10月31日、電源開発株式会社(以下Jパワー)は「松島火力発電所の今後について」と題したプレスリリースを発表しました。その中でJパワーは2つの大きな発表を行っています。1つは2024年度末をもって、松島火力発電所の1号機を廃止すること、そして2号機をGENESIS松島計画の工事に向けて休止することです。もう1つはこれまで2024年工事開始、2026年度運転開始としていたGENESIS松島計画をそれぞれ2年延期すること(2026年工事開始、2028年度運転開始)です。
松島火力発電所は長崎県西海市松島にある、1981年の稼働開始から40年以上が経過する老朽石炭火力発電所です。1、2号機共に超臨界圧と呼ばれる旧式の発電技術を用いており、年間に約600万t-CO2(2019年度実績)という大量の温室効果ガスを排出しています。日本が2050年カーボンニュートラルや2035年までの電力部門の全部または大宗の脱炭素化といった国際合意を達成する必要があることを考えれば、一刻も早く廃止されるべき石炭火力発電所と言えます。
1号機が2024年度末までに廃止されれば、年間約300万t-CO2(2019年度実績)の温室効果ガスの排出削減となるので、その点については、遅いとはいえ歓迎すべき決定と言えます。
一方でJパワーはGENESIS松島計画については、着工時期を当初の予定より延期するものの、強い継続の意思を示しています。GENESIS松島計画は既存の2号機に石炭ガス化設備とガスタービン、そして排熱回収ボイラーを後付けする計画です。計画ではガス化した石炭を用いたガスタービンで約11万kWを発電し、排熱回収ボイラーを用いて約7万kW分の蒸気供給を既存の2号機のボイラーに行います。これらを通じて石炭による発電出力を下げ、全体としては現2号機の出力と同等の約50万kWを維持しつつ、温室効果ガスの排出を削減しようとしています。また、将来的にはアンモニア・バイオマス混焼、CO2の分離回収、石炭からの水素製造と水素発電も行うとしています。
しかし、現状のGENESIS松島計画によって削減される温室効果ガスの削減効果はJパワーの試算でも10%程度で、発電効率としては最新の石炭火力発電技術(超々臨界)と同程度になるにすぎません。また将来的なアンモニア・バイオマス混焼についてはその開始時期も規模も不明確なままです。そして石炭からのCO2の分離回収、水素製造・発電についても、現状では製造の際に発生するCO2を分離回収する技術は、石炭ガス化設備で作り出されるガスの17%という相対的に小規模な量の処理が実証できているにすぎません。さらに分離回収される膨大なCO2の処理については、輸送方法および貯留先は確定できていません。
なお、今回の計画延期によって、松島火力発電所の立地地域は2024年度末に1号機が廃止、2号機が休止となることで、一時的に松島火力発電所が閉鎖されたのと同じ状況に直面することとなります。しかし、GENESIS松島の着工予定が2年後ろ倒しされただけで、白紙撤回されたのではないことから、立地地域が将来においても環境・経済に大きな影響を及ぼす石炭火力発電所を抱え続けることに変わりはありません。
Jパワーは、真のカーボンニュートラルの実現に向け、早期にGENESIS松島計画中止の判断をすべきです。また、松島火力発電所も含めた保有するすべての火力発電所についてフェーズアウト計画を示し、発電所立地自治体が脱炭素社会に向けた地域づくりを進められるようにする必要があります。さらに政府は、国内すべての既存石炭火力発電所をフェーズアウトする目標年次を定めたうえで、その具体的な道筋を描き、着実に石炭火力の廃止を進めると共に、公正な移行に向けた地域支援を始めるべきです。
参考:
Jパワー 「松島火力発電所の今後について~GENESIS松島計画の推進とCO2削減目標に向けた既存設備の更新~」(リンク)
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