【レポート】国際環境法センターが沖合海底下CCSのリスクのレポートを公開


国際環境法センター(Center for International Environmental Law, CIEL)は、2023年6月23日に沖合海底下での二酸化炭素回収・貯留(Carbon Capture and Storage, CCS)のリスクに関するレポート「Deep Trouble: The Risks of Offshore Carbon Capture and Storage」の要約版を発表、11月16日に全体版を発表しました。

気候変動対策の一環として、回収した二酸化炭素(CO₂)の潜在的な貯留場所として沖合への注目が高まっています。化石燃料大手および関連事業者は、石油、ガス、石炭を段階的に廃止するのではなく、代わりにCO₂排出を回収し、海底または陸地の地表下に注入することによって半永久的に貯留することができると主張していますが、大規模なCCSは実証されていないのが現状であり、その実現性および、生態系、地域社会、気候に対する悪影響についてには大きな疑問が持たれています。

このレポートの中でCIELは現在日本を含む先進国や化石燃料産出国を中心に盛んに計画されているCCSの中でも、特に沖合海底下CCSについての問題点や課題を指摘し、この技術が脱化石燃料の解決策にならないと結論づけています。最も確実なCO₂排出削減の方法は化石燃料の生産と使用を減らすことであり、陸上であれ沖合海底下であれCCSは喫緊の課題である石炭、石油、天然ガスのフェーズアウトから目をそらさせる危険な目眩ましに過ぎないと述べています。

主な調査結果

  • 沖合海底下CCSはかつてない規模で推進されている
     現在、世界中で少なくとも 38 件の沖合炭素隔離(offshore carbon sequestration)が計画されており、現在の沖合圧入量のほぼ100倍に相当する年間1億6,500万トン以上のCO2を貯留すると推定している。地域は、米国のメキシコ湾、ヨーロッパの北海など、数十年にわたって石油やガスの掘削が行われてきた海域に集中している。
  • 現存する沖合海底下CCSプロジェクトは、大規模だが数は少なく、技術の実現可能性に疑問を投げかけている
     現在、CO₂を圧入している沖合貯留場所(a dedicated offshore storage site)はノルウェーの2カ所のみであり、それらのプロジェクトの状況から、大規模なCCSを安全に管理するための取り組み、技術的ノウハウ、規制力が欠けている可能性があると指摘している。
  • 沖合海底下CCSには計算外のリスクがともなう
     海底にCO₂を注入することは、計算外のリスクと未検証のモニタリング上の課題がある。地下水を汚染し、地震を引き起こし、有害な塩水の堆積を押し出すなどといった潜在的な危険性の管理がテストされていない。また、運搬や貯留での漏洩リスクは気候変動対策上、大きな影響を及ぼすことも危惧される。CCSが大規模に導入された場合、 漏洩率が0.1%であっても、21世紀に最大で25ギガトンの追加CO₂排出となる可能性がある。
  • 長年使われている油井やガス井との相互作用により、漏洩のリスクが悪化
     石油やガスを掘削するためにあけられた抗井が逃げる道となり、漏洩または貯留(封じ込め)失敗という最大のリスクをもたらす可能性がある。沖合海底下CCSの貯留地候補として提案されているメキシコ湾などには、すでに多くの抗井が掘られており、規制当局は、検知や監視はされていないが、既存の井戸の多くからすでに漏洩している可能性があると認めている。
  • 沖合海底下 CCS は、未経験の監視という課題を生む
     海洋における産業活動を監視することは難しい。政府のレポートは、パイプラインや井戸の監視が組織的に欠如していることを示しており、CCSの監視(モニタリング)においても同様の監督上の課題が生じることになる。
  • 既存の沖合インフラでは日常的に問題が生じており、沖合海底下CCSでも同様の漏洩が発生しやすいシステムに依存することになる
     沖合パイプラインや石油輸送では漏洩が頻繁に発生している。石油・ガス業界が既存の沖合インフラの管理に失敗していることを踏まえれば、提案されている沖合海底下CCSを安全に管理できるかは疑問である。
  • 沖合海底下CCSは、海洋に取り返しのつかない被害をもたらす可能性があり、海洋はすでにストレスに晒されている
     沖合海底下CCSに伴うパイプランの敷設などは、漏洩がなくとも沿岸及び海の環境を著しく乱す可能性がある。しかも、漏洩やパイプラインの破裂が実際に発生した場合、大量の CO2が海中に放出され、取り返しのつかない被害をもたらす可能性がある。
  • 法制度は沖合海底下CCSのリスクに対する防波堤となるが、強化が必要
     沖合海底下CCS の規制枠組みは不完全であるが、どのような海洋活動も既存の国内及び国際的な法制度に関係する。法制度は沖合海底下CCSプロジェクトのリスクに対する防波堤となる。一部の国際機関や各国当局はCCSの潜在的な影響を評価し、新しい規則を検討しているが、沖合海底下CCSに関する無数の新たな未知のリスクを把握する必要がある。
  • 沖合海底下CCSの価格は高騰しており、その大部分は公的資金から賄われることになる
     沖合海底下CCSはコストが高く、新しい計画の多くは公的補助金に大きく依存しているが、公的資金がなければ、沖合海底下CCSプロジェクトは経済的ではない。沖合海底下CCSに公的補助金をつぎ込むことは、既に実績があり、利用可能な再生可能エネルギーやエネルギー需要削減などへの投資を振り分けることになってしまう。
  • CCSは約束された排出削減に到達しておらず、化石燃料施設の稼働を継続させ、エネルギー転換を遅らせる
     CCSは、CO₂を回収して排出量を大幅に削減または排除すると約束しているが、ほとんどのCCSプロジェクトは失敗に終わっている。CCSの大部分で約束されたCO₂回収を達成できていないことも報告されており、CCSは化石燃料施設の稼働を継続させ、化石燃料の段階的廃止を遅らせることになる。また、大規模CCS設備の建設は、政府機関に多大な監視負担をもたらし、環境不正義を悪化させることになる。

