【ニュース】米エネルギー省のCCS実証事業は経済的な重大リスクか


米国会計検査院、エネルギー省のCCS実証事業を経済的な重大リスクと指摘

昨年12月20日、米国会計検査院(Government Accountability Office:GAO)が報告書を発表し、米国エネルギー省(Department of Energy: DOE)は炭素回収・貯蔵(CCS)の実証事業を支援することで、巨額の資金を無駄にするリスクに直面していると指摘しました。

Carbon Capture and Storage: Actions Needed to Improve DOE Management of Demonstration Projects」と題するこの報告書は、DOEが支援してきたCCS実証事業の結果とその背景、DOEによるCCS実証事業のマネジメントについて分析して問題点を指摘し、改善のための提案を行っています。

DOEは2009年以降、様々な実証事業によってCCS技術の確立を試みてきました。2021年のインフラ投資・雇用法(2021 Infrastructure Investment and Jobs Act)は、巨額の資金を新たなCCS実証事業に充当しています。米議会が定めた2020年エネルギー法の条項には、GAOがDOEによるCCS実証事業の成果や課題について評価することが定められており、本調査はその条項に基づいて実施されました。以下では本報告書の要点を紹介します。

成功の見込みが薄い石炭火力CCS事業

DOEは2009年以降に、11件のCCS実証事業に対して11億ドル(約1,277億円)を投資してきましたが、そのうち稼働に至ったのは3件にとどまります。11件の事業のうち、8件が石炭火力CCSの実証事業で、計6億8400万ドル(約794億円)が投じられましたが、そのなかで稼働したのは1件のみで、3件は中止(うち2件は補助金の需給前に中止)となりました。唯一稼働したテキサス州Petra Nova炭素回収施設も、2020年に経済状況の変化を理由に停止されています。残りの4件について、DOEは建設開始前に支援を取り消しました。また、産業用CCSについては、DOEは3件の事業に4億3800万ドル(約509億円)を投じ、そのうち2件が稼働、1件が中止となっています。

事業に関する文書や、DOE・事業関係者への取材によると、天然ガス価格の下落や炭素市場の不確実性といった経済的要因が、石炭火力発電や石炭火力CCSの経済性に影響を与え、事業を中止に追い込んだとみられます。

エネルギー省の事業マネジメントに重大リスク

GAOの報告書は、DOEによる石炭火力CCS実証事業のマネジメントには2つの重大なリスクがあると指摘しています。

1つ目は、DOEの事業選択・交渉プロセスにおけるリスクです。DOEは石炭火力事業を事業の初期段階から全面的に支援しており、産業用CCS事業には適用されているような慎重な審査に十分な時間が割かれていません。さらに、DOE関係者への取材によると、DOEは石炭火力事業の交渉期間を短縮しており、通常は1年以上かかるプロセスが3か月以下で進められています。

DOEが事業プロセスを急ぐ背景には、2009年米国復興・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act of 2009)による資金を迅速に使いたいという願望があると考えられます。以上のような行動は、DOEが事業の技術的・経済的リスクを認識・緩和する能力を削ぎ、DOEが成功の見込みのない事業に資金をつぎ込むリスクを増大させています。

2つ目は、コストマネジメントの欠如です。DOEは、最終的に建設されなかった施設の計画に対し、当初の計画より3億ドルほど多い4億7200万ドル(約548億円)の資金を費やしました。DOEの文書や関係者への取材によると。DOEはこれらの事業が各段階において必要な条件を満たしていなかったにも関わらず、支援を継続していました。

議会によるCCS実証事業の監督を提案

GAOは報告書の中で、DOEが成功の見込みの少ないCCS実証事業に巨額の資金をつぎ込むことを防ぐため、議会がCCS実証事業を監督することを提案しています。事業の進捗や資金投入の状況を議会に対して逐次報告することをDOEに課すなど、議会による監督メカニズムを設けることで、巨額の資金を無駄にするリスクを減らすことができると報告書は述べています。

GAOの提案に対し、DOEは賛成も反対も示しませんでしたが、GAOの提案に基づく行動計画の策定を担う「Office of Clean Energy Demonstrations(OCED)」を設置しました。この事務局では、クリーン水素の製造、炭素回収、グリッド規模のエネルギー貯蔵、先進型原子炉などの分野での大規模な技術プロジェクトに資金を提供することになります。

参考報道記事

E&E News, Energy Wire : DOE risks wasting ‘significant funds’ on CCS — audit