【ニュース】水素供給利用法案とCCS推進法案が閣議決定


岸田政権は2月13日、これまで以上に国内石炭火力の維持・延命につながりかねない新たな二つの法案を閣議決定しました。「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案(水素社会推進法案)」と「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(CCS事業法案)」です。政府はこれらの法案をGX(グリーントランスフォーメーション)の推進策として位置づけ、火力発電の維持を前提とした水素・アンモニアの利用を支援したり、火力発電所等から排出される二酸化炭素の回収・貯留などの推進体制を強化するもので、気候ネットワークなど環境NGOは全面的な見直しもしくは廃案を求めています。

水素・アンモニアなどの価格差を補填(水素社会推進法案)

水素社会推進法案は水素やアンモニアの普及拡大を目指すものですが、最大の問題は、水素やアンモニアの価格が化石燃料よりも高額になることを前提に、その価格差を政府が全額(または一部)を補填するという点です。またその対象には火力発電も念頭におかれています。発電部門のように再生可能エネルギーという代替技術が確立・実用化している分野で、アンモニア混焼のようにいまだ実用化もしておらず、コストが確実に高くなることがわかっている分野で、なぜ高額になる分を政府が負担するしくみが必要なのでしょうか。

日本では石炭火力発電やアンモニア混焼には、事実上様々な補助金が支払われるしくみがついており、容量市場、長期脱炭素電源オークション、グリーンイノベーション基金などの多額の資金が電力会社に対して支払われることとなっています。その上で、この法律が通れば、さらにアンモニア混焼をすすめる火力発電事業者にとっては、燃料代が当面(15年間程度が想定されている)化石燃料を使い続けるのと同等になり、これ以上ない手厚い支援を受けることになるでしょう。ますます、石炭火力のフェーズアウトは困難となります。

また、この法案では「低炭素水素」を定義することになっていますが、その具体的な数値は法案では全く示されていません。本来は「低炭素水素」などとせずに、再生可能エネルギーで水を電気分解して製造する、つまり製造時にCO2を排出しない「グリーン水素」や「グリーンアンモニア」のみが「脱炭素社会」に貢献する選択肢ですが、日本の場合は原料とする化石燃料を高温で分解・改質して水素を製造する、製造時に大量にCO2を排出する「グレー水素」や「グレーアンモニア」も区別なく推進していることが問題です。ここで「低炭素水素」を定義してもそれは事業者の参考にする程度にとどまり、価格差補填などの支援策には「遡及」しないこととされています。結局、問題の支援策はグレー水素やアンモニアを前提とした支援であることがわかります。

出典:AR6/WG3 SPM.7(日本語は国立環境研究所作成資料)より

本法案で「低炭素水素等」として想定されている「水素等」には、化石燃料由来の水素、アンモニア、合成メタン、合成燃料なども含まれています。これらはいずれも人工的に製造されるもので、高コストであり、製造時に大量のエネルギーを消費してCO2を排出します。また、これらを発電に利用する場合、エネルギーの原料を海外からの輸入に依存し続けることになり、エネルギー安全保障上も非常に問題で、日本のエネルギー自立はさらに遠のくでしょう。

政府が、水素・アンモニア等を発電燃料として使用した際の化石燃料との差額を補填したり、拠点整備を支援することは、経済合理性のない、CO2排出事業者へのばらまき政策であり、公正な市場形成を妨げ、再生可能エネルギーの競争力を阻害することになってしまいます。

この法案が地方自治体や事業者に対し、水素・アンモニア等の供給・利用の促進方針への協力義務を課していることは、地方自治体や事業者による本当の排出削減に向けた行動を制約しかねません。水素・アンモニア等は危険物ですが、大量保管・輸送の経験や保安基準がまだなく、保管場所の管理権が地方自治体にないことも問題です。

事業者に試掘・貯留の権利を与え、最終責任は国に(CCS事業法案)

水素推進法案と同時に閣議決定したのが「CCS事業法案」です。こちらも非常にコストが高くつく気候変動対策の最後の手段だと言われる分野で、非常にリスクが高いことが明らかになっています。法案では、CO2の貯留をするための試掘・貯留事業の許可制度の創設と、試掘・貯留事業の実施計画の認可制度の創設を定めるものです。経済産業大臣は、貯留層が存在する可能性がある区域を「特定区域」として指定した上で、特定区域において試掘やCO2の貯留事業を行う者を許可します。これらの許可を受けた事業者には試掘権(貯留層に該当するかどうかを確認するために地層を掘削する権利)や貯留権(貯留層にCO2を貯留する権利)が設定されます。

また、試掘・貯留の実施計画を策定して経済産業大臣の認可を受けた事業者は、 貯蔵したCO2の漏えいの有無等を確認するため、貯留層の温度・圧力等のモニタリング義務や、 貯留停止後に必要な引当金の積立て等が義務付けられます。ただし、 貯留したCO2の挙動が安定したと確認されれば、モニタリング等の貯留事業場の管理業務をJOGMECに移管できることになっています。

CCSは世界でもEOR(石油増進回収)などでの実施以外ではほとんど成功例がなく、日本では実用化に程遠い状況です。失敗した場合のリスクは気候変動にとって取り返しがつかないほど大きなものとなる可能性があります。また、高濃度CO2は漏出すると生命の危険が高い物質であることからも、厳重な管理が必要です。

本法案には、地震大国である日本に、地下貯留の適地があるのかというそもそもの科学的根拠が示されていません。そのような状況にもかかわらず、認可された事業者に試掘権や貯留権を与え、特定区域および特定区域外でも事業を実施できるようにする内容です。貯留後も半永久的に必要なモニタリングについて、JOGMECに責任を移管し、事業者の責任を極めて限定的としている点にも問題があります。

この2つの法案は、第213回通常国会で審議されます。
第213回通常国会議題(16および17

環境NGO等は両法案について、実用化に遠い水素等やCCSを経済的・制度的に支援することは、再生可能エネルギーの普及を阻害し、今後の日本の気候・エネルギー政策を大きくゆがめるものであるとして批判しています。

提出法案本文

  • 脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案(リンク
  • 二酸化炭素の貯留事業に関する法律案(リンク

参考

  • 経済産業省プレスリリース「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行のための低炭素水素等の供給及び利用の促進に関する法律案」及び「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案」が閣議決定されました(2024年2月13日)
  • 環境省プレスリリース「二酸化炭素の貯留事業に関する法律案」の閣議決定について

賛同団体からのリリースなど

  • 気候ネットワーク プレスリリース「水素供給利用法案とCCS推進法案を閣議決定~再エネ代替がある電力分野(火力)はすべて対象外とすべき~」(2024年2月13日)(リンク
  • 自然エネルギー財団 [特設ページ]水素・CCS、他(リンク