古くからの発電技術である石炭火力は、大量に二酸化炭素(CO2)を排出する。最高効率の技術であっても、ガス火力の約2倍の排出量であり、その事実は変わらない。日本においては、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、原発稼働の見通しが不透明になったのを機に、政府と事業者は石炭火力に大きく舵を切り、急速に新規建設へと突き進んだ。しかし、これは世界の潮流に逆行している。
2012年以降、50基もの新規建設計画が乱立
2012年以降、新規に計画された石炭火力発電所は50基に上る。
(表1)。表1 2012年以降の石炭火力発電所建設計画の状況一覧
このうち、仙台や東京湾岸の千葉県・神奈川県、兵庫県内などでは、住民や市民団体が反対運動を展開し、13基は中止に追い込まれたが、逆に出力11.25万kW未満の小規模案件を中心に15基は運転を開始してしまった。しかも現在15基が建設工事を着々と進めている。建設中の案件には大規模な発電所も多く(表2)、これらを含め環境アセスメントまで進んでいる5基を加えた20基全てが運転となれば、日本のCO2排出量を7~8%増加させてしまうことになる。
石炭火力発電所は稼働年数が長いほど発電原価が下がるため、一度稼働させると長期間運転長させる可能性が極めて高い。すなわち、その間大量のCO2がそれらの発電所から排出されることになる。
2020年に5基の石炭火力が新たに稼働する?
今年7月に開催される東京オリンピックでは、猛暑など気候変動の影響が懸念され、マラソン・競歩の開催地が札幌に変更となった。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、オリンピック開催で大量のエネルギー消費を伴うことから、「脱炭素社会の実現に向けて」と銘打って、東京2020大会に伴う約300万トンのCO2をオフセットしてゼロにする方針を示している。しかしその傍らで、同年に5基の石炭火力発電所が新たに稼働を開始する(表2色セル付き部分参照)。オリンピック開催前に稼働予定の3基分(常陸那珂、竹原1号機、鹿島2号機)の年間CO2排出量を単純に月割し、それぞれの稼働開始~パラリンピックが開催される9月までの間の排出量を足しただけでも、オフセットする量と超えそうである。
また、今年年はパリ協定がスタートする年でもある。パリ協定では、気温上昇を1.5~2℃未満に止めることを目標に定めたが、これは現在よりも温暖化進む水準であり、目標を達成できたとしても気候災害が今以上の猛威で襲ってくることは避けられない。さらに深刻なのは、各国の現在の目標や行動は、1.5~2℃未満に気温上昇を止めるためには全く足らず、このままでは2030年には気温上昇は1.5℃に達し、その後も3℃以上まで上昇してしまいかねないと言われていることだ。すなわち2030年までの行動を大胆に強化しなくてはならず、2030年を迎えるあと10年のうちに化石燃料を中心とするエネルギーシステムを大きく転換できるかが問われている。
脱石炭は世界的な要請
石炭火力については、パリ協定前後から、2℃目標を達成するためには、埋蔵化石燃料の8割は燃やせないことや、CO2回収・貯留(CCS)技術を備えない石炭火力発電は2℃目標と整合しないことなどが指摘されてきた。さらに、1.5℃目標と整合させるためには、石炭火力による発電量は、世界のどの地域でも例外なく2020年にピークを迎えて速やかに減少させる必要があり、2030年には世界全体の石炭火力による発電量を2010年比で80%削減し、2040年には世界全体でゼロにしなくてはならないと試算されている。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2019年9月の国連気候行動サミット開催に際し、全ての国に対して、1.5℃目標を目指すことを前提に、2030年に温室効果ガスを45~50%削減、2050年には実質ゼロにすることと整合する計画を準備するように呼びかけ同時に新規の石炭火力については、2020年に廃止することを求めた。12月にスペインで開催されたCOP25の初日にも、石炭火力発電を減少させていくことが急務であると呼びかけている。
CO2排出削減、特に脱石炭は世界的な要請である。CO2排出量世界第5位であり先進国である日本が石炭火力を推進し続けることの妥当性は見出しにくい。15基の石炭火力発電所の建設を進めている事業者は、一刻でも早く建設中止の意思決定をすることが求められる。