2026年2月にイランがホルムズ海峡を事実上封鎖しました。現在(2026年9月時点)、イランとアメリカがホルムズ海峡の解放に向けた協議を行っていますが、解決への道はいまだに示されていません。エネルギー経済・金融分析研究所(IEEFA)の幾つかの報告から、ホルムズ海峡閉鎖によるアジア地域へのLNGの供給の影響についてまとめてみました。
ホルムズ海峡閉鎖の影響でアジアのLNG需要が減少
ホルムズ海峡は、原油や液化天然ガス(LNG)を積んだ巨大タンカーが通過するエネルギーの大動脈とも言える場所です。ホルムズ海峡周辺で半年間にわたり続いている混乱によってアジア全域へのLNGの供給が途絶えたことは、日本も含めてエネルギー資源を輸入に頼っている各国に対し、LNGへの依存リスクの再考を迫るほどの影響を与えました。IEEFAの分析によると、2026年1~8月までのアジアのLNG需要は前年同期比で3%減少し、2025年(5%減)に続いて2年連続の減少となっています。
LNG火力が抱える問題
紛争が始まって以来、アジアのスポット市場におけるLNG価格は2倍以上に高騰しており、2027年まで高止まりが続くと予測されています。LNG輸入コストの上昇は各国の経済全体に波及しかねません。地政学的な問題に直面したアジア各国の政府は、ガスの安全保障を評価する方法を変えつつあり、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を推進する一方で、価格ショックを緩和するために、LNGやその他の化石燃料への補助金を増額するという政策上のジレンマを抱えています。
問題はLNG価格の上昇だけではありません。ガスタービンの納期は長期化しており、LNG火力の開発に要する資本コストは4年でほぼ3倍にまで高騰しているとの分析もあります。こうした状況の中、IEEFAは、過去5年間にバングラデシュ、フィリピン、タイ、ベトナムでは、総額520億米ドルにのぼる47件のLNG火力発電所建設計画が中止または、停滞、取り下げとなり、評価対象とした91件の計画のうち、計画容量のわずか11%しか稼働に至っていないと推計しています。
アジアにおけるLNGの長期的な役割の縮小
IEEFAが2026年4月に公開したアジアにおけるLNGの長期的な役割へのイラン紛争の影響を分析した報告書『The Iran conflict is cutting the long-term role of LNG in Asia』によると、同年3月時点でカタールおよびアラブ首長国連邦(UAE)からの世界向け供給量の20%が事実上遮断され、アジア諸国の輸入量も急落しました。IEEFAは、紛争が完全に解決しても、ペルシャ湾の石油・ガス施設が通常の操業を再開するには数か月を要し、カタールのLNG輸出能力の17%は最大5年間稼働できない状態が続くと見越しています。
2026年3月、アジア諸国のLNG輸入量は2,040万トン、日本の輸入量は554万トン(図1)と、2025年より減少(図2)していますが、3月単月としてはアジア諸国の中でも日本は最も輸入量が多くなっています。

出典: IEEFA, The Iran conflict is cutting the long-term role of LNG in Asia

出典: IEEFA, The Iran conflict is cutting the long-term role of LNG in Asia
近年の輸入動向を踏まえると、2026年の中国のLNG輸入量は前年比11%減の5,900万トンになると予測されています。その背景には、過去5年間に再生可能エネルギーが急速に拡大したこと、国内の天然ガスおよび石炭生産を重視していること、さらに米国との関係によりLNG調達方針が根本的に変わってきたことがあると記されています。インドでも3月の輸入量は前年同月比で20%減少しています。とはいえ、この二国とも発電燃料としてのLNGへの依存度が比較的低く(図3)、中国では過去10年間以上、発電構成に占めるガスの割合は3%程度に留まり、インドでも2023年以降は2.0%未満となっている一方で、再生可能エネルギーが急速に拡大していることが明らかです。

