世界各地で異常気象が頻発し、2030年までに残された時間も刻々と少なくなっている中、気候変動への対応は喫緊の課題です。日本は岸田政権の下、脱炭素社会を実現させるために「グリーントランスフォーメーション(GX)」の議論が進められていますが、ここには「誤った対策」が含まれています。
本来、グリーントランスフォーメーションとは、化石燃料に依存する経済・社会、産業構造から、再生可能エネルギーを中心とした持続可能な社会に向けた経済社会システム全体の変革を指します。しかし日本政府は、今年7月にGX実行会議を立ち上げ、再生可能エネルギーへの転換や持続可能な社会の構築などを主軸とせず、まだ実用化もしていない革新的イノベーションに重点をおいた議論を進めています。9月26日から10月7日までの期間には「東京GXウィーク」を主催し、「国際GX会合」を含む10の国際会議を通して水素やアンモニア、CCS(炭素回収貯留)、LNG等の利活用について議論を行うとしていますが、日本政府が掲げるGX戦略には、化石燃料依存からの脱却を遅らせる“誤った対策(False Solutions)”が含まれています。
誤った対策
- 水素・アンモニアを発電燃料として既存の火力発電インフラで石炭と混焼する技術は、化石燃料依存を維持、化石燃料インフラの延命にしかならない。また、水素・アンモニアの混焼技術が現時点で商業的に確立されていない上に、温室効果ガス(GHG)の削減効果は疑問視されている。経済的、技術的な不確実性のリスクを抱える技術をあてにしたエネルギー移行を描くことは危険である。
- LNGはクリーンエネルギーへのシフトにおける「繋ぎのエネルギー」にはならない。GHG削減だけでなく、ロシアによるウクライナ進行によるエネルギー安全保障を鑑みれば、LNGの推進も脱炭素化および環境保全、さらにエネルギー安全保障の観点から問題である。日本の官民が国外で推進しているガス開発事業では、現地の環境破壊や先住民族に対する人権侵害が報告されており、国際社会ではこの点でも問題視されている。
- 多額の公的支援が化石燃料インフラに投じられているが、日本のガス・石油に対する公的資金の投入額は世界最大級となっている(2012年から2020年までの期間)。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)法が改正され、水素・アンモニア等の燃料やCCS の利用促進が追加されたが、アンモニアや水素の製造方法に制限はなく、さらなる資金が化石燃料開発につぎ込まれることが懸念される。
日本政府は、2022年6月のG7首脳会議では引き続き「国内の、排出削減対策がとられていない(unabated)石炭力発電を最終的に廃止する目標に向けて具体的かつタイムリーにステップを踏む 」ことを目標にすると合意していますが、実質的な削減策を示していません。そこに加えて日本政府が国内外で推進しようとしている水素・アンモニア混焼技術が「排出対策」となることは論外です。水素・アンモニア混焼やCCS/CCUS、ガス火力の推進といった「誤った対策」を進めるのではなく、実質的かつ確実なGHG削減策を進めることが必要です。
参考情報
経済産業省 東京GXウィーク(リンク)
環境NGOによる共同声明
【共同声明】日本政府のGX戦略は化石燃料まみれ
水素・アンモニア混焼及びLNGのような「誤った対策」ではなく真の脱炭素支援を(リンク)