米国のハーバード大学、ジョージ・メイソン大学、テキサス大学オースティン校の研究グループは、アメリカの石炭火力発電所から排出される二酸化硫黄を含む微小粒子状物質(PM2.5)にさらされた人の死亡リスクが、他の発生源由来のものと比べ2倍以上高いことを示す研究を、米科学誌『サイエンス』に発表しました。
11月23日号に投稿されたこの研究は、1999年から2020年の期間の米国の480の石炭火力発電所から排出されるPM2.5の年間曝露量の推定と、1999年から2016年の期間の年間6億5,000万人のメディケア(65 歳以上の高齢者および障害者を対象とする公的医療保険)の個々の死亡記録を用いて、PM2.5に起因する死亡率を推定しました。
この結果、石炭火力由来のPM2.5が1 μg/m3増加することにより、死亡率が1.12%増加し、他の発生源由来からのPM2.5への曝露よりも2.1倍死亡リスクが高いことが示されました。石炭火力由来のPM2.5に起因する死者数は46万人と推計され、2009年以前のPM2.5に関連するメディケア対象者の死亡者数の25%、2012年以降の同死亡者数の7%を占めています。
この調査で、46万人のうち、39万人が1999年から2007年の期間に死亡していることもわかりました。これは年間平均にすると4万3000人以上になります。しかし、2007年以降は激減に転じ、2020年には年間1,600人まで減少しました。年間死者数は1999年をピークに、2020年までに95%減少しています。本研究論文の主執筆者であるルーカス・ヘンネマン助教授は、石炭火力に集塵機が設置されたことや、石炭火力の廃止が進んだことが死亡者数の減少に貢献したと指摘しています。
ヘンネマン助教授は、「これらの研究成果は、政策決定者や規制当局が排出の規制や再生可能エネルギーの普及促進のような、米国の大気を清浄化するための経済的な解決策を見つけ出すための助けになるでしょう。」と述べています。
また、本論文の責任著者であるコーウィン・ジグラー准教授は、「この研究は、クリーンエネルギーへの転換が、いかに人々の健康を増進し、命を救うのかを理解する手助けとなるでしょう。」とコメントしています。
本研究の研究者らは、米国内の特定の石炭火力発電所からの排出に起因する死者の数値化も行い、石炭火力由来のPM2.5への曝露による影響力の調査結果のランキングを作成。調査期間内に5,000人が死亡した10カ所の発電所の死亡者数を可視化したオンラインツールを公開しています。石炭火力発電所由来の汚染物質への曝露を示すツール(図下にリンク記載)では州ごとの曝露量も見ることができるようになっています。
関連リンク
ハーバード公衆衛生大学院(Harvard T.H. Chan School of Public Health)リリース:Particulate pollution from coal associated with double the risk of mortality than PM2.5 from other sources(リンク)
Science:Mortality risk from United States coal electricity generation(リンク)
参考
【報告書】ハーバード大学 『東南アジアにおける石炭火力発電所からの排出増加による疾病負担(日本語仮訳)』(リンク)
作成・発行(論文公開情報):SCIENCE 23 Nov 2023 Vol 382, Issue 6673 pp. 941-946 DOI: 10.1126/science.adf4915
発行:2023年11月23日