11月12日、国内最大の発電事業者であるJERAが、卸電力市場で相場操縦を行ったとして業務改善の勧告を受けました。大手電力会社がその影響を認識しながら取引価格をつり上げたということは重大な問題だとして環境NGOなどが抗議声明を発表しました。
電気の市場価格
電気の市場価格とは、「日本卸電力取引所(JEPX)」で取引される電気の約定価格のことで、JEPXは発電事業者と小売電気事業者が電気を取引できる場として設立され、発電事業者から電力を購入し、それを小売事業者に販売しています。
JERAの相場操作
今回、JERAが卸市場に電力を供給する余力があったにもかかわらず、停止する発電ユニットの余剰電力の一部を供出していなかったことが指摘されました。国の指針では、大規模発電事業者は需要を超えて発電した余剰電力が出た場合、そのすべてを卸市場に供給するように求めています。にもかかわらず、JERAは、判明している限り2019年4月から2023年10月までの4年半もの間、余剰電力の供給を怠っていたことが判明しています。これにより、2021年11月には取引価格が最大で1kWh(キロワット時)当たり50円以上つり上がった可能性があると指摘されており、発電事業者による「売り惜しみ」は相場操縦にあたるとして、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員が電気事業法に基づいて業務改善を勧告しました。JERAはシステム設定などが不完全だったことが原因と釈明していますが、監視委員会は、JERAが自社の対応の不備を長期間認識していたにもかかわらず、放置していたことも問題視しています。
電力会社による市場操作はJERAだけなのか
2023年3月には、公正取引委員会が、中国電力、中部電力、九州電力の3社などに独占禁止法違反で排除措置命令および課徴金納付命令を出しました。この時には、今回勧告を発した電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供に関する問題も指摘されています。公正取引委員会の調査で、大手電力会社同士が情報交換し、JEPXの価格操作にまで及んでいたことが発覚したのです。大手電力が卸市場への供給量の絞り込みを行い、市場価格を吊り上げれば、新電力の競争力の低下につながるだけでなく、価格に影響力を持たない小規模の地域電力などの成長の機会を奪うことになります。そして、卸市場の価格操作は電力価格の高騰を招き、我々消費者にも甚大な不利益をもたらすことになります。
電力は産業および生活の基盤です。電力事業者が「安定供給」を前面に押し出しながら、自社で発電した電力の供給を操作し、価格を意図的に動かすような問題行為を起こし、それを市場や制度が抑止できないのであれば、非常に大きな問題です。
電力市場で適正な競争環境のもと、公正な取引が行われるためには、優位に立つ大手電力会社が価格操作を行うような不当な状況が生まれないよう、徹底した調査と情報公開、さらに大手電力会社への規制強化、監視体制の強化が不可欠です。消費者としても「電気料金が上がって困る」と嘆くだけでなく、価格の裏側にまで目を向け、電力会社の動向に注意を払っていくことが必要でしょう。
経済産業省:株式会社JERAに対する業務改善勧告を行いました
JERA:スポット市場への未入札等に係る電力・ガス取引監視等委員会からの業務改善勧告の受領について
参考