に向けた投資:J-POWER の移行に役立つ戦略的アプローチ(日本語PDF)
作成・発行:オーストラリア企業責任センター(ACCR)
発行:2024年12月11日