CO2の回収貯留(CCS)の事業化に向けて、国内では非常に動きが活発化しています。しかし、CCSは開発途上の技術であり、非常にリスクが大きく慎重な議論が必要です。ここでは、2022年に国際エネルギー機関(IEA)が発表した「CCUS Handbook」から5つのリスクを改めて振り返っておきたいと思います。

IEAが指摘するCCSの5つのリスク
(1)貯留能力
CCSサイトにおいて、計画通りのCO2貯留能力を確保できるかどうかは不確実であり、そのリスクを事前に正確に算出するのは困難です。地質調査や試掘によって貯留層の状態を調査しても、実際に計画通りの量を圧入できる保証はありません。貯留可能量を超えて圧入すれば、漏洩リスクが高まる危険性がありますし、当初の想定よりも貯留能力が低かった場合にはプロジェクト全体の経済性が損なわれる可能性があります。
(2)健康・安全・環境(HSE)
CO2を圧入するには高濃度にする必要があります。大気中に存在しているCO2は無害でも、CO2輸送パイプラインや坑井からの高濃度に圧縮されたCO2の漏洩、噴出といった可能性も排除できません。高濃度CO2による健康被害は、濃度3~5%では頭痛やめまい、呼吸のリズムへの影響が起こる程度でも、7.5%を超えると意識障害や息切れ、10%になると呼吸困難や意識喪失を引き起こすリスクがあります。
また、人間の健康・安全だけでなく、CO2が長期にわたり漏出すれば、土壌あるいは海洋の酸性化を引き起こし、動植物への影響も免れません。
(3)漏出
地下に貯留されたCO2の漏出リスクは、モニタリングを行えば十分なわけではありません。事前の試掘調査では、その貯留層全体を把握できるわけではありません。CO2が漏出する場合のスピードや量も不明です。過去の試掘坑や井戸などの経路からの漏洩も懸念されます。また、貯留層にCO2を圧入することで、貯留層内の地下水や塩水が押し出される可能性もあります。特に、海底CCSの場合はモニタリングの難易度が上がるため、慎重なリスク評価が必要です。IEAはリスクの緩和と改善策のセクションに、重大な漏出が発生した場合、または定義された閾値を超える誘発地震活動が生じた場合には、注入を中止すべきであるとの警告を明記しています。
(4)誘発地震
地中にCO2を圧入することで地震を誘発することが懸念されます。実際、石油・ガスの採掘、地層への水(流体)の注入や抽出やCO2貯留プロジェクトにる誘発微小地震が検出されたこともあります。
(5)資源相互作用
貯留層にCO2を圧入することで、地下資源に影響が出る可能性があります。地下に石油・天然ガス・石炭といった化石燃料のほか、地下水などが影響を受けるリスクもあります。特に浅い層にある地下水は、塩水やCO2の侵入によって汚染される可能性もあります。地下資源の深度とCO2貯留層の深度、運用状況(圧入量、スピードなど)によっても相互作用は異なるので、貯留サイトごとに評価する必要があります。
リスクへの対応
IEAはこれら5つのリスクに対する対策をとることを奨励しています。モニタリングにより貯留層の圧力を管理し、漏出・漏洩を迅速に検出できる体制を整えるだけでなく、貯留層の圧力に加えて地表の変化や微小地震のモニタリングも重要です。いずれのリスクについても、貯留層の圧力を適切に管理すること、漏洩を迅速に検出する体制を整えること、長期的な監視を継続することは不可欠です。
また、IEAはCCSのコストは時間とともに増加する可能性があるとして、商業化には政府支援が必要と指摘しています。
日本で行うべきこと – CCSは最後の切り札
IEAは、CCSは脱炭素の手段のひとつであると推奨しています。しかし、CCSがあるから今まで同様に化石燃料を使っていいということではありません。リスクに対応しながら限られた場所に多大な費用をかけて埋め戻すことを考えれば、CCSはどうしても排出が止められないセクターからの排出対策に限定すべきであるとも示唆しています。特に日本のように、巨大地震がいつどこで起きてもおかしくない地域はCCSに最も不向きであり、リスクが非常に高いことは明らかです。にもかかわらず、日本政府は石炭火力からのCO2回収も含めてCCS事業への支援に注力しており、リスクを非常に軽視する形で事業化を推進していることは非常に問題です。JBCでは引き続き、政府や事業者の動向を注視していきたいと考えています。
IEA:CO2 Storage Resources and their Development
An IEA CCUS Handbook
参考資料
IEA:Legal and Regulatory Frameworks for CCUS, An IEA CCUS Handbook(2022年7月25日)
IEA:CCUS Policies and Business Models: Building a Commercial Market
*IEAがCCUSの課題を解決するための政策ツールとして提示したレポート(2023年11月26日)
作成・発行:国際エネルギー機関(IEA)
発行:2022年12月2日
