石炭火力の設備容量規模が国内第2位の事業者である電源開発株式会社(以下、J-POWER)が、5月9日に「J-POWERグループ中期経営計画2024-2026」を発表しました。その中で今後の国内火力トランジションの方向性を提示し、休廃止にする石炭火力発電所の名称を明らかにしましたが、いずれも老朽化した非効率石炭火力発電所で、積極的な廃止に向けた動きとは言い難いものです。
ポイント1.確実な廃止は老朽化した3基だけ
今回2030年度までに廃止すると発表されたのは、松島火力1号機(1981年運転開始、2024年度末に廃止予定)と、高砂火力1・2号機(それぞれ1968年・1969年運転開始)の3基だけです。松島火力1号機については、2023年の10月に「松島火力発電所の今後について」をリリースした際に、2024年度末をもって廃止にすると発表していたものなので、今回の発表で新たに追加されたものではありません。高砂火力は、発電所の稼働状況を示すデータベース上(5月8日時点)で6月4日まで運用停止となっており、実質的な稼働率は低いものと思われます。
また、竹原火力3号機(1983年運転開始)と松浦火力1号機(同1990年)については、休廃止もしくは予備電源化予定となっているので、廃止が確約されたとは言えません。2基とも排出係数の高い発電技術(SC:超臨界)を用いた非効率石炭火力発電所で、稼働から30年以上経過している設備です。2020年に経済産業省が、2030年度までに非効率石炭火力発電所を段階的に休廃止するとの方針を示した時点で、早期廃止を決断すべき設備であったと言えます。
ポイント2.「トランジション」で削減できるのか?
今回のトランジション方針において、磯子火力1,2号機、竹原火力1号機、橘湾火力1,2号機、松島火力2号機、石川火力1,2号機および、共同出資会社である鹿島パワーが運営する鹿島発電所2号機については、水素・アンモニア混焼、バイオマス混焼、石炭ガス化複合発電(IGCC)設備追加、またはCO₂回収貯留(CCS)の導入といった排出削減対策を行う方針が示されています。これらの対策は、これまでにJBCでも指摘してきたようにCO2削減効果がほとんどなく、今回の計画でも削減効果は具体的に示されていません。
また、この中で、松島火力2号機は、ガス化炉を追加するGENESIS松島計画として、既に環境アセスメントが進められていますが、その他の計画の時期は2030年以降となっています。これは、先のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で日本も合意したコミュニケに示された「2035年までにCO2の排出削減対策が講じられていない石炭火力を廃止する」との公約に整合するものでもありません。
ポイント3.今回提示した以外の石炭火力発電所はどうするのか?
今回、廃止もしくは休廃止・予備電源化すると名前があがったのは5基(計2,700MW)のみで、J-POWERが国内で保有する石炭火力の設備容量(計9,224MW)の約3割弱にすぎません。それ以外の石炭火力発電所については、すべてが計画通りに進んだとしても、2035年以降も石炭を燃料とする発電を続けることになります。「トランジション」策によって「CO2の排出削減対策を講じた」と位置づけることで、段階的廃止対象から逃れ、2035年以降も石炭火力発電所を稼働させる考えでは、1.5℃目標に整合する2050年ネットゼロは達成できません。
また、松島2号機、松浦2号機、石川1・2号機、竹原1号機にはCCSの導入が予定されていますが、大規模石炭火力発電所から排出される大量のCO2をすべて回収・貯留できるCCSの実現性は、水素・アンモニア混焼技術の確立同様に不確かなものです。
J-POWERを含めた電力事業者は、1.5℃目標に整合するタイムラインで既存の石炭火力発電所を段階的に廃止する必要があり、消費者である我々は、事業者の廃止計画が国際合意に準じて着実に進んでいるかをしっかり確かめていかなければなりません。
関連情報
【プレスリリース】Jパワーが一部石炭火力休廃止を発表-5基では不十分、1.5℃目標に整合する脱石炭の方針を打ち出すべき(2024年5月13日)(リンク)