【ニュース】産業革命発祥の英国で石炭火力を全廃


2024年9月30日、石炭火力発電発祥の地、英国で国内最後の石炭火力発電所が運転を終了しました。1882年に世界で初めての石炭火力発電所が発明家エジソンによってロンドンに建設されてから、142年の石炭火力の歴史に終止符を打ったことになります。

各国は、二酸化炭素(C02)の排出が特に多い石炭火力の段階的な削減を進めていますが、特に先進7カ国(G7)は、2024年5月のイタリア・トリノでの先進7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で、CO2の排出削減対策のない石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することに合意しています。今回の英国の石炭火力の全廃は、G7で初めてとなります。

英国最後の石炭火力

英国最後の石炭火力となったのは、英中部ノッティンガム近郊のラトクリフ・オン・ソア(Ratcliffe-on-Soar)発電所。ドイツのエネルギー大手ユニパー(Uniper)が運営しており、1963年に着工し、1967年に運転を開始してから57年にわたり電力を供給してきました。発電容量は500MWが4基、計2,000MW(2GW)で、8本の高さ114メートル、底部の直径87m、頂部の直径55mの冷却塔が特徴的でした。ユニパーによると、発電所閉鎖後の廃炉作業は2年に及び、廃炉処理が完了した後、解体業者に引き渡され、約270haの敷地内の施設が取り壊されることになっています。

2015年に英国が、2023年までに石炭火力の使用を制限し、2025年までにすべての石炭火力発電所を閉鎖するとの計画を発表した時点では、約30%の電力を石炭によって賄っていました。それから約9年。英国・エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)の発表資料によると、石炭火力発電所が廃止される直前の2024 年第 2 四半期の英国における発電事業者による石炭需要は 13.5万トンと、前年同時期を 6.6%上回ったものの、発電量に占める石炭火力の割合は1%未満であったと記されています。

電力供給の割合

英国は、大規模な洋上風力発電設備を建設するなど、再生可能エネルギー(再エネ)の割合を拡大させてきました。2023年、電力供給に占める石炭火力の割合はわずか1.3%だったのに対し、風力と太陽光は32.9%、水力は1.9%、そのほかの再エネは11.6%でした。これら再エネの合計は46.4%となり、化石燃料(ガス34.7%、石油ほか3.7%、石炭1.3%)の合計39.7%を上回っています。こうした再エネの拡大が石炭火力発電所を段階的に廃止することにつながっています。

出典:UK ENERGY IN BRIEF 2024

英国以外の国でも進む脱石炭火力

G7の中では、英国が最初に脱石炭火力を達成しましたが、他の国も着実に段階的廃止を進めています。

イタリアでは、サルデーニャ島を除き、2025年末までに石炭火力を廃止することを約束する、とエネルギー相が議会で明言しています。サルデーニャ島における発電のための石炭の使用も、2026~2028年の間に終了する予定となっているようです。
フランスは、残り2基の石炭火力発電所の廃止を2024年から2027年に延期したものの、IEA(国際エネルギー機関)のデータによると、2023年の総発電量に占める石炭火力の割合は2.6%とわずかであり、2027年までに電力部門における石炭使用を段階的に廃止することを含む、化石燃料への依存を段階的に減らしていくための10年間の主な目標をまとめた「エネルギー・気候戦略」を推し進めています。
カナダでは、4州(アルバータ州、サスカチュワン州、ニューブランズウィック州、ノバスコシア州)に石炭火力が残っていますが、4州すべてが2030年までに段階的に廃止にするか、石炭からのCO2排出をすべて回収することを約束しています。
ドイツでは、2026年、2029年、2032年に石炭火力発電所の廃止予定時期をそれぞれ3年前倒しすることが可能かどうかを確認するとしており、可能であれば2035年までに石炭火力発電所完全に廃止することができるとしています。実際、今年3月末には設備容量3.1GW相当の石炭火力発電所計7基が廃止されると報じられており、着実に石炭火力の廃止を進めています。

日本もG7としての役割を果たせ

石炭火力発電の閉鎖は英国のGHG排出の削減に如実に現れています。2050年までのネットゼロ目標を掲げる過程で、電力部門の脱炭素化を目指し、再生可能エネルギー(再エネ)の拡大にも力を入れています。

世界の発電量に占めるG7の割合は少ないので、石炭火力への依存度が高く、排出量の大きな中国やインドの石炭火力からの脱却が進まなければ、排出削減効果は小さいとの声もあります。とはいえ、石炭火力の発電量あたりの排出が他の燃料よりも高い以上、まず石炭火力の削減が不可欠です。電力における脱炭素化を進めるために、G7諸国が率先して再エネへのシフトを急がなければなりません。英国の脱石炭は、世界的な脱石炭への急速なシフトのひとつです。

先進国の中でも石炭火力への依存が約3割程度と高い日本は廃止の目標時期も定めていません。石炭に固執を続ける日本は、いつ石炭火力の実質的な削減に着手するのでしょうか。

★駐日英国大使のメッセージ