【ニュース】COP26 脱石炭を表明せずグラスゴーで落ちこぼれた日本


2021年11月に英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)は、気温上昇を1.5℃に抑えることを目標とする成果文書「グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)」を採択して終了しました。COP26は、「Keeps 1.5 Alive(1.5℃目標の達成を可能とする)」を掲げ、石炭からの撤退を前提にパリ協定の目標に沿って2030年の削減幅をいかに増やすかを議論する場でもありました。しかし日本は、開始早々に「化石賞」を受賞しただけでなく、グラスゴーで落ちこぼれになってしまったようです。その理由を上げてみます。

1)新規石炭火力発電への支援を終了させる共同声明に署名しなかった

11月4日のエネルギーデーに合わせ、新規石炭火力発電への支援を終了する共同声明「Global Coal to Clean Power Transition Statement」が発表されました。これは、先進国は遅くとも2030年代に、世界全体では2040年代にCO2排出削減の処置(アベイトメント処置)のない石炭火力発電を段階的に廃止すること、さらに国内外の新規石炭火力発電への投資を全て終了することなどに合意し、他の国にも同様の行動を促すとしたものです。公表時点で46カ国を含む77の国と組織が声明に署名し、そこには条件付きながらも初めて署名したインドネシア、韓国、ポーランド、ベトナム、チリなどの23か国も含まれていました。しかし日本は、イギリス政府に強く促されながらも署名していません。
※ Global Coal to Clean Power Transition Statementの仮訳はこちら

2)石炭火力発電所の段階的廃止(フェーズアウト)を表明しなかった

経済協力開発機構(OECD)加盟国は2030年までに石炭火力発電を段階的に廃止するよう強く求められており、すでに多くの国が脱石炭を表明しています。COP26の開催にあたって、まだ脱石炭を表明していない日本に対しても石炭火力発電所の段階的廃止の表明が期待されていました。しかし、日本は石炭火力には一切触れませんでした。すでに石炭火力の廃止を達成した、あるいはフェーズアウト目標年に向けて着々と対策を進めている国が多数あることを踏まえれば、日本が石炭火力のフェーズアウトを表明しないことは国際社会での評価を下げることに他なりません。

3)水素・アンモニアの活用を加速させようとしている

岸田首相はグラスゴー会議2日目の演説で石炭火力に言及しなかったばかりか、水素やアンモニアを発電に活用する技術を国内外に展開する計画を打ち出しました。水素・アンモニアを燃料として使用する技術は現時点ではまだ確立されておらず、事業者の計画でも本格的な商用化は40年代以降と見越されています。しかも、当面、混焼する水素を石炭から作る、あるいはアンモニアの製造に火力発電を利用するとなれば、脱炭素につながるとは言い難い状況です。実質的に石炭火力の延命策であることは明らかで、これを「アベイトメント処置」のとられた石炭火力だと主張することには無理があります。この演説により、日本は化石賞を受賞することになりました。

4)COP報告で石炭の言及なし?

IPCCのレポートには、1.5℃上昇に抑えるための2020 年初頭からの残余カーボンバジェットの推定値は4,000億トン(CO2換算で67%の確率)しかなく、2030年までにCO2排出量を半減させる必要があるとしています。さらに、ティッピングポイントはパリ協定の温度上昇範囲内でも起こり得るとして、切迫性をもって対応していく必要があることが示されました。こうした危機感を踏まえ、グラスゴー合意には、2100年の世界の平均気温の上昇を2℃より気候変動の影響が小さい1.5℃に抑える努力を追及するため、石炭火力の「段階的に削減(フェーズダウン)」への言及が盛り込まれました。にもかかわらず、日本政府のCOP26報告には石炭への言及が全くありませんでした。

5)2022年末まで1年、日本政府はNDCの見直しをする?しない??

パリ協定締約国が提出した国別目標(NDC)をすべて実行できたとしても、1.5℃目標の達成には程遠い状況であることが明らかになっています。そのため、グラスゴー合意では、各国に対して2030年目標を再検討・強化したNDCを2022年末までに提出することが求められました。5年ごとに見直しされることになっていたNDCの一層の強化が必要になるほど危機感が高まっているのです。となれば、当然日本もNDCの見直しをすべきところですが、COP26 後の臨時国会質疑で、グラスゴー合意は国内政策と趣旨が同じである(=同旨)との答弁がされました。

IEA(国際エネルギー機関)のレポート「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」によれば、先進国は2030年までにCCUSが備わっていない石炭火力を廃止していなければならないとしています。日本政府は、4月の気候変動サミットでGHG削減目標(13年比で26%から46%)を表明しましたが、2030年のエネルギーミックスでは石炭を19%程度残しており、廃止目標年を定めていません。2030までの時間は「決定的に重要な10年」と強調されており、2030年に向けた排出削減努力が強く求められています。パリ協定採択後も石炭火力推進政策を続けてきた結果、日本の気候変動政策は遅れていると世界から指摘されています。日本は、早急にGHG削減目標達成に向けた具体的なやり方、ロードマップを示すとともに、エネルギーミックスを見直し、パリ協定に整合させるべくNDCを強化すべきなのです。

よく出てくる言葉

アベイトメント処置(UnabatedCoal)
気候変動シンクタンクE3Gも言及はしていましたが、COP26 における「Global Coal to Clean Power Transition Statement」にも「CCUS(Carbon Capture Utilisation and Storage)などの二酸化炭素排出量を削減する技術を付与しないまま石炭火力による発電を行うこと」と明記されました。
Explained: what does ‘unabated coal’ mean?

カーボンバジェット(炭素予算)
気温上昇をある数字で抑えようとした場合、温室効果ガスの累積排出量(過去の排出量にこれからの
排出量を加算したもの)の上限値のこと。過去からの累積に加えて今後、どれくらい温室効果ガスを排出してもよいかが計算できる。気温上昇を1.5℃に抑えようとする場合、残されたカーボンバジェットはわずかとして、一層の排出削減が求められている。
カーボン・バジェットとは?|国立環境研究所

ティッピングポイント(転換点)
気候変動におけるティッピングポイントとは、地球の気候に不可逆的な変化を起こす臨界点のこと。人為的な活動のせいで、地球が不可逆性を伴うような大規模な変化を伴うてぃっピングポイントに近づいているとされている。これを回避するために、温室効果ガス排出を削減するための行動が求められている。
気候システムの急変~「ティッピング・ポイント」とは?|環境省

参考

  • Statement by the UK Presidency of the G7, The Road to COP(英語
  • IEA ‐ Net Zero by 2050(英語
  • 世界における日本の気候変動対策の評価→「気候変動パフォーマスインデックス2022(原題:Climate Change Performance Index 2022, CCPI)」で60か国中45位