【レポート】ネットゼロ目標を阻む日本の脱炭素技術


化石燃料の使用削減と脱炭素へのシフトを支援する環境グループ「TransitionZero」が、日本がアンモニア混焼、石炭ガス化(IGCC)および二酸化炭素回収・貯留(CCS)といった技術の開発や実用化を推進することは、炭素削減の可能性を制限し、ネットゼロ目標の達成を阻むことになると警告する報告書「日本の石炭新発電技術」を発表しました。

日本は、2050年までにネットゼロを達成するという長期目標を設定していますが、岸田首相は、昨年11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にて、現時点で実証されていない新しい技術を活用して既存の石炭火力発電をゼロエミッション発電に転換していくことを表明しました。改訂された第6次エネルギー基本計画でも、2030年の電力需要の19%程度を石炭が占めており、石炭火力を継続利用することが示されています。

日本政府は、これらの技術を「グリーンイノベーション」として気候変動の最大の人為的原因である石炭の燃焼による温室効果ガスの排出量を削減するものと位置づけていますが、TransitionZeroは、結局は石炭を燃やし続けるためのこれらの技術を開発・推進することは、日本が化石燃料からの移行を妨げ、気候行動政策を弱体化させると指摘しています。

本報告書による分析結果より抜粋

新技術は高コスト:新技術の均等化発電原価(LCOE)は、IGCCを適用した場合の128米ドル/MWhからグリーンアンモニア混焼の296米ドル/MWhまでの幅があり、平均原価は200米ドル/MWhとみなされるが、これは太陽光発電(PV)の2倍以上になる。バッテリー貯蔵のコストを考慮しても太陽光と陸上風力は最先端の石炭技術よりもコスト競争力がある。この傾向は今後も続き、2030年までに太陽光発電と陸上風力発電に電池貯蔵を加えたコストパフォーマンスは、すべての石炭新発電技術を上回ることになる。

新技術はネットゼロ目標と整合しない:国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロ排出シナリオでは、先進国である日本が2030年までに達成すべき送電網の炭素強度(Carbon Intensity:エネルギー消費量に対するCO2排出量)を138 gCO2/kWhとしているが、CCSを備えない石炭の新しい発電技術(アンモニア混焼20%の場合)の炭素強度は693 gCO2/kWhと5倍以上となり、排出削減能力に限界がある。

CCSは問題に直面する:CCSは、石炭新発電技術の中では実現可能性が高いように見えるが、経済的実行可能性と効率改善の両面で大きなトレードオフがある。さらに、日本にはCCSの適地が限られていることから貯蔵能力は限定的であり、日本の炭素貯留容量はわずか10年で尽きると見られている。

本報告書は、日本政府が関連事業者と共に技術開発や実用化を推進する石炭発電に関する新技術は、微量な排出削減を達成できたとしても石炭火力発電所を延命させることになり、高コストで炭素集約的であると指摘しています。そのうえで、石炭火力発電の役割を緊急に再評価することも含め、日本の脱炭素化に向けた政策提言をまとめています。

TransitionZeroによるレポート本文はこちらから

<日本語>日本の石炭新発電技術
報告:日本の電力部門の脱炭素化における石炭新発電技術の役割(Link
<英語>Coal-de-sac: Advanced Coal in Japan
Report: The role of advanced coal technologies in decarbonising Japan’s electricity sector(Link