【ニュース】モンタナの環境政策に対する気候訴訟 若者原告支持の判決


世界各地で気候変動に起因する自然災害が頻発する中、法律の力で気候変動問題を解決に導こうとする動きが世界中に広がっています。気候変動による影響や被害を受けることは「人権の侵害」、あるいは気候変動の悪化は政府の環境対策が不十分であるなどとして、企業や政府に対して訴訟を起こす「気候訴訟」事例が増えており、そのひとつである、米国モンタナ州で若者が主導してきた「ヘルド対モンタナ州」訴訟に対し、8月14日にモンタナ州裁判所が若者原告を全面的に支持する判決を下しました。

モンタナ州裁判所の画期的な気候裁判

ヘルド対モンタナ州訴訟は、16人の若者原告が、州が化石燃料の使用を促進することで「清潔で健康的な環境」への権利を侵害していると訴えたものです。2023年6月12日から2週間にわたって開催された裁判では、原告の若者・子供たちが、気候変動が彼らの健康と生活に深刻な影響を及ぼしていると証言し、その根拠としてさまざまなデータや報告書を提出しました。そして、8月14日にモンタナ州裁判所は、同州の環境政策法の規定が、化石燃料関連のプロジェクトの気候への影響を考慮することを妨げ、州の環境および若者原告たちに悪影響を及ぼしたとの判決を下しました。モンタナ州には全米最大の石炭埋蔵量があり、石炭が州経済にとって重要なものであることを踏まえると、今回の全米初の憲法訴訟および初の若者主導の気候変動訴訟における原告を全面的に支持する判決は、非常に大きな意味があると言えます。

この画期的な判決が、世界中の若者が自分の将来を守るために、気候変動の緩和策・適応策、気候変動に関わる重要な問題を提起し、法廷で論じることの後押しとなることが期待されます。

気候訴訟の拡大

国連環境計画(UNEP)の調査結果(2023年7月発表)によると、気候変動に関する裁判の総数は2017年の884件から、2022年の2,180件への2倍以上に増加しています。ほとんどの訴訟は米国で提起されていますが、世界中で拡大しており、気候訴訟が気候変動対策を促進し、気候正義を確保するための重要な要素になりつつあることが示されています。

日本での裁判

日本でも気候変動に多大な影響を与える石炭火力発電所の建設を阻止することを目的とした訴訟が神戸と横須賀で提起されています。

神戸
神戸製鋼、その子会社のコベルコパワー神戸第二、神戸石炭火力発電所で作られた電気を購入する関西電力に対して、石炭火力発電所の建設と稼働をやめるよう周辺住民が求めた民事訴訟と、国に対して同発電所の環境影響評価書の確定通知の取消しを求めた行政訴訟。
いずれの訴訟でも、新たな石炭火力発電所の稼働差し止めを求める原告の請求は認めらませんでした。行政訴訟については最高裁により原告の上告が棄却されましたが、民事訴訟については原告側は控訴を予定しています。神戸の訴訟に関するサイトはこちら。

横須賀
JERA(東京電力と中部電力の合弁会社)が横須賀市で建設を進めている大型石炭火力発電所につき、環境影響評価書に対する経産大臣の通知の取り消しを求めて周辺住民が起こした行政訴訟。住民の反対を無視してJERAが該当発電所の運転を開始する中、東京地方裁判所での裁判は続いています。横須賀の裁判に関するサイトはこちら。

日本で気候変動問題を裁判で解決するのは、大変な困難を伴います。国によって法律や裁判の進め方などに大きな違いがありますが、気候危機が加速している中、米国や他国で気候訴訟が気候変動対策を変えるひとつの手段として認められていることも踏まえれば、日本でも安全な環境で暮らせる権利が人権として認められ、それが侵害された場合には争える司法制度が必要なのではないでしょうか。

参考

Historic Trial: Held v. State of Montana(英語
Our Children’s Trustプレスリリース:Sweeping Constitutional Win for Held v. State of Montana Youth Plaintiffs(英語

【プレスリリース】8月14日、米国・モンタナ州:16人の若者気候訴訟で米国初の勝訴判決- モンタナ州の石炭政策は子どもたちの憲法上の権利を侵害!(2023年8月17日)(リンク

関連ウェビナー資料と動画掲載

気候ネットワーク:2023年8月2日(水)世界の気候訴訟最前線2 動き出した米国の司法!モンタナの若者16人の挑戦 ―モンタナ気候訴訟 弁護団からの報告―(リンク