日本の石炭火力発電は、これまで日本政府や事業者によって、気候変動対策の観点から「高効率による低排出」、さらに高度な大気汚染物質除去装置により排気も「クリーン」であると紹介されてきました。
こうした流れの中で、「世界最新鋭」と評されるIGCC(石炭ガス化複合発電)方式を採用した石炭火力発電所が日本に3基あります。福島県の勿来(なこそ)と広野にある各54万kWの2基、広島県の大崎に1基(16.6 万kW)が設置されており、いずれも実証プラントとして建設・運用されています。これらは皮肉にも、トラブルによる停止期間が長いことで、結果的に大気汚染物質、CO2排出量が少なくなり「最新鋭のクリーンな石炭火力」となっています。
IGCCとは何か
IGCCは、石炭をボイラーで直接燃焼させるのではなく、ガス化炉でいったんガス化し、その石炭ガスを燃料としてガスタービンと蒸気タービンの両方で発電を行う方式です。これにより、従来型の微粉炭火力発電と比べて発電効率が高く、CO₂排出量が少ないとされています。
IGCCには、石炭をガス化する方式として、空気を用いる「空気吹き」と、酸素を用いる「酸素吹き」があります。福島県の2基はいずれも空気吹き方式を採用しており、酸素吹き方式については広島県の大崎クールジェンで開発・実証試験が進められています。
図. 従来の石炭火力発電とIGCCの違い

鳴り物入りで始まった福島IGCC発電所建設計画
今回、注目したいのは福島県に建設されたIGCCを採用した2基の石炭火力発電所です(以下、広野/勿来IGCC)。
これらの計画は、東京オリンピック2020の招致決定と時期を同じくして進められました。また、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県での事業であったことから、復興に貢献する電源として「オリンピック電源※」「福島復興電源」と位置づけられ、広く喧伝されてきました。
まさに鳴り物入りで始まった広野/勿来IGCCの計画ですが、その「クリーンな石炭火力発電所」の実態について見ていきます。
※建設が遅れて、東京オリンピックには間に合いませんでした。
トラブル続きで頻繁に停止。動かないから大気は“クリーン”
石炭火力発電所は、燃料が安価で地政学リスクも少ないことから、安定供給を担う重要なベースロード電源とされてきました。しかし、広野/勿来IGCCは、その役割を十分に果たせていません。日本卸電力取引所が運営する発電所情報システム(HJKS)からは、広野/勿来IGCCが長期の停止を繰り返していることが読み取れ、広野/勿来IGCCがガス化炉に不具合を抱えていることが伺えます。最新鋭で、高効率な石炭火力発電所であっても、そのポテンシャルが発揮されているとは言い難い状況にあります。
表1. 2021‐2025年までにおけるガス化炉不具合による停止件数(発電所情報システム(HJKS)より作成)
| 発電所名 | ガス化炉関連不具合 |
| 勿来IGCC | 37 |
| 広野IGCC | 18 |
しかし、動かないからと言って、ただ存在し続けることは市民にとって望ましいものとは言えません。これまでIGCC技術の開発には、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を通じて多額の研究開発費が投じられてきました。また、多くの火力発電所は現在、次に述べるように火力発電所を維持するための制度の恩恵を受け続けています。広野/勿来IGCCも同様です。
稼働率が低くても発電所を支える「容量市場」制度
広野/勿来IGCCの稼働率が低くても、発電所が維持されている背景には、「容量市場」の存在があります。容量市場とは、「実際に発電した電力量」ではなく、「将来、発電できる能力(容量)」に対して報酬が支払われる仕組みです。電力の安定供給を目的として、発電所の設備そのものに対して報酬が支払われます。(詳しくはこちら:ファクトシート「容量市場」)
広野/勿来IGCCのように、トラブルが頻発し、安定稼働ができていない設備であっても、理論上の設備容量をもとに一定の収益を確保できるのです。
表2. 容量市場における勿来・広野IGCCの落札状況(kW)(電力広域的運営推進機関資料より作成)
| 対象実需給年度 | 2025年 | 2026年 | 2027年 | 2028年 |
| 勿来IGCCパワー合同会社 | 454,750 | 454,750 | 454,750 | 454,750 |
| 広野IGCCパワー合同会社 | 453,750 | 453,750 | 453,750 | 453,750 |
上表に示したように公開されている落札容量から計算すると、それぞれ年間およそ40億円程度の報酬を受け取っている(受け取る)可能性があります。その結果、本来であれば発電電力量の実績からして、十分な収益をあげられていない福島の2つのIGCCは、「座礁」していないとしても、非常に厳しい経営環境に置かれているはずが、制度によって延命される構造が生まれています。
そして、事業者が得る報酬の原資は、「容量拠出金」として電力料金の中に組み込まれ、一般消費者の負担として転嫁されています。こうして、表からは見えにくい形で、石炭火力をはじめとする化石燃料火力の延命策が進んでいます。
最後にー重要なのは脱炭素の「技術」と「仕組み」の組み合わせ
政府や事業者の広報資料では、「クリーンな石炭火力」が存在するかのように語られ、疑問を持たれることなく使われ続けてきました。
しかし、実際に広野/勿来IGCCの発電所で何が起きているのかを見ていくと、頻発するトラブル、長期停止、低い稼働率など―様々な問題が発生しています。それでも制度によって支えられ、表に出にくいかたちで私たちの負担が続いています。
広野/勿来IGCCの問題は、「うまく動かない技術」にあるのではありません。それを支える仕組みと、問い直されない政策判断にあります。
巨額の研究・開発費用を投じても十分に機能していない発電所が制度によって温存される一方で、真に脱炭素に必要となる再生可能エネルギー、送電網整備、蓄電池などへの投資は後回しにされてきました。福島県は日本で最も石炭火力発電所の設備容量が大きな県です。福島県は再生可能エネルギーの普及拡大に向け、地域主導の取り組みを進めていますが、その足下で、国の政策により問題の多発している石炭火力発電所が温存させられているのです。そのツケは、すでに電気料金という形で私たちの生活に転嫁されています。
容量市場制度をはじめとする火力中心の発電所温存政策を抜本的に見直し、再生可能エネルギー中心の電力システムへと大きく舵を切る必要があります。