出典: IEEFA, The Iran conflict is cutting the long-term role of LNG in Asia
他のアジア各国でも、LNG輸入減少を機に電力開発計画の見直しを進めています。パキスタンでは、太陽光発電の急速な拡大が深刻な影響を防ぐ緩衝材となっており、新たなLNG火力発電所を建設しない方針を発表しました。韓国は、LNG輸入を最小限に抑えるべく、原子力発電所の運転を再開するなどの緊急処置を講じると共に、7GWを超える再生可能エネルギーと1.3GWの蓄電池技術の稼働を前倒しで進めることを目指しています。フィリピンでは、2025年末に2つの大規模LNG火力発電事業計画が販売契約の確保が困難であることを理由に中止となり、エネルギー不足を緩和するため、総発電容量1.47GWにおよぶ再生可能エネルギー事業計画を前倒しすると発表しています。
2026年4月15日公開: The Iran conflict is cutting the long-term role of LNG in Asia
日本の対応
ホルムズ海峡閉鎖によるエネルギーショックに対する日本の反応は、輸入に依存しているという根本的な要因への対処とはなっていません。LNG火力の稼働をおさえるため、既存の石炭火力発電所の抑制措置の緩和や原子力発電所の再稼働を急がせています。
先述の報告と同時期に公開されたIEEFAの「Japan’s energy security response is creating a renewables blind spot(日本語版:日本のエネルギー安全保障対応が再生可能エネルギーの盲点を生み出している)」は、日本が地政学的リスクを伴うことなくエネルギー安全保障上のメリットをもたらすことのできる再生可能エネルギーを拡大するのではなく、柔軟性に欠けるベースロード電源の拡大に重点を置いていると指摘すしています。さらに、石炭火力や原子力発電を優先することは、旧態依然の電力システムを固定化し、再生可能エネルギー導入を阻害することになると警告しています。実際、原子力発電の再稼働した九州、関西、東京では再生可能エネルギーの出力抑制が増加しています。原発が再稼働し石炭火力が十分に抑制されず再生可能エネルギーが補償もなく無制限に出力抑制されている現状は、事業者の収益を減少させるに留まらず、再生可能エネルギーの拡大を阻害し、将来のプロジェクトへの投資意欲を弱めることにもつながります。(東電の出力抑制についてはこちらもご覧ください)

出典: IEEFA, Japan’s energy security response is creating a renewables blind spot
経済産業省は、2026年度の緊急的な対応として、非効率石炭火力(熱効率42%未満)に対する稼働抑制処置(稼働率上限50%)を適用しないと発表しました。この施策により非効率石炭火力(出力合計は約9GW)の稼働率を引き上げれば、LNGの消費量を年間50万トン節約できるとの推定ですが、石炭も輸入に依存している以上、中東への供給依存を軽減したにすぎません。燃料の輸入依存が続き、しかも温室効果ガス排出を増加させることになり、再生可能エネルギーへの移行を阻害することになります。
報告書は、石炭や原子力を優先しながらもLNGの利用を継続・拡大させ、再生可能エネルギーの出力を抑制し続ける日本の対策では、エネルギー安全保障上の課題解決に至らないと結論付け、「輸入燃料費の上昇から日本を守るには、、政策の再調整が必要である。」としています。
2026年4月28日公開:Japan’s energy security response is creating a renewables blind spot
日本語版:日本のエネルギー安全保障対応が再生可能エネルギーの盲点を生み出している (PDF)
LNG市場の今後
さらにIEEFAは、今後の動きについても以下のようにまとめています。
中東の紛争以前、LNG市場は史上最大規模の供給拡大に向かっていました。中東紛争が勃発してからは状況が停滞してはいるものの、湾岸地域以外(北米、アフリカ、オーストラリア)からの新たな供給が一部の供給不足を補いつつあり、前例のない規模の新たなLNG供給により、今後は世界の供給量が概ね横ばいで推移すると見込んでいます。大規模なLNG生産拡大が進んでおり、今後は再び供給過剰に移行しつつも、需要側の動向には地域差があるため、LNGの買い手不足に陥る可能性があるとも指摘しています。アジアはLNG需要の見直しを進めることでLNG輸入への依存を低減しようとしており、欧州では米国産LNGへの依存度を高めながらも再生可能エネルギーの導入を進めているため、2025年から2030年にかけてはLNGの需要は減少すると予測しています。その結果、需給にミスマッチが生じるリスクは高まっているというのです。
今後の展開は、依然として中東情勢に大きく影響されますが、紛争が長引く可能性も捨てきれません。しかし、湾岸諸国以外の新たな供給源が既にホルムズ海峡閉鎖による供給途絶の影響の多くを相殺している上、さらなる供給増強も予定されていることから、LNG市場としては供給過剰に逆戻りする可能性があると述べています。
2026年9月16日公表: The LNG glut has been delayed, not cancelled
ホルムズ海峡の混乱が半年続いていることが、LNGの安定的な供給に疑問を投げかけることとなりました。日本は、LNG供給過剰になるとの予測を吉としてアジア各国への再販や国内のLNG火力発電所の建設に邁進するのでしょうか。既存のエネルギーインフラに固執することで見せかけの「エネルギー安全保障」を維持しようとしていますが、自国のエネルギー安全保障を乱高下する燃料に委ねたまま、再生可能エネルギーを拡充する貴重な機会を逃している日本はどうなるのか-先が見えません。

