11月6日からエジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されていた国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)は、会期を2日延長して20日に閉幕しました。この会議全体の決定は、「シャルム・エル・シェイク実施計画(Sharm el-Sheikh Implementation Plan)」としてまとめられました。COP27において、気候変動による「損失と損害(ロス&ダメージ)」に特化した資金支援の設立につき合意できたことは大きな成果です。成果文書には、基金創設を決定するとともに、新たに「移行委員会」を設けて詳細を検討するとしています。一方、気候変動を抑えるために何よりも重要な温室効果ガスの排出削減対策に関しては前進がなく、昨年のCOP26でのグラスゴー合意を踏襲するに留まったことは非常に残念です。
「損失と損害」基金の創出
この基金は、気候変動の悪影響を軽減する対策(適応)に取り組み、それでも生じる損失と損害に対する資金支援を提供するものです。これまで先進国は、「損失と損害」に特化した資金支援の仕組みが設けられることで、莫大な費用負担が発生することを強く懸念していましたが、近年、大規模な気候変動の被害が世界各地で多発し巨大な損失が生まれていること、適応には限界があると示されたことが、この基金の設立の後押しとなりました。資金の調達および配分方法などの具体的な制度設計に関しては、2023年にアラブ首長国連邦(UAE)の首都ドバイで開催されるCOP28での採択を目指して、検討されることになっています。実効力のある制度を構築し、その制度が持続されるための議論が行われることが期待されます。
化石燃料からの脱出は
いくら新しい基金ができても、年々大きくなる損失と損害を抑えるには、気候変動の原因である化石燃料の燃焼を一刻も早く止める必要があります。昨年のCOP26では、特に欧州勢から温室効果ガスを多く排出する石炭火力発電の早急な利用停止を求める声があげられていましたが、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受け、一時的な措置ながらも石炭火力発電を再開する国も出てきていることから、温室効果ガスの排出削減は進んでいません。このような状況においても、COP26合意(石炭火力の段階的削減)からさらに踏み込んで「化石燃料の段階的削減」を推進する意見もありましたが、温室効果ガスの排出削減を加速させずに経済を発展させたいという意見があるのは否めず、COP27における化石燃料の部分の合意はグラスゴー合意を踏襲するものとなりました。11月20日付のUNFCCCによるプレスリリースでは「前例のない世界的なエネルギー危機が、エネルギーシステムをより安全で信頼性が高く、回復力のあるものに早急に変革する緊急性を強く示している」とも記されていますが、これからの10年間でいかにクリーンで公正な再生可能エネルギーへの移行を加速させていくかが重要でしょう。
日本の「化石賞」受賞
日本を含む締約国は、化石燃料廃止の道筋に合意することもありませんでした。カバー決定における石炭火力に関する記載は、「段階的削減」という昨年の表現の踏襲にとどまったままです。日本からは、西村明宏環境大臣が2週目の閣僚級交渉に出席したものの、岸田首相が姿を見せることはありませんでした。日本は、先進7カ国(G7)の中で唯一、新規の石炭火力発電所の建設を進めています。2019年から2021年にかけて年間平均106 億ドル(約1.5兆円)の公的資金を化石燃料関連事業に拠出したことに加え、石炭火力の延命につながる石炭とアンモニアの混焼を国内で推進するだけでなく、諸外国に輸出しようとしていることなどを指摘され、昨年に続いて今年も「本日の化石賞(Fossil of the Day)」に選ばれています。水素・アンモニアを石炭との混焼、または専焼を脱炭素政策としているのは日本特有の主張です。また、このままCO2排出量が削減されなければ、2030年には1.5℃目標の総排出量を超過するとの指摘もあり、すべての化石燃料の削減を求める文言が入るに至らなかったとはいえ、早急な対策が急がれます。
「公正な移行」に向けて
世界は 1.5℃目標を達成するだけでなく、目標達成のための道筋に関心を寄せています。にもかかわらず、日本は石炭火力発電所の運転を開始し、国外の化石燃料プロジェクトに多額の投資を行い、石炭火力の延命にもなりかねないアンモニア混焼技術を途上国に輸出しようとしています。今回、COP27の決定文書には「実施-公正な移行の道筋( Implementation – Just Transition Pathways)」の段落が設けられました。ここには、1.5℃目標達成のためには社会・経済的移行において、全てのステークホルダーの参加と社会的保護が必要であるることが明確に記されています。日本は世界が求める「公正な移行」*の文脈で、日本のエネルギー転換の道筋を見直す必要があるのです。
*エジプトでは気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)とパリ協定第4回締約国会議(CMA4)が同時期に同会場で開催され、それぞれの会議の最後に決定文書が作成されました。基本的な内容は同じですが、条約・協定のカバーする内容によって盛り込まれる内容が一部異なっており、「公正な移行」の計画についてはCMAカバー決定(11月29日現在)に記載されています。
関連リンク
UNFCCC:Cover Decision, Sharm el-Sheikh Implementation Plan
COP決定 気候変動枠組条約締約国会議(COP)によるカバー決定(11月29日現在)(Link)
外務省:国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27) 結果概要(リンク)
気候ネットワーク:
【プレスリリース】 2日延長してCOP27閉幕 Loss&Damageの基金の創設へー1.5℃目標に向けて削減目標と実施の強化へ(2022年11月20日)(リンク)
COP27/ CMP17 / CMA4 シャルム・エル・シェイク会議(2022/11/6~)会議場通信Kiko(リンク)
WWF:気候変動に関する国連COP27会議結果報告(リンク)