7月30日、国際エネルギー機関(IEA)が世界の電力に関するレポート「電力中間報告2025(原題:Electricity Mid-Year Update 2025)」を発表しました。この中でIEAは、条件次第では遅くとも2026年までに、再生可能エネルギー(再エネ)が、石炭火力を抜いて世界最大の電力源になるとの予測を示しています。
世界の電力需要は引き続き増加
IEAは、不透明な経済情勢にもかかわらず、世界の電力需要は、2025年末までに前年比で3.3%、2026年末までに3.7%増加すると見込んでいます。新たな電力需要の大半はアジアの新興国によるものですが、データセンターの急速な拡大により米国の電力需要も増加すると見ています。
電力消費については、特に中国とインドが2025年と2026年の世界の電力消費増加分の60%を牽引すると予想されています。EUの電力消費は、2026年には緩やかな加速が予想されるものの、2025年の伸びは1%程度と、より緩やかなものになると報告書は示しています。(下図:1992年から2026年の世界の電量需要の推移)

再生可能エネルギーが石炭を凌ぐ
電力需要は、過去10年に比べてはるかに急速に増加していることになりますが、今年の世界の需要増加分の90%は再エネ(風力と太陽光)によって賄われると見込まれています。再エネ(風力、太陽光、水力、バイオエネルギー、地熱)は急速に拡大しており、天候や燃料価格といった経済情勢次第では、早ければ2025年中、遅くとも2026年までには石炭火力を抜いて世界最大の電力源になるとの見通しが示されています。
世界のエネルギーミックスに占める太陽光と風力の割合は、昨年の15%から17%に増え、2026年には19%に達すると見込まれています。個別に見ると、太陽光は2026年に前年比で27%増との予測ですが、石炭火力はほぼ横ばいとなっています。電力供給についてみても、中国やEUの再エネの拡大、特に太陽光発電と風力発電の成長に牽引され、再エネが世界全体の電力供給の36%を占めるまでに増加する一方、石炭火力が総発電量に占める割合は過去100年の中で最も低い33%を下回ると見込まれています。
ただし、再エネの伸びは、地域によって異なることが指摘されています。例えば、米国では2024年の半年間にあらゆる再エネの総発電量は11%増となりましたが、欧州では2025年末までの再エネの増加は前年比で2%程度と予測されています。とはいっても、欧州のエネルギーミックスにおける「低排出源」の割合は、2024年の71%から2026年には75%を超えると見込まれています。(下図:2019年から2026年の世界の電力種別の増減、石炭火力による発電量は2024年の1.3%増から一転し2025年には約0.5%減になると予測されている。)

電力部門からの排出量は2026年に減少に転じる
IEAは、2026 年までに原子力およびガスの発電量が過去最高に達する一方で石炭火力が減少に転じることから、世界の電力セクターからのCO2排出量は2025年をピークに、2026年には減少に転じると予測しています。
世界の電力部門からの排出量は2024年に、前年比で1.2%増加。2024年の記録的な暑さでエアコン使用量が増え、電力需要が増加したことが要因です。それでも、再エネの急速な普及が、化石燃料による発電の増加を抑制しているため、排出量の増加は減速の兆候を示していますこの傾向が続けば2025年の排出量は横ばいに、2026年の排出量は1%弱の減少になるとIEAは予想しています。
2025年~2026年にかけての期間の絶対排出量の減少が最も大きいのは中国で、EUが続くと見ています。米国の減少はわずかで、インドと東南アジアではいまも石炭火力が増加しているため、引き続き排出量が増えると見込まれています。
卸売電力価格は上昇
2025年上半期の卸売り電力価格は、EU、米国、日本では前年同時期に比べて上昇。逆にインドやオーストラリアなどでは、前年同時期に比べて低下していました。IEA の分析によると、2025年上半期の日本の卸売電力価格は、前年同時期に比べて約15%上昇し、平均で76米ドル/MWhとなっています。LNG価格の上昇が発電コストを押し上げたうえ、春から夏の気温上昇と寒い冬が重なったことも電力価格を押し上げる要因となりました。2026年にはさらに電気料金が上がり、87米ドル/MWhに達する見込みが示されています。
IEA
Press Release: Global electricity demand to keep growing robustly through 2026 despite economic headwinds
Electricity Mid-Year Update 2025 (Report)
作成・発行:国際エネルギー機関(IEA)
発行:2025年7月30日
関連情報 : 米がIEAに圧力、脱退も示唆?
再エネの拡大には、環境負荷が低いだけでなく経済的なメリットが大きいことは明らかです。しかしトランプ政権は、前政権から一転し、化石燃料(特にLNG)拡大に向かっています。風力発電を批判し、前バイデン政権が始めた太陽光発電を支援するプログラムを中断させました。次々に再エネ事業への資金提供や融資保証を取り消し、事業にブレーキをかけています。そして再エネ事業の縮小にともなう電力需給不安に備えて、閉鎖を控えた火力発電所の運転を延長する命令を出しているので、米国のCO2排出量が増加する可能性は捨てきれません。
さらに、米紙によると、トランプ政権は、IEAはネットゼロシナリオを提案し、化石燃料の衰退と再エネの拡大が必要だと強調することで化石燃料への投資を妨げていると主張し、IEAのナンバー2(メアリー・ウォーリック次長)をトランプ政権の政策に沿った人物に入れ替えるように要求し、受け入れられなければIEAから脱退することも示唆しています。
これに対しIEAは、2025年版のレポート「World Energy Outlook」において、現在の市場と政策が示唆する幅広い可能性をシナリオに盛り込むと述べています。米国との攻防がIEAの今後のシナリオ分析にどのような影響を及ぼすのか、注意が必要です。