四国電力による石炭火力の増強計画(西条発電所1号機リプレース計画)の環境アセスメントは、環境影響評価準備書に対する経産大臣勧告が公表され、事業者による環境影響評価書の作成段階に入った。本計画は、西条発電所1号機の出力を現状の15.6万kWから3倍以上の50万kWに増強する計画である。CO2の排出量は年間で246万トンと非常に大規模で、かつCO2排出係数は0.751kg/kWhとOECDルールをも上回る大きさだ。しかし、形骸化した環境アセスメント手続きにおいてはそれもスルーされ、準備書を終えて、公式に住民意見を出す場がない状況にまでなってしまった。事業者は本当にこのまま計画を進めるのか、これまでの経緯を振り返りつつ、あらためて西条の石炭火力発電の問題を問うておきたい。
1.環境アセスメント~これまでの経緯~
西条発電所1号機リプレース計画の環境アセスメントは、2016年4月に配慮書が、その後同年9月には方法書が、2018年4月には準備書が公表され、非常に“迅速に”進んでいった。
環境影響評価のプロセスにおいて、地元で開催された四国電力主催の住民説明会では、地域住民はほとんど参加しておらず、計画について地元の人たちが知らないまま進んでしまった状況だといえる。準備書の住民説明会には他県の参加者が多く集まり、質問が相次いだ。質問に対する事業者の説明はまともに回答されておらず、かなり不十分でありながらも、たった1時間の延長で終止符が打たれてしまった。
この間の環境影響評価の情報については、他社の環境影響評価図書と同様、閲覧期間が終了するとすべて非公開となり、いまとなっては「あらまし」しか見ることができない。
環境影響評価準備書の公表をうけて、気候ネットワークが、冊子「西条発電所1号機リプレース計画~計画概要と問題点のまとめ~」をまとめ、審議会委員や市議会議員などに情報提供してきたので、準備書の段階で多少議論は活発になっていった。
愛媛県の環境審査会では、準備書の審査の段階で、石炭火力建設の是非、温室効果ガスの削減、温排水による生態系への影響、国内の未利用間伐材のバイオマス混焼の可能性について論点になった。しかしここでも事業者側の十分な説明はなく、国のエネルギー基本計画での位置づけを理由にその正当性を主張し、審査は終了となった。
準備書においての愛媛県知事意見では、石炭火力建設の是非については特に言及はなく、「国の温室効果ガス削減の目標・計画と整合するものとなるよう、(中略)可能な限りの二酸化炭素の削減措置を講じること」との指摘にとどまった。
環境大臣意見では、大量のCO2を排出することから「環境保全面から極めて高い事業リスクを伴う」とし、事業者に対しては、「2030年度及びそれ以降に向けた本事業に係る二酸化炭素排出削減の取組への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含め、あらゆる選択肢を勘案して検討することが重要」だと指摘「再検討」を求めている。しかし、その後の経済産業大臣の勧告においては、「省エネ法に基づくベンチマーク指標の確実な遵守」や「自主的枠組み全体の目標達成」など言及されただけで、実質的には計画の実施を認めるものとなった。
2.四国の今後の電力需要と原発との関係は?
改めて問いたい。四国に、50万kWもの新たな石炭火力は本当に必要なのか。
そもそも、四国電力の発電設備は火力の中でも石炭比率が高いため、「省エネ法に基づくベンチマーク指標の確実な遵守」や「自主的枠組み全体の目標達成」もかなり危うい状況である。とりわけ0.37kg-CO2/kWhという業界の排出係数の目標に対しては、現状でもこの数年間全く守られていない状況だ。伊方原発が稼働していた2010年には0.326/kWhだったものの、原発が全台停止となった2012年には0.656 kg-CO2/kWh、2013年は0.706 kg-CO2/kWhと排出係数が大きく推移しており、伊方原発3号機が稼働した2016年も0.529kg-CO2/kWh、2017年に0.535 kg-CO2/kWhと減っていないのである。伊方原発1、2号機はすでに廃炉が決定し、廃炉作業に着手しているところである。こうした状況下で0.751kg-CO2/kWhの大規模石炭火力が加わることは、目標達成からますます遠のくことになる。また、事業者が自ら言及しているように、「伊方原発3号機の稼働により西条発電所からの温室効果ガスの排出を相殺する」ことで目標を達成するとしているが、ようするに石炭火力を長期にわたって動かすことは、原発依存の体質をも温存し続けることになりかねない。
地元の脱原発市民団体である「原発さよなら四国ネットワーク」もこの問題に言及し、愛媛県議会宛に石炭火力発電所の新設中止(か一部閉鎖)を求める請願書を提出している。
四国電力の今後の電力需給の見通しでは、今後10年間で発電電力量は-0.2%減少することになっている。また、現状の電力予備率も十分にある。一昨年の夏の電力予備率は、実績値で109万kW、21.5%もあった。再生可能エネルギーの発電設備も急速に増え、新規参入の再エネ事業者や市民発電によるものや、四国電力としても水力を含め増強している状況だ。そして、電力需要の少ない時間帯には、国内ではじめて再生可能エネルギー100%を達成する状況も生まれた。こうした状況下で、2023年から新規稼働する石炭火力を建設することに本当に意味があるのだろうか。
3.四国電力の英断に期待~石炭火力から自然エネルギーへ~
IPCCの「1.5℃特別報告書」によれば、気温上昇を1.5℃にとどめるためには世界のCO2排出量を2010年比で2030年までに約45%減少し、2050年頃には実質ゼロとする必要がある。石炭火力の新設・増強を取りやめることはもちろん、既設の石炭火力についても早急に稼働を停止しなければこの目標は達成でできない。明らかにパリ協定に反する計画である。
今、世界の投資家たちは、石炭火力発電事業などを行う化石燃料関連企業からの投資撤退に向けた動きを活発にしている。ノルウェーの年金基金は、2017年にこうした投資撤退(ダイベストメント)を発表しているが、そのリストの中には四国電力も含まれていた。この先、新規石炭火力発電所をつくっても座礁資産になるリスクはますます高まるだろう。
一方、四国電力は2018年春に、宮城県仙台市で計画していた石炭を燃料とする仙台高松火力発電所建設計画から撤退する決断を下した。仙台市民は四国電力の勇気ある撤退に心からの歓迎の意を伝えている。
四国電力エリアは東京電力など他の電力エリアと比べても電力需要が少なく、自然エネルギーを活用できるポテンシャルも十分にある。四国電力が他の電力会社に先駆けて野心的なエネルギー政策に舵を切ることに期待したい。今なら、まだ間に合う。