【レポート】水素・アンモニア発電の脱炭素への貢献は限定的 – 京都大学研究


京都大学の研究者が、2024年3月4日付けの国際学術誌 Nature Communications に、水素・アンモニア発電の脱炭素社会への貢献は限定的であるとの論文を発表しました。

京都大学都市環境工学専攻の大城賢 助教と藤森真一郎 教授は、世界全域を対象としたエネルギーシミュレーションモデルを用い、脱炭素化に向けた水素・アンモニア発電の役割について分析を行いました。この結果、再生可能エネルギー等から製造された水素・アンモニアを発電に活用することが火力発電からの排出削減に寄与する可能性があると期待される一方で、その稼働時間は太陽光・風力発電の出力が低下する時間に限定されることから、水素・アンモニア発電が発電電力量に占める割合は最大でも1%程度に留まり、発電部門での水素・アンモニアの活用は限定的であることが示されました。

日本政府および大手電力会社は、当面は低炭素水素に限定せず、あらゆる由来の水素・アンモニアを発電燃料として利用することで脱炭素を図ろうと巨額の資金を投じて開発を進めるだけでなく、この策をアジア諸国にも展開しようとしていますが、世界的には、水素・アンモニアは代替のない分野での利用が考えられています。今回の研究では、将来人口、経済成長、技術の進展(効率・コスト等)を入力条件として、CO2排出量、エネルギー需給、エネルギー技術の導入量および費用を推計するモデル(AIM/Technology)を用いて、水素・アンモニアの費用が大きく低下する場合も含めたさまざまな条件におけるシミュレ―ションを行った結果、以下のことが明らかになったと記されています。

  • 2℃や1.5℃目標を達成する場合は、水素価格が大きく低下する条件下でも、火力発電による発電量は減少し、水素・アンモニア専焼・混焼発電が世界の発電量に占める割合は、最大で1%程度に留まる。
  • 水素価格が大きく低下するシナリオでは、世界の火力発電設備の約半数が水素混焼設備付きとなる可能性が示されたが、これらの設備の稼働期間は再生可能エネルギー(太陽光・風力)の出力が大きく低下するごくわずかな時間帯に留まる。
  • 水素・アンモニアの混焼率が高くなるほど、石炭・ガスへの炭素税に伴うCO2排出費用は低下する一方、水素・アンモニア調達による燃料費が増加するため、費用面での利点は少ない。

水素・アンモニアを化石燃料の代わりに混焼または専焼する場合、その水素・アンモニアが再生可能エネルギーによってつくられた電力で製造されていれば、CO2排出削減の選択肢となりえます。さらに水素を、変動性再生可能エネルギー( VRE )の調整(電力貯蔵オプション)として利用することは可能です。太陽光発電や風力発電のコストが低下し、再生可能エネルギーによって水を電気分解する低炭素水素供給の増加も見込まれていることから、グリーン水素の混焼を電力部門における脱炭素化の選択肢のひとつとして考えることは可能です。しかし、特定のシナリオにおいて水素混焼が採用される可能性が残るとはいえ、電力部門における化石燃料の段階的廃止が進むのに伴い、水素混焼を含む化石燃料による火力発電所による発電量は急速に減少し、この点からも水素混焼による発電量は総発電量に比べてごくわずかに留まると予測されています。

本研究は、これまでは電力部門における水素の利用を評価した研究があまりなかったため、水素の潜在的な役割に関する知識にはまだいくつかのギャップがあり、水素混焼が座礁資産リスクの回避に与える潜在的な影響についてもまだ十分な検討がされていないと指摘しています。

電力部門における水素の利用による発電全体への影響は限定的

化石燃料ベースの発電量はいずれのシナリオでも減少する中、シナリオによっては水素混焼が採用される可能性は残されているものの、研究で分析したシナリオにおける水素混焼発電の割合は総発電量に比べればごくわずかに留まり、複数のシナリオを鑑みたとしても、2050年における割合は1%未満であると結論付けています。シナリオによって化石燃料との水素混焼が増加しても、それがVREの調整を担うバックアップ電源として使用されることから、年間平均設備利用率は低く抑えられる(ガス混焼で30%未満、石炭混焼で5%未満)ことになると見ています。これに対し、CCS付きの化石燃料火力発電所は、2050年には水素混焼よりも高い設備利用率(ガスで最大70%、石炭で最大30%)になると示しています。

シナリオによって差異はあるものの、水素混焼が脱炭素化に果たす役割は限定的であるという知見はゆるがない

本研究では脱炭素に向けた水素混焼の役割についても言及していますが、シナリオによっては水素混焼が石炭火力やガス火力の座礁資産化を削減することができるとしつつも、必ずしも費用対効果が高いとは限らず、水素混焼がバックアップ電源としての化石燃料発電の代替になれば排出量を削減することはできますが、座礁資産化への影響は限定的であると述べています。

また、燃料としての水素は製造コストがかかるので、均等化発電原価(LCOE)はシナリオによって異なりますが、水素混焼発電のLCOEが混焼を行わない発電よりもはるかに高くなるものもあることが示されています。とはいえ、水素混焼のコスト上のデメリットは大きく影響を受けないので、水素混焼がVREのバックアップとしてのみ採用され、その結果、水素混焼による発電全体への寄与が限定的であるとの知見に変わりはありません。

本研究は、異常気象や自然災害といった極端な状況に対して脆弱な太陽光発電や風力発電を利用した電力システムのバックアップ電源として水素およびアンモニアなどは魅力的な選択肢のひとつではあるものの、発電部門における水素・アンモニアの利用は限定的であり、その一方で、航空・輸送燃料としての水素・アンモニア利用は、比較的進みやすいと述べています。

関連リンク

京都大学リリース:脱炭素社会における水素・アンモニア発電の貢献は限定的であることを解明
Nature Communication : Limited impact of hydrogen co-firing on prolonging fossil-based power generation under low emissions scenarios, DOI 10.1038/s41467-024-46101-5

作成・発行:Nature Communications(著者:大城賢、藤森真一郎)
発行:2024年3月4 日