10月27日、国際エネルギー機関(IEA)が、「世界エネルギー見通し2022(原題:World Energy Outlook 2022: WEO)」を発表しました。
「世界エネルギー見通し(WEO)」は1998年以来、毎年発行されています。ロシアのウクライナ侵略によって引き起こされた世界的なエネルギー危機によって、図らずも各国政府のエネルギー安全保障に対する対応が注目されることとなりました。IEAはこのレポートで、3つのシナリオ(STEPS:現行の政策に基づくシナリオ/APS:各国が公言している約束を実行するシナリオ/NZE:2050年排出量実質ゼロとするシナリオ)における世界のエネルギー需要、エネルギー安全保障、気候目標、および経済発展への影響に関する分析と予測を示しています。
世界の化石燃料の総需要は2020年代半ばから減少に転じるとの分析を示し、気候およびエネルギー安全保障の危機への対策として、新規化石燃料ではなく、クリーンエネルギー拡大と効率性向上への投資を加速させる必要があると強調しています。
「世界エネルギー見通し(WEO)」からの要点抜粋
- 主要なエネルギー市場における新たな政策に後押しされ、現行政策シナリオ(STEPS)でも2030年までのクリーンエネルギーへの投資は、現在より50%以上増加し、2兆ドルを超える。パリ協定締結以後、クリーンエネルギーへの投資は拡大しているが、1.5℃目標達成のためには、2030年までに4兆ドルの投資が必要。
- 市場が持ち直すにつれ、再生可能エネルギーは継続的に成長する。今日の危機的な状況下での石炭火力の上昇は一時的なものにすぎない。
- 2020年代、長引くと予想されるロシア-欧州間のエネルギー供給の断絶に各国が適応していく中で、国際的なエネルギー貿易は大きな方向転換を迎えている。
- 現行の政策設定に基づくWEOのシナリオ分析において、初めて各化石燃料の世界需要がピークを迎える、あるいは停滞することが示されたが、化石燃料の比率は抑えられているものの、このシナリオでは2050年でも化石燃料が全エネルギー供給量の6割を占めることになる。世界のエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量は21年の366億トン(36.6 Gt)から50年に320億トン(32 Gt)に減るにすぎない。
- すべての気候変動に関する公約が完全に履行されれば、もっと良い方向に向かうが、現在の各国のターゲットと1.5℃目標の達成安全圏までには大きな隔たりがある。世界的な気温上昇を抑えるには、発電セクターにおけるCO2排出量を早々にピークアウトさせ、急速に削減させる必要がある。
- バッテリー(蓄電池)、太陽光発電、電気分解などの主要な技術のサプライチェーンは、世界的な目標達成に向けた取り組みとして急速に拡大している。
- 将来の燃料価格の高騰や価格変動のリスクを軽減し、2050年排出ネットゼロへの流れを軌道に乗るためには、エネルギー投資の大幅な拡大が不可欠。
- 排出量を削減しつつ、信頼性と経済性を維持するためには、新しいエネルギー安全保障の枠組みが必要。
多くの国がエネルギー供給不安に見舞われ、一部の国では石炭火力発電所の建設や再稼働が進められていますが、石炭需要の増加は一時的であり、石炭を含めた化石燃料の需要は2030年より前に減少に転じるとの見解(中でも石炭の需要は今後数年以内、石油は2030年代半ばにはピークを迎えるとの予測)が示されています。さらに、再生可能エネルギーへのシフトが進むにつれ、エネルギー安全保障の内容は、現在の化石燃料(特にガス)からリチウム、コバルト、ニッケルといったレアメタル(稀少類金属)に変わっていくことにも言及されています。
IEAがこのレポートで強調するように、より安全で持続可能かつ安価なエネルギーシステムを実現するために重要な10年を迎えているのです。
レポートダウンロードサイトへのリンク
World Energy Outlook 2022(Link)
作成・発行:国際エネルギー機関(IEA)
発行:2022年10月27日