【ニュース】水素社会推進法で石炭火力も支援ーその問題を解説


2025年12月19日、水素社会推進法(正式名称:脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律)にもとづく水素・アンモニア等の価格差支援制度により、新たに2件、石炭火力へのアンモニア混焼に初めて支援がつくことになりました。

水素社会推進法とは、脱炭素社会への移行に向けてCO2排出量が少ない「低炭素水素等」の供給・利用を促進するための法律です。今回、その法律に基づく価格差支援制度によって発電部門、しかも段階的に廃止すべき石炭火力が支援を受けられることになりました。
 ※価格差支援(価格差補填ともいう)制度については、こちらをご覧ください。

石炭火力へのアンモニア混焼は、非常にコストが高いうえ、実質的な温室効果ガスの削減効果はほとんどないか、むしろ気候変動を悪化させる可能性があると指摘されています。以下に今回の措置の概要と、その問題点を紹介します。

支援対象:石炭火力へのアンモニア混焼を前提とした事業計画

認定供給等事業者事業の概要アンモニアの量期間
JERA
豊田自動織機
AGC
日本碍子
アイシン福井
中部電力ミライズ
・JERAが米ルイジアナ州で製造する低炭素アンモニアを日本に供給
・大部分をJERAの碧南火力発電所のアンモニア混焼に用いる
・一部を豊田自動織機、AGC、日本碍子、アイシン福井の工業炉の燃料などに利用
492,144トン
(年間)
2030年2月
~2055年1月
三井物産
北海道電力
UBE三菱セメント
東ソー
・三井物産が米ルイジアナ州で製造する低炭素アンモニアを日本に供給
・大部分を北海道電力の苫東厚真火力発電所のアンモニア混焼に用いる
・一部をUBE三菱セメントの工業炉の燃料や東ソーの原料用途などに利用
280,000トン
(年間)
2031年1月
~2055年12月
出典:経産省より

米ルイジアナ州(Blue Pointプロジェクト)で製造した低炭素アンモニアを船舶輸送し、JERAの碧南火力(愛知県碧南市)と、北海道電力の苫東厚真火力(北海道勇払郡厚真町)の石炭火力発電所で混焼する予定です。

JERAの碧南火力では4号機において2027年度から、5号機は2029年度から、北海道電力の苫東厚真火力4号機では2030年度から、それぞれアンモニア20%混焼での運転開始を計画しています。

▶碧南火力のアンモニア混焼計画についてはこちら【4号機】【5号機
▶苫東厚真火力のアンモニア混焼計画についてはこちら【4号機

これら2計画のためのアンモニア製造は、米CFインダストリーズ・JERA・三井物産が出資した、米ルイジアナ州での「Blue Point(ブルーポイント)」プロジェクトで行われます。CFインダストリーズのウェブサイトによると、ここで生産されるアンモニアは米国の天然ガス由来で、アンモニア生産プロセスで発生するCO2の95%以上が回収・貯留(CCS)されるようです。つまり、今回のアンモニアは「ブルーアンモニア」であり、再生可能エネルギーで製造されるグリーンアンモニアではありません。2029年からの生産開始を目指していますが、本当に「低炭素」アンモニアを製造できるのでしょうか。

アンモニア混焼に対し国が支援を行うことは、幾重にも問題があります。以下にその問題点を整理します。

問題点① 「低炭素アンモニア」でも排出削減効果はほとんどない

ブルーアンモニアの製造時には大量のCO2が排出されますが、現在実用化されている技術でCO2を回収する(炭素回収貯留=CCS)には大量のエネルギーが必要であり、かつ回収できるCO2の量は60-70%程度と言われてます。しかも、ライフサイクルでの排出量を踏まえた場合、低炭素アンモニアの混焼では、排出削減効果は低いと試算されています。(図)

むしろ、削減効果があるように見せかけて石炭火力を延命するための施策であると批判が強まっています。

図:「低炭素アンモニア」(炭素集約度:0.87kg-CO₂/kg-NH₃以下)を石炭火力に混焼した場合、どの程度排出が減るか

参考:気候ネットワークレポート「石炭火力のアンモニア混焼に関する問題 ~真の気候変動対策は、石炭火力の全廃からはじまる~」より作成*1

このように、「石炭火力へのアンモニア混焼」は排出削減対策になりません。むしろ石炭火力を延命するための施策であると国内外で批判が強まっています。

問題点② 「低炭素アンモニア」の前提条件—CCSで95%も回収可能なのか?

