7月15日、気候ネットワークは、ペーパー「小規模石炭火力計画の調査報告書」を発表しました。これは、国や自治体の環境アセスメントの対象に一切なっていない7件の小規模石炭火力発電所新増設計画について、情報開示請求を行うなどして調査し、その結果をまとめたものです。
調査の結果、汚染排出データを隠し、住民への説明もしないまま工事を始めてしまっているケースもあるなど、問題があることがわかりました。
環境アセスメント逃れの小規模石炭火力発電所計画 一覧
- 石巻雲雀野発電所1号(宮城県石巻市、運営:日本製紙)
- 仙台パワーステーション(宮城県仙台市、運営:仙台パワーステーション)
- 鈴川エネルギーセンター火力発電所(静岡県富士市、運営:日本製紙)
- 名古屋第二発電所(愛知県知多郡武豊町、運営:中山名古屋共同発電)
- 名南エネルギーセンター(愛知県知多市、運営:名南共同エネルギー)
- 水島MZ発電所(岡山県倉敷市、運営:水島エネルギーセンター)
- 延岡発電所(宮崎県延岡市、運営:旭化成ケミカルズ)
「環境アセスメント逃れ」とは
一定の規模以上の火力発電を建設する際は、その悪影響をチェックする「環境アセスメント(環境影響評価)」を受ける必要があります。環境アセスメントとは、環境に大きな影響を及ぼす恐れのある事業について、事前調査、予測、評価を行い、影響を回避、縮小するためのもので、環境を守るためにとても重要な制度です。ところが、最近は、このアセスメントの基準をぎりぎり下回るような、「環境アセスメント逃れ」ともいえる計画が増えています。とりわけ、国の法律に基づく環境アセスメントだけでなく、自治体の条例に基づく環境アセスメントすら受ける必要のない計画は、第三者による環境影響のチェックを全く受ける必要がないため、法の網の目をすり抜けた格好になっています。
<環境アセスメントの対象事業>
対象事業 | 第一種事業(必ず環境アセスメントを行う事業) | 第二種事業(環境アセスメントが必要かどうかを個別に判断する事業) |
火力発電所 | 出力15万kw以上 | 出力11.25万kw〜15万kw |
【調査結果】効率の悪い旧式技術を採用、汚染排出は稼働中の発電所の約19倍も
情報開示請求によって公開された資料を見たところ、一切環境アセスメントを受けずに進められている計画は、効率の悪い1950年代の旧式の技術(亜臨界圧)が採用されていることがわかりました。また、汚染物質の排出が大きいことがわかりました。国内ですでに稼働している石炭火力発電所の約10倍も汚染物質を排出する案件もあり、大気汚染の悪化が懸念されます。
さらに、これらの発電効率や大気汚染に関する情報を開示せず、黒塗り(下図)にしたまま工事を進めている案件が複数あることもわかりました。あえて黒塗りで非開示にしていることから、発電技術や汚染対策のレベルは低いものと思われます。
また、ほとんどの計画で地元住民への説明が行われていませんでした。情報の非開示と合わせ、違法ではないものの、極めて不適切な状況であることがわかりました。
環境アセスメント制度の見直しと改善が急務
事業者は、新しい石炭火力発電所は「高効率」で「低排出」な「クリーン・コール(きれいな石炭)」の技術と宣伝しています。しかし、今回の調査からは、実際に計画され、ひどいものでは既に着工されている石炭火力発電所には、高効率でも低排出でもないものが複数あることがわかりました。地域住民を無視した計画の進行は認めがたい上、たとえ小規模であってもCO2やその他の汚染物質の排出が深刻な石炭火力発電所を野放しにするべきではありません。環境アセスメント制度を見直し、改善することが急務です。
補足:環境アセスメントとは
環境アセスメントの手続きは、配慮書・方法書・準備書・評価書・報告書の順序に従って進められ、対象事業が周辺の自然環境および地域生活環境などに与える影響について、県識者や住民、地方公共団体などの意見を取り入れ得ながら事業者自らが調査・予測・評価を行うものです。
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