2022年9月28日、ブルームバーグNEFは、2050年までにゼロエミッション社会への移行を目指す日本のアンモニアと石炭の混焼計画の経済的な実現可能性と影響を検証した分析レポート「日本のアンモニア・石炭混焼の戦略におけるコスト課題」を発表しました。
アンモニア混焼の経済性については、「日本にとってアンモニア混焼は、電力部門による排出量削減において経済性に優れるというのは考えにくい」としています。 アンモニア混焼の平準化発電コスト(LCOE)を太陽光や風力などの再生可能エネルギーと比較し、「石炭火力発電所を改修した上でのアンモニア燃焼は、特に混焼率が高い場合、経済性が低くなる」と指摘。「他の低炭素技術に対して競争力がない」と結論付けています。つまり、年々再生可能エネルギーが安価になる一方で、アンモニアの製造方法に関係なくアンモニア混焼のコストは高くなるということです。
また、炭素回収・貯留(CCS)の実現可能性および技術コストについても検討し、「日本が2030 年までにCCS技術の普及に貢献する見込みは低い」こと、「この手法の技術面・経済性の観点による実現可能性は依然として不明確」であると述べています。パリ協定の1.5℃目標を達成するためには、OECD諸国は2030年までに石炭火力を完全に廃止する必要があるとされているので、CCSに過剰な期待をかけることは、2035年までに電力部門の脱炭素化という目標達成を危うくするもので、実質的な脱炭素策とは言えません。
また、アンモニア混焼のCO2排出量削減効果についても疑問視しています。改修された石炭火力発電所でもアンモニア混焼率が50%以下の場合は、天然ガスを燃料とするコンバインドサイクル発電よりも多くのCO2を排出すること、アンモニアを燃焼させると、100年単位でCO2の273倍の地球温暖化係数(GWP)を持つ亜酸化窒素(N2O)が排出されることを指摘しています。
世界的なアンモニアの供給も重要な課題です。日本が設定した2050年の需要目標は、同年の国際エネルギー機関(IEA)の世界需要予想の約11%に相当することから、野心的すぎると指摘されています。
最後に、本レポートは、アンモニア混焼が日本のエネルギー安全保障にとって大きなリスクとなることを強調しています。その理由として、アンモニア混焼技術の商用化が実現していないことを踏まえると、少なくともCO2排出をガス火力以下に抑えるべくアンモニア50%混焼を実現するには時間を要すること、そのために今後何年もの間、日本は石炭火力を使い続けるとともに石炭の輸入を続ける必要に迫られること、さらに混焼率の上昇あるいは2050年までの専焼達成ができたとしても、アンモニアも輸入に依存することになる可能性が高いことなどが挙げられています。
グリーンアンモニア(再生可能エネルギーで生産されたアンモニア)を国内生産するにはコストが高いため、アンモニア需要量の大部分は他国から輸入することになると予想されます。結果として、石炭火力発電所を改修してアンモニア混焼を行うためには、石炭とアンモニア、2つの品目を国外に依存することになり、日本のエネルギー安全保障は長期的にはむしろ悪化する可能性があると記しています。
本レポートは、日本が脱炭素化戦略として発電部門におけるアンモニア混焼を推進することが、気候危機を進めるだけでなく、日本の経済とエネルギー安全保障にも悪影響があることを示しています。世界中の国々で石炭火力発電が再生可能エネルギーに置き換わり、再生可能エネルギーがますます安価になる中、日本はパリ協定の目標を達成し、日本の社会、経済、世界での評価において最も恩恵が得られる方法で脱炭素化を図るかを真剣に検討しなければなりません。
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- プレスリリース(ブルームバーグNEF)【英語】
作成・発行:BloombergNEF
発行:2022年9月28日