【レポート】COP29に向けてUNEPが「排出量ギャップ報告書」を公表


国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)に先立ち、国連環境計画(UNEP)が、各国の排出量削減目標や現状の政策とパリ協定の1.5℃目標との間にどれほどの「ギャップ(ズレ)」が生じているかを示す『Emissions Gap Report 2024: No more hot air … please!(排出ギャップ報告書 2024)』を公表しました。サブタイトルの「これ以上暑いのはもう要らない!」に気温上昇の切迫した状況があふれています。

今年は世界各地で甚大な気象災害があり、多くの犠牲者を出しています。11月7日(現地時間)には、欧州連合(EU)の気象機関「コペルニクス気候変動サービス」が、2024年の世界の平均気温が1850‐1900年の産業革命前の平均気温との比較で初めて「1.5℃」を超えるとの見通しを発表しました。これは今年の世界平均気温が、パリ協定で目標としている産業革命前の水準よりも1.5℃以上高くなる見込みが科学的に示されたことを意味しています。この気温上昇を裏付けるように、2023年の世界のCO2排出量は過去最多を更新しており、UNEPは、このまま各国が「現行の政策」を続けるなど最悪のシナリオが取られた場合には世界の平均気温は、今世紀中に「最大3.1℃の破滅的な気温上昇につながる」可能性があると警告を発しています。

UNEPのインガー・アンダーセン事務局長が「気候変動の正念場を迎えている」と述べているように、パリ協定で設定された気温上昇を1.5℃に抑えるという目標は風前の灯火となりつつあるのが現状です。

報告書に示された厳しい現実

  • 2023年の世界の温室効果ガス排出量は、前年比1.3%増の57.1ギガトン(GtCO2e)で過去最多を記録。部門別でみると電力部門が15.1GtCO2e(26%)で引き続き最大の排出源であり、運輸(8.4GtCO2e、15%)、農業と工業(両部門とも6.5GtCO2e、11%)と続く。
  • 主要排出国や世界各地域の現在の排出量、一人当たりの排出量、過去の排出量には大きな格差がある。
  • 最初に提出された国が決定する貢献(Nationally Determined Contributions, NDC)以降、野心と行動は停滞し、各国は世界的に不十分な緩和約束を2030年に達成する軌道からも外れている。
  • ネット・ゼロに向けたG20の排出量予測には、懸念すべき理由がある。各国は現行のNDCとネットゼロ目標を掲げているが、いまだに排出量のピークに達していない国の場合、残された時間は非常に短い。
  • 2030年と2035年の排出ギャップは、温暖化を1.5℃に抑える経路と2℃に抑える経路のいずれと比べても依然として大きい。気温上昇を2℃あるいは1.5℃に抑えるためには、2035年のNDCをそれぞれ2019年のレベルより37%と57%削減する必要がある。
  • 2020年以降、時間が経過することで地球温暖化の予測は深刻化し、ギャップが埋まる可能性を減少させている。
  • 条件付きNDCシナリオに基づく気温予測は、既存の政策に基づく予測よりも0.5℃低い。早急な行動が重要である。現在の政策を続けた場合、今世紀中の地球温暖化は最大3.1℃(範囲:1.9~3.8℃)上昇すると推定される。無条件または条件付きNDCシナリオが示唆する緩和努力を続けたとしても、世界の平均気温は今世紀中に2.6~2.8℃上昇する。
  • G20は、排出量ギャップを埋める上で重要な責任を担っている。
  • 2030年や2035年までに多くの排出を削減できるポテンシャルはあるものの、限られた時間の中でポテンシャルを実現するには、根強い課題を克服し、政策、支援、資金を大幅に増強する必要がある。
出典:2019年の排出量に対する、2030年までのG20加盟国全体および個別のNDC目標およびギャップの状況 [UNEP, Emissions Gap Report 2024]

クリーンエネルギーへの希望

  • 太陽光発電技術と風力発電の導入を拡大させることで、2030年までに27%、2035年までに38%の総排出削減を達成できる可能性がある。
  • 森林に関する行動をとることによって、2030年、2035年までに必要な削減量の約20%を補うことができる。
  • 部門ごとの温室効果ガス排出削減ポテンシャルの最新評価では、2030年と2035年の排出量ギャップを埋めるには、2030年までに最大31GtCO2/年(範囲:25-35)、2035年までに41GtCO2/年(範囲:36-46)削減すれば1.5℃目標を達成できる可能性が残されている。

この報告書で指摘されたギャップを埋めるには行動と資金が必要です。報告書中の冒頭文書でアンダーセン事務局長は、「実現させるためには、特に世界でも最大の排出国であり、世界経済を支配しているG20諸国が重い腰を上げ、政府全体によるアプローチ、トレードオフを削減しつつ、社会経済と環境のコベネフィット(ひとつの政策や行動から複数の恩恵をもたらすこと)を最大化する対策をとり、気候変動の緩和への投資を最低でも6倍に増やすことが必要」であると述べています。

各国は、来年2月が提出期限とされている、2035年に向けたNDCの削減目標を大幅に引き上げ、直ちに行動に移さなければなりません。

UNEP:Emissions Gap Report 2024

参照

国連ニュース:‘Climate crunch time is here,’ new UN report warns
「気候危機は正念場を迎えている」と国連の『排出ギャップ報告書2024』が警告(UN News 記事・日本語訳

動画

Launch of UNEP’s Emissions Gap Report 2024 (YouTube Link)
It’s Climate Crunch Time. It’s Time to Level Up. #EmissionsGap (YouTube Link)

作成・発行:国連環境計画(UNEP)
発行:2024年10月24日