2020年7月2日の報道で、「政府は、二酸化炭素(CO2)を多く出す非効率な石炭火力発電所の9割弱を、休廃止の対象とする方針を固めた」ことが報じられた。これまで日本政府は、既存の石炭火力発電所を廃止するという方向性を全く打ち出してこなかった。今回の方針ははじめて廃止に踏み込んだ方針転換ともとれる”脱石炭”への小さな一歩だ。
しかし、パリ協定の目標とする「地球の平均気温の上昇を産業化前に比べて2℃を十分に下回り、1.5℃の上昇にとどめる」という要請にこたえるためには、先進国における石炭火力は2020年以降の新規稼働を禁じ、既存を含め遅くとも2030年までに全廃することが求められる。その意味では、この方針では全く不十分だ。
気候ネットワークは同日、この報道に対しプレスリリースを発表し、以下の点を指摘した。
・非効率石炭火力の1割と、高効率石炭火力26基(2018年度時点)の運転を継続し、さらに140基に含まれない2019年度の新規運転分と現在新規建設されている石炭火力発電所(16基)を含めると、2030年以降も3000万kW以上の運転を容認し続けることになる。
・2030年の目標が不透明であり、2030年までの休廃止の経路も不明である。2030年ギリギリではなく、速やかに段階的廃止することが必要である。
・CO2排出量は推計で約6400万〜1億600万トンの削減(日本の温室効果ガス総排出量の5〜9%に相当)となり、電力構成に対する石炭火力の割合は20〜26%程度になると見込まれるが、ゼロには程遠い(注)。
・動きとして重要な前進ではあるものの、パリ協定を締結した政府として、気候変動の危機に立ち向かう上でなお全く不十分であることには変わりない。
・座礁資産リスクが最も高い新規の発電所の建設・運転を容認することになれば本末転倒であり、新規抑制こそ踏み込む必要がある。
・休止ではなく「廃止」としなければ、容量市場で費用が支払われる対象となりかねず、延命する恐れがある。
日本も、他の多くの先進国同様、2030年までに全ての石炭火力発電所を廃止する方針を打ち出し、脱石炭計画策定を求めたい。
参考(気候ネットワーク発信資料)
【追加分析資料】政府方針「非効率石炭火力発電100基の休廃止」に関する考察 脱石炭にはほど遠い「石炭の長期延命策」であることが鮮明に(2020年7月6日)(リンク)