IEAレポート、クリーンエネルギーと大気汚染対策の投資をしないと大気汚染は今 後も悪化


IEA 2016年度版レポート「エネルギーと大気汚染」

2016年6月27日、国際エネルギー機関(IEA)が「世界エネルギー見通し2016年度版」の特別レポート「エネルギーと大気汚染」(原題:Energy and Air Pollution)を発表しました。今回のレポートの中でIEAは、世界各国がクリーンエネルギーと汚染物質の排出規制に数兆ドルを投資しなければ、大気汚染は今後数十年間にわたって悪化し、拡大し続けるとの見通しを明らかにしました。現在、世界保健機関(WHO)の試算によると、世界中で年間650万人の早期死亡が大気汚染に関連するとされています。その要因は、貧困層による持続的なバイオマスの利用による直接的な環境悪化(年350万人の死亡)や、経済成長に伴う石炭などの化石燃料の使用による汚染物質の排出増です。

しかし汚染物質規制とエネルギー部門の急速な転換への投資をわずか7%増加させると、2040年までに大気汚染に起因した死亡者数を半減させることができると本報告書は示しています。IEAはこれに関連して実用的かつ達成可能なシナリオを提案しています。

今回の報告書では、今後のエネルギーと大気汚染についての世界予測を示すとともに、大気汚染関連で重要な地域となり得る東南アジアやアフリカのほか、米国、メキシコ、中国、インド、EUといった国々についても分析を行い、発表しています。

きれいな空気は基本的人権の一つ

現在多くの国では深刻な大気汚染問題をなお抱えており、それどころか現状のままだと大気汚染による健康リスクは今後、高まっていくという見通しがでています。つまり人々が本来持っているはずの基本的人権の一つが大気汚染により侵され続けているという現状があります。

今回のIEA報告書は、大気汚染によって引き起こされる公衆衛生の危機、既存のエネルギーセクターの見直しの重要性を受けて取りまとめられたものです。

クリーンな大気シナリオ戦略

IEAのファティ・ビロル事務局長は、「経済発展ときれいな空気がトレードオフの関係にならないためにも、我々はエネルギー開発のやり方を見直す必要がある。いかなる国においても大気汚染に立ち向かう責務を果たしたとは主張できないはずだ。ゆえに各国政府は今すぐにアクションを起こす必要がある。効率的なエネルギー政策と技術は持続可能性を向上させることができる。」と指摘しました。

そのためにも、様々な国の状況に適合する「クリーンな大気シナリオ戦略」を基に、大気汚染物質の排出管理と発電部門におけるエネルギーの転換を目指すこと、そして産業におけるエネルギー効率の改善や、道路交通における排出基準の整備も重要となってくるでしょう。

今回の報告書では、上記の戦略に沿って各国政府が行動を取るために以下の3点を挙げています。

(1)大気の質を改善する長期目標を設定すること。この目標においては、全てのステークホルダーが認識できるようにする。様々な大気汚染の軽減オプションについて有効性を評価できるようにする。

(2)長期目標を達成するために、エネルギー部門に一連のクリーンエネルギー政策を導入する。汚染物質の直接の排出を管理規制するなどの費用対効果のある策を併用し、他のエネルギー政策目標と共通の恩恵がもたらされるようにする。

(3)政策の実施に際して監視、実行、評価、情報公開を行うべき。戦略を維持するために、信頼できるデータ、法の遵守に基づく継続した政策への取り組み、政策の改善、および素早くかつ透明性の高い情報公開が必要である。

石炭火力発電の危険性

今回のレポートにおいて、石炭火力発電は大気汚染を引き起こし、人体に甚大な疾病を引き起こすという実態が再確認されました。それゆえにIEAは各国政府に対し、なるべく早く、汚染につながるプラントの改善を求めています。同時に報告書では、クリーンコールテクノロジーが汚染物質を減らすことに寄与できるとも述べられています。しかしこの主張には数多くの批判も噴出しています。世界自然保護基金(WWF)の政策顧問であるStephan Singer氏は「石炭はクリーンではない。石炭は多かれ少なかれ二酸化炭素を排出し、最も気候システムに影響を及ぼすファクターである。我々は今後20年のなかで、石炭火力を段階的に、且つ出来るだけ早く廃止し再生可能エネルギーにシフトしていく事が求められる」という見解を示しています。

参照:

IEA – World Energy Outlook Special Report, Executive Summary, 27 June 2016.
PESS RELEASE: Small increase in energy investment could cut premature deaths from air pollution in half by 2040, says new IEA report, 27 June 2016.

関連報道:

Environmental Justice Australia – ‘International Energy Agency’s Air Pollution report acknowledges role of coal in air pollution deaths’, 27 June 2016.

WWF – ‘WWF responds to new IEA report on energy and air pollution’, 27 June 2016

Bloomberg:大気汚染による死者、数百万人削減には数兆ドルの投資必要-IEA(2016/6/27)