2017年8月1日、環境大臣は中部電力が愛知県武豊町で計画している武豊火力発電所リプレース計画の環境影響評価準備書に対して事業の再検討を求める意見を経済産業大臣に提出したことを発表しました。この計画は、既設の3基(重原油焚き発電設備、合計出力112.5万kW)を廃止し、新たに1基(107万kW)にリプレースするものです。現在ある3基の年間発電電力量の実績は約45億kWhですが、新たな発電所では約75億kWhを発電すると計画され、実績とはかけ離れた量が見積もられているなど、問題が山積しています。2015年の配慮書の時点でも、環境大臣からは「是認できない」という意見が出され、計画当初から厳しい目が向けられてきました。パリ協定が発効され、日本も協定締結を受けた今般、今回の意見書は一層厳しい内容となっています。
今回の大臣の意見では、そもそも石炭火力発電によるCO2排出量は天然ガス発電の2倍であること、現時点で政府が決定した2030年のエネルギーミックスで定める石炭火力発電の割合26%を既に超える状況にあること、石炭火力発電所の増設・新設が多数存在すること、発電事業者にとって石炭火力は天然ガス火力よりも優先稼働するインセンティブが働くこと等を指摘し、今後CO2排出量が増加してしまうのではないかと強い懸念を示しています。これまで石炭に大きく依存してきた中国やインドを含む他国が脱石炭へシフトしつつある具体的な事例とともに、世界が脱炭素化の潮流に乗りつつある中で石炭火力は世界的に是認されなくなる可能性を指摘しています。これらのことから石炭火力発電は環境保全面からの事業リスクが「極めて高い」ことを事業者が自覚するよう促し、2030年度以降のCO2削減の道筋を示すことができない場合には事業実施の再検討を含めた検討をすることを求めています。大臣は、世界の流れに逆行して進められている計画に、NOを唱えているのです。
石炭火力をめぐる問題は、武豊火力発電所に限ったものではありません。気候変動政策の分析を行う研究機関Climate Analyticsの報告書によれば、パリ協定で設定した目標を達成するためには、日本は2030年までに石炭火力発電所をゼロにする必要があるとされており、これから新しく建てるなど言語道断です。他の事業者は、今回の大臣意見を他人事ととらえず、即刻事業計画を再考するべきです。
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