先に述べたように米国Blue Point事業計画ではCCSによりアンモニア製造時のCO2を回収するとしています。*2「低炭素」の要件をクリアするにはアンモニアの製造時に95%以上のCO2を回収しなければなりませんが、IEEFAによれば回収率が8割に達しているCCSプロジェクトは一つもありません。この高いハードルをクリアすることはきわめて困難であると考えられます。

最低限、事業者はCCS事業のCO2回収率を保守的に見積もり、そのうえで炭素集約度を算出するべきです。また、操業後の実績も正直に提出しなければ、隠れた排出量が知らぬうちに発生してしまう可能性があります。

問題点③ アンモニア製造現場での問題

米ルイジアナ州でアンモニア製造を担うCFインダストリーズは、全米で最も有害物質(主にアンモニア)を大気に放出している事業者だと指摘されています。製造現場であるルイジアナ州アセンション郡は米国の大気汚染ランキングの上位10地域にランクインされており、健康被害の問題に直面している地域住民からはさらなる汚染を懸念する声が上がっています。2025年11月5日には同社のミシシッピ州のアンモニア工場で爆発事故が起きており、製造管理および地域への対応についても問題があると見られています。こうした事業者と組むことが「クリーンエネルギーへの取り組み」になるのでしょうか?

問題点④ コストの問題—複数の補助金頼み、それでも成り立つか不明なアンモニア混焼

アンモニア混焼のコストも大きな問題です。どのような方法であってもアンモニア製造には多額の費用がかかり、補助金の支援を受けても経済合理性があるように見えません。Asia Reserch & Engagement(ARE)の調査によれば、ブルーアンモニアを20%混焼した場合と50%混焼した場合のいずれでも燃料費は収益を上回っています。高額な燃料費は価格差支援制度だけでは補填しきれないため、先述の2つの石炭火力発電所でのアンモニア混焼は「長期脱炭素電源オークション」でも支える仕組みとなっています。
  ※長期脱炭素電源オークションについて、詳しくはこちら

アンモニア混焼は政府の支援金なしには成し得ません。さらに、アンモニアの価格は政府の当初予想よりも高水準で推移しています。つまり、価格差支援を行う15年間にどの程度の実質的な支援が必要になるか見通せないのが現状です。事業者が脱炭素に向けた制度を利用するからには、前提となる「低炭素」であることを明示し(炭素集約度の公開)、費用体効果を検証していくことが必要です。

とはいえ、価格差支援制度と長期脱炭素電源オークションでアンモニア混焼を支援し続けることは、排出削減対策の費用対効果を考えれば有効とは言い難いと言えるでしょう。

韓国はアンモニア混焼への支援を見直し、世界各国では石炭火力の廃止が進む

韓国は、アンモニア混焼への支援の見直しを始めています。韓国はもともと、クリーン水素発電入札(Clean Hydrogen Portfolio Standards; CHPS)の中でアンモニア混焼を支援する予定でしたが、CHPSの第2回入札からアンモニア混焼を対象から外す方向で検討すると発表しています。石炭火力の延命につながるアンモニア混焼への支援を取りやめることは新政権の2040年までの石炭火力の段階的な廃止に向けた方針と整合するものです。

国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)で韓国は脱石炭火力の姿勢を明確に示しました。世界各国は石炭火力の廃止に向けた取り組みを継続しています。日本も韓国の動きに倣い、石炭火力発電へのアンモニア混焼を支援しないように、水素社会推進法の価格差支援制度を見直し、石炭火力発電所の段階的廃止を進めるべきであると考えます。

2055年まで石炭火力を動かすつもりか?

2025年7月、国際司法裁判所(ICJ)は「気候変動に関する国家の義務についての勧告的意見」を発表しました。この中でICJは、国家が「化石燃料の生産、化石燃料の消費、化石燃料の探査許可の付与、化石燃料補助金の提供」などを行う場合、不法行為にあたる可能性があるとしました。

今回認定された事業概要を見ると、この2計画の期間は2055年までとされています。それまで石炭火力を稼働させ続けるつもりでしょうか。ICJの勧告的意見に照らせば、天然ガス由来の水素・アンモニアの混焼によって火力発電を支援することは国際法上の不法行為にあたる可能性が十分あります。

これらのことをかんがみて、水素社会推進法の価格差支援制度は一刻も早く見直すべきだと考えます。

<注釈>

*注1
このグラフにはアンモニアの海外からの船舶輸送、液化、貯蔵等で発生するCO2は含まれない。米ルイジアナ州から運んでくる場合、相当のCO2排出が追加される見込み
*注2
低炭素アンモニア製造のためのCCS事業は、米ルイジアナ州の1PointFiveという事業者の拠点ペリカンハブ(メキシコ湾沿岸)にて行われる予定。しかし、この事業はまだ最終投資決定を経たばかりであり、実際に操業が行われているわけではない。事業者はCO2を95%回収可能としているが、注釈元の通り95%という数字がどこまで担保されるかは不明。

<参考資料>

・気候ネットワーク【ポジションペーパー】「燃料アンモニアに関するポジションペーパー『ゼロエミッション火力への挑戦』が石炭火力を延命し気候変動を加速する」(リンク
・気候ネットワーク【レポート】石炭火力のアンモニア混焼に関する問題 ~真の気候変動対策は、石炭火力の全廃からはじまる~(リンク
・自然エネルギー財団 連載コラム『水素・アンモニア火力は現実的な脱炭素電源になりうるのか』(リンク
・FoE Japan グレーなのに「クリーン」? 水素・アンモニアは 脱炭素の切り札にはならない(リンク

・脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律(水素社会推進法)(リンク
・CF Industries:Blue Point Complex(リンク