火力発電の最新動向と10年後の見通し ~気候変動対策に逆行:「火力依存度増加」の傾向が浮き彫りに~


旧来型の方針を踏襲した長期戦略。わずかな前進も

6月のG20サミット前に閣議決定された「長期戦略」は、1.5~2℃目標の道筋とは整合しない旧来型のエネルギー基本計画を踏襲するものでした。しかし、その不十分な内容の中に、前向きに評価すべき点を見つけるとすれば、長期の方向として「脱炭素社会の実現に向けて、パリ協定の長期目標と整合的に、火力発電からのCO2排出削減に取り組む」ことを明記し、石炭火力については「非効率な石炭火力発電のフェードアウト等を進めることにより、火力発電への依存度を可能な限り引き下げる」という文言が入ったことでしょうか。「いつまでに」という具体的な期限はないものの、「脱炭素社会」に向けて、パリ協定と整合的に火力を低減するというメッセージが盛り込まれたのは一歩前進と言えないこともありません。なぜならば、今年3月に、供給計画を電力広域的運営推進機関(OCCTO)が発表した10年後の2028年の見通しから見えてくる実態は、まさに今後10年の、特に石炭に傾倒した「火力が主役」の実態が明らかになっているからです。

電源構成、2028年に石炭37%に

まずOCCTOのまとめた供給計画の取りまとめから言えることは、経産省がめざす2030年の電源構成(原発20~22%、再エネ22~24%、LNG27%、石炭26%、石炭3%)とはかけ離れていく見通しです。各電力事業者の報告では10年先までの見通しが求められているので、2030年までは示されていませんが、2028年までの傾向はつかめます。2015年に電源構成がまとめられた当初から、この数字は絵に描いた餅だと指摘されていました。その指摘は、環境NGOや研究者からだけではなく、産業界の代表者からも実現困難だと言われており、非現実的であることは明らかでした。

供給計画取りまとめでは、2028年に原発は再稼働を想定せず4%、再エネ26%、LNG29%、石炭37%、石油3%というものでした(グラフ1)。このうち、火力の動向に注目してみると、LNGが現状2018年の41%から10年後に29%と割合を大きく減らしているのに対し、石炭火力が現状の30%から2028年に37%と大幅に増加する傾向となります。LNGと石炭は「27:26」にするという経産省の目論見も大きくはずれているのです。事業者がこのような見通しを出しているのは、石炭の価格が安く、ベースロード電源として稼働率を高く保つことで減価償却しなければならないという特性からだと考えられます。

 グラフ1・発電端電力量の推移(全国合計)

 

発電設備も石炭・LNGが今後10年で拡大

グラフ2・電源構成の推移(全国合計)

次に全国の発電設備の状況です。気候ネットワークでは、石炭火力に関してウォッチし、増加傾向にあることに対して再三警鐘を鳴らしてきました。2028年度までの発電事業者による新設計画からもその傾向は明らかです。さらに、増加しているのは石炭だけではなく、LNGもほぼ同規模で新設計画があります。火力の中では、石油火力だけは新設がほとんどなく廃止計画が進み、設備量を減らしているものの、石炭は824.1万kW、LNGも781.7万kWと新規計画があります。全体としてみれば「火力依存を低減する」どころか、増加傾向にあるのです。

非効率石炭火力の「フェードアウト」も進まない

新規計画が増えている一方、2028年度までの発電事業者による廃止計画では、石炭が75.6万kWと新設計画の1割にも達しません。新設計画で事業者の説明でも「古い発電設備を廃止することで環境負荷を低減する」というのが常套文句でしたが、実態は下表のとおりまるで違います。LNGは528.7万kWと石炭よりは多く廃止計画が出されているものの新設計画の規模にはおよびません。つまり現状では「非効率の石炭火力をフェードアウトする」という状況からも、ほど遠い実態であることがわかります。さらに、経済産業省は来年から「容量市場」を新たに導入する準備をすすめているため、火力発電所の「フェードアウト」どころか、基本的には使われないような旧型火力もゾンビのように生き残らせるインセンティブが働くことになるでしょう。

表・2028年度末までの電源開発計画

新設計画 廃止計画
出力(万kW) 地点数 出力(万kW) 地点数
石炭 824.1 13 △75.6 3
LNG 781.7 16 △528.7 10
石油 6.0 12 △405.3 32
1611.8 41 △1009.6 45

※(出典:電力広域的運営推進機関「2019年度供給計画の取りまとめ」)

LNGの設備稼働率は33.6%に低下

CO2排出量を減らすのであれば、石炭火力よりはLNG火力を使う方がマシな選択です(もちろん目指すべきは省エネの徹底と再エネ100%です)。石炭とLNGのCO2排出係数を比べると、石炭がLNGの2倍以上あるからです。しかし、OCCTOが示した電源別の設備利用率は、石炭が約7割程度と横ばいであるのに対し、LNGが2018年に53%だったのが10年後には33.6%と20ポイントも下がり、「火力のCO2削減」ともかけ離れた状況であることが明らかになりました。

グラフ3・電源別設備利用率の推移(全国合計)

※(出典:電力広域的運営推進機関「2019年度供給計画の取りまとめ」)

脱石炭から、脱ガスへと前進を

経済産業省は現在、2030年の電源構成で示された各電源の割合の達成を目標に、エネルギー供給構造高度化法、省エネ法などに数値目標を含めた制度を織り込み、電力市場を事実上歪めていく政策を次々と導入していますが、いずれにしてもこのままでは2030年エネルギーミックスの達成が不可能であることは確実です。「火力発電からのCO2排出削減に取り組む」には、炭素税など化石燃料全般への対策も必要ですが、まずは石炭火力規制などの政策強化が不可欠です。

さらに、パリ協定に整合することを目指すには、石炭対策の強化だけでも不十分です。欧州を中心とした「脱石炭」の動きは一定の効果をあげてきているため、今は天然ガスを含めた「脱化石燃料」の早期実現に向かっています。「脱石炭」にすら逆行する日本では、天然ガスは環境に良いかのようなイメージが定着しているところがありますが、「脱炭素社会」の実現には天然ガスも今後大幅な削減と早期ゼロに向けていくことが必要です。

鍵を握るのは省エネと再エネの大幅な増強と系統の強化です。風力や太陽光は、世界的に大幅な低コスト化の傾向にあり、日本でも将来は火力に対して競争力を持つ価格帯になるという研究も出てきています。しかし、こうした市場競争とは別に容量市場の導入など火力や原子力の温存に拍車をかける手厚い政策がとられているため、事業者は座礁資産になるリスクを回避できると考え、「安心して」石炭計画を推進しているのでしょう。明らかに政策の失敗です。火力に長期戦略で示された「脱炭素社会の実現」「火力発電からのCO2排出削減」「非効率な石炭火力発電のフェードアウト」「火力発電への依存度の引き下げ」と示したからには、政府はその実現に向け、現状を変えるための政策転換と再エネを加速させる制度の見直しに着手すべきです。

参考:電力広域的運営推進機関「2019年度供給計画の取りまとめ」(2019年3月

※ 気候ネットワーク通信 第128号 2019.9.1 掲載記事