CCSは気候危機の解決策ではなく、気候変動への取り組みを遅らせ、化石燃料の段階的廃止を引き延ばす産業界の戦略です。壊滅的な気候変動を回避するためには、化石燃料からの公正かつ公平な転換を加速させ、世界の海に見られるような重要な自然生態系を保護するための早急な対策が必要であるにも関わらず、沖合海底下CCSはそのどちらも実現することはできません。こうした結論に基づき、レポートの全体版には政府への提言も記されています。

各国政府への提言

  • 沖合海底下CCSプロジェクトの開発ラッシュを止める。
  • 沖合海底下のプロジェクトを含むCCSへの公的補助金を廃止する。
  • 国際的なCO₂取引と貯留からの保護と制限を確立する。
  • 沖合海底下CCSの新たな推進が海洋と海洋環境にもたらすリスクを回避する。
  • 地域社会、環境、地球気候をより良く保護するために、既存の法的枠組みを解釈する。
  • 沖合海底下CCSによる被害を防止するため、国内および国際レベルでの規制体制を強化する。
  • CO₂の上流発生源からの影響を海洋貯留プロジェクトに関する評価に含める。
  • 「炭素管理」においては本質的に非効率で危険な戦略であるとして、CO₂を注入するために長距離輸送することを排除する。
  • 沖合環境において、原油増進回収(EOR)またはガス増進回収(EGR)を目的にCCSを行うことを禁止する。
  • 気候危機の症状ではなく、根本原因に対処する対策を優先する。

日本のCCSに関する取り組みへの示唆

政府は現在2030年までに国内外で年間貯留量600〜1,200万t、2050年までに年間貯留量1.2〜2.4億tという膨大な量のCO₂を貯留する計画を立て、多額の公的資金を投入して技術開発やモデル事業の実施を行い、関連制度整備を急いでいます。しかし本レポートでも指摘されている通り、CO₂の沖合海底下貯留には多くのリスクが存在しており、そのコストも高く、拙速な事業実施や制度構築は将来的にそれらのリスクの顕在化に繋がったり、国民負担の増大をもたらしたりする恐れがあります。冒頭でも述べた通り、最も確実なCO₂排出削減の方法は化石燃料の生産と使用を減らすことであり、そういった観点から日本におけるCCSの取り組みについては再検討が必要でしょう。

関連リンク

CIELレポートダウンロードページ
要約版:Deep Trouble: The Risks of Offshore Carbon Capture and Storage (June 2023)(リンク
全体版:Deep Trouble: The Risks of Offshore Carbon Capture and Storage (November 2023)(リンク

作成・発行:国際環境法センター(Center for International Environmental Law (CIEL))
発行:2023年11月